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ゾーンアーキテクチャの実現には、高性能なマイコンや安全設計だけでなく、それらをつなぐ“通信基盤”の進化が不可欠です。従来のCAN中心の構成から、車載Ethernetをバックボーンとするネットワーク型構成へ。車両内部の通信は、いま大きな転換期を迎えています。

本記事では、車載Ethernetがなぜ必要とされているのか、そしてゾーンアーキテクチャを支える技術として重要なTSN(Time Sensitive Networking)の基礎について、分かりやすく解説します。

はじめに|なぜ“通信”が車両設計の中心になるのか

第1回では、分散型・ドメイン型・ゾーン型というE/Eアーキテクチャの進化を整理しました。

ゾーンアーキテクチャでは、各エリア(ゾーン)に配置されたコントローラと中央のHPC(High Performance Computer)が密接に連携します。そのため、車両内部の通信基盤は、単なる補助機能ではなく、アーキテクチャそのものを支える中核要素になります。従来の分散型やドメイン型では、CANやLINといった制御向け通信が中心でした。しかし、SDV(Software Defined Vehicle)の考え方が広がる中で、通信に求められる役割は大きく変わっています。

では、従来主流だったCANは、なぜその役割を担い続けることが難しくなったのでしょうか。

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なぜCANでは足りなくなったのか

CANは車載制御用途に非常に優れた通信方式です。長年にわたり車載通信の主役ということもあり安定的な強みもありますが、課題もあります。

強み 課題
ノイズ耐性が高い 最大速度の制限
制御用途に適している バス型トポロジーの制約
構成が比較的シンプル 大容量データの非対応

従来のアーキテクチャではCANでも十分でしたが、現在の車両では、ADAS用カメラ映像(数百Mbps規模)、OTAアップデートデータ(数GB単位)、センサー融合用の大量データ、クラウド連携通信などのデータが扱われます。よって、CAN FDでも最大8Mbps程度であり、映像や大容量データには対応が困難です。

また、ゾーンアーキテクチャでは、複数ゾーンから中央HPC(High Performance Computer)へ同時通信、制御データと映像データの混在といった状況が発生するため、より高速かつ柔軟な通信基盤が必要になりました。そこで注目されているのが、より高速で柔軟な通信基盤である「車載Ethernet」です。

車載Ethernetについて

車載Ethernetは、民生Ethernetをベースに、自動車用途向けに最適化された通信規格です。

  • 高速(100Mbps~1Gbps以上)
  • 100BASE-T1 / 1000BASE-T1などのシングルペア配線
  • 強化されたノイズ耐性
  • 広い温度範囲への対応
  • 長期信頼性設計


といった強みがあり、制御データと大容量データを同一ネットワーク上で扱える点が最大の特長です。従来のCANが“制御向け通信”であったのに対し、車載Ethernetは“制御+データ統合通信”を担います。

項目 CAN FD 車載Ethernet
最大速度 約8Mbps 100Mbps~1Gbps以上
トポロジー バス型 スター / ツリー型 / リング型
データ量 小規模制御向け 大容量データ対応
用途の拡張性 主に制御系などのECU間通信

制御通信、映像(カメラ)、OTA、クラウド連携、など多用途


しかし、単に高速なだけでは車両制御には使えません。制御信号には「必ず決められた時間内に届く」という要件があります。その課題を解決するのがTSN(Time Sensitive Networking) です。

TSN(Time Sensitive Networking)とは?

Ethernetは本来、「速いが順番やタイミングの保証が弱い」通信方式です。データは基本的に空いているタイミングで送信されるため、インターネット用途では問題ありませんが、車両制御では事情が異なります。

例えば、ブレーキ制御信号、ステアリング制御信号などは、リアルタイム性が不可欠となり、決められた時間内に必ず届く必要があります。ただ、ゾーン構成では各ゾーンから中央HPC(High Performance Computer)へデータ集中し、カメラ映像+制御信号が同時に流れる、という状況になるため、もし優先制御がなければ、映像データが帯域を占有、制御信号が遅延といったリスクが生じます。

そこで重要となるのがTSNです。TSNは、時間同期、帯域予約、優先制御を可能にします。通常のEthernetを「一般道路」とするなら、TSNは「優先レーン付き高速道路」というイメージです。よって、通信の種類ごとに通行ルールを設定できるため、例えば、映像データ、制御信号、診断通信などを同一ネットワークで安全に共存することができます。

つまり、TSNは「Ethernetを車載制御レベルまで引き上げる技術」と言えます。

半導体に求められる役割

第1回の記事でも触れましたが、ゾーン構成ではハードウェアとして通信機能を前提としたマイコンやネットワークデバイスが必要になります。

Macnicaで取り扱うインフィニオン社の車載マイコンAURIX™シリーズは、マルチコア(ロックステップコア)、ハードウェアセーフティ機構、内蔵のHSMを備え、ゾーンコントローラや安全制御用途に適した高機能マイコンとなります。

また、インフィニオン社では2025年にMarvell Technology社より車載Ethernet事業を買収したため、車載EthernetのSwitch、PHYのラインナップにより、ゾーン構成における高速・高信頼通信基盤の構築に貢献します。

是非一度ご検討ください。

まとめ|通信設計がアーキテクチャ設計になる時代

車載Ethernetは単なる高速通信ではありません。ゾーンアーキテクチャでは、

・ 帯域設計

・ リアルタイム保証

・ 冗長構成

・ セキュリティ設計

を統合的に考える必要があり、通信設計そのものが、E/Eアーキテクチャ設計に直結する時代に入っています。

次回は、この「ゾーン化とセキュリティ設計」の関係をさらに掘り下げます。

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