車載E/Eアーキテクチャは分散型からドメイン型、そしてゾーン型へと進化しています。本記事ではゾーンアーキテクチャの基本構造と、従来方式との違いを初心者でも分かりやすく解説し、SDV時代に求められる設計思想もあわせて紹介します。
はじめに|車の中の電子システムはどう変わってきたのか?
近年、車は「走る機械」から「走るコンピュータ」へと進化しています。
これらの進化を支えているのが、車両内部の電子・電気システム、いわゆる E/Eアーキテクチャ(Electrical / Electronic Architecture)です。しかし現在、このE/Eアーキテクチャが大きな転換期を迎えています。その理由を理解するために、まずはこれまでの進化の流れを見てみましょう。
分散型・ドメイン型・ゾーン型アーキテクチャの違い
これまで、車載E/Eアーキテクチャは大きく3段階で進化してきましたが、ある日突然ゾーン型に移行するというわけではありません。これまでの技術的課題や車両機能の高度化に対応する中で段階的に進化し、具体的にSDVの量産を実現する車両メーカーが出てきたこともあり、やっとゾーン型への移行が見えてきました。その流れを理解するために、まずは「分散型」、「ドメイン型」、「ゾーン型」の違い、それぞれのメリットと課題について見てみましょう。
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分散型アーキテクチャ 機能ごとにECUを配置 |
ドメイン型アーキテクチャ 似た機能をまとめて1つのECUで制御 |
ゾーン型アーキテクチャ 物理的なゾーンで分けてまとめて制御 |
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例 |
・ パワーウィンドウECU ・ エンジン制御ECU ➣ 1機能=1ECUの考え方 |
・ パワートレインドメイン ・ ボディドメイン ・ ADASドメイン |
・ 前方 / 後方 ・ 右側 / 左側 ➣ 物理的なエリア(ゾーン)の考え方 |
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メリット |
・ 機能ごとに独立して開発可能 ・ 不具合が他に波及しにくい |
・ ECUの数をある程度削減可能 ・ 制御の統合化 |
・ 配線削減による軽量化 ・ ソフトウェア管理の効率化 |
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課題 |
・ ECUの数が増えやすい ・ 配線の複雑化 ・ 車両重量の増加 |
・ 依然として「機能中心」の設計 ・ ドメイン間の連携の複雑化 ・ ソフトウェア統合の難易度 |
・ 中央コンピュータへの依存 ・ セキュリティ設計の高度化 ・ 電源・熱設計の難易度上昇 |
イメージ
分散型アーキテクチャ
ドメイン型アーキテクチャ
ゾーン型アーキテクチャ
比較のまとめ
| 項目 | 分散型 | ドメイン型 | ゾーン型 |
| 設計基準 | 機能単位 | 機能グループ | 物理エリア |
| ECUの数 | 多い | やや削減 | さらに削減可能 |
| 配線 | 複雑 | 改善 | 大幅に削減可能 |
| ソフトウェア管理 | 分散 | ドメイン単位 | 中央集中 |
分散型、ドメイン型、ゾーン型を並べてみると、車載E/Eアーキテクチャが「機能中心」から「統合・集約」へと進化してきたことが分かります。
・ 分散型: 機能ごとに独立したシンプルな構成
・ ドメイン型:機能をグループ化して統合を進めた構成
・ ゾーン型: 物理配置を基準に再設計した構成
つまり、進化の方向性は一貫して「複雑化した車両をどう整理するか」にありますが、ゾーンアーキテクチャは、その整理の方法を“機能”から“物理エリア”へと大きく転換した点が特徴です。では、この設計思想の転換は、車両開発にどのような影響を与えるのでしょうか。次の章では、ゾーンアーキテクチャが注目されている背景を見ていきます。
なぜゾーンアーキテクチャが注目されているのか?
そもそも、なぜゾーンアーキテクチャという方式が生まれたのか。背景にあるのは、SDV(Software Defined Vehicle)の考え方です。
SDVとは、ソフトウェアによって機能が定義され、アップデートで進化する車両のことです。スマートフォンを例にすると、ハードウェアの機能が伴っていれば最新のアプリケーションやOS(Operation System)をダウンロードして更新することにより、スマートフォン自体は古い型式でも、機能としては最新の状態になります。車両もスマートフォンと同じで、最新の機能へのアップデートやバグの修正などがネットワークを通じてできるようになるため、安全性、快適性、エンターテインメント性などの機能を追加・更新できます。よって、車両は単なる移動手段から進化し、設計思想もハードウェア中心から、ソフトウェア中心の設計へと考え方が変わりつつあります。
また、SDVでは、頻繁なソフトウェアのアップデート、柔軟な機能追加、集中的に車両データを活用するといったことが前提になりますが、従来の分散型やドメイン型では、ソフトウェアの更新対象が多い、ECUごとの管理が必要、セキュリティ対策が分散するといった課題がありました。それを、ゾーンアーキテクチャではデータを中央に集約することにより配線を簡素化し、ソフトウェアも集中管理することができるため、セキュリティ面の対策も含めてSDVとの親和性が高まり、昨今注目されつつあります。
ゾーンアーキテクチャの構成イメージと課題
ゾーンアーキテクチャは、車両の各エリアにゾーンコントローラ(ECU)を置き、それらを中央部分(セントラル)の高性能コンピュータにつなぐ構成になります。 配線削減による軽量化やソフトウェア管理の効率化といったメリットはあるものの、設計思想が大きく変わるため実際には課題もあります。ここでは、どういう課題があり、その課題にMacnicaとしてどのようなお手伝いができるかも含めて簡単に紹介します。
中央集中化による単一点故障リスク
ゾーンアーキテクチャでは、中央の高性能コンピュート(HPC)に多くの機能が集約されます。その結果、1つのECU障害が車両全体へ波及する可能性、フェールセーフ設計の複雑化、ASIL要求レベルの上昇などの課題が生じ、技術的には
・ ASIL-D対応マイコン
・ Lockstep構成
・ 冗長ネットワーク設計
・ 安全監視機能
といった高い安全性能を持つ車載マイコンが重要になります。
Macnicaで取り扱うインフィニオン社の車載マイコンAURIX™シリーズは、マルチコア(ロックステップコア)、ハードウェアセーフティ機構、内蔵のHSMを備え、ゾーンコントローラや安全制御用途に適した高機能マイコンとなりますので、是非一度ご検討ください。
車載Ethernet化によるネットワーク設計の難易度上昇
ゾーンアーキテクチャでは、CAN中心の構成から車載Ethernet中心のバックボーン構成へと移行します。これにより、通信帯域設計、リアルタイム性の確保(TSN)、ネットワーク冗長設計、EMI/EMC対策といった課題が発生します。Ethernetは高速である一方、“設計が難しい”インフラでもありますが、インフィニオン社では2025年にMarvell Technology社より車載Ethernet事業を買収したため、車載EthernetのSwitch、PHYのラインナップにより、ゾーン構成における高速・高信頼通信基盤の構築に貢献します。
セキュリティリスクの集中化
ネットワークがEthernet化され中央集約が進むことで、サイバー攻撃のリスクも拡大します。主なリスクとして、OTA*経由の侵入、バックボーン通信の盗聴・改ざん、鍵管理の複雑化などがあげられますが、ゾーンアーキテクチャではネットワーク全体を前提としたセキュリティ設計が必要になります。技術的には
・ セキュアブート
・ 鍵管理基盤
・ 通信暗号化
・ 脆弱性管理
といったサイバーセキュリティ対策を考える必要がありますが、Macnicaで取り扱うイータス社は、サイバーセキュリティの課題にさまざまなアプローチからお手伝いが可能です。
*OTA(Over-the-Air):無線通信を経由して、スマートフォン、車載システム、IoT機器のソフトウェアをアップデートする技術
まとめ|E/Eアーキテクチャは進化の途中にある
分散型からドメイン型、そしてゾーン型へ。車載E/Eアーキテクチャは、車両機能の高度化とともに進化してきました。その進化の流れを見ると、一貫しているのは「増え続ける機能と複雑さを、どう整理し、どう統合するか」という課題です。
分散型では機能ごとの独立性を重視し、ドメイン型では機能をグループ化して統合を進め、ゾーン型では物理配置を基準に再設計することで、構造そのものを見直しています。しかし、ゾーンアーキテクチャは“完成形”ではありません。
・ 中央集中化による安全設計の高度化
・ 車載Ethernetを前提としたネットワーク設計
・ サイバーセキュリティ対応の強化
・ ソフトウェア規模拡大への対応
といった新たな課題も同時に生まれています。つまり、E/Eアーキテクチャは今まさに「進化の途中」にある状態 だと言えます。
今後は、ハードウェア設計、ソフトウェア設計、セキュリティ設計を切り分けて考えるのではなく、車両全体を1つのシステムとして最適化する視点がより重要になり、ゾーンアーキテクチャは、その第一歩にすぎません。
次回以降の記事では、
・ 車載Ethernetの役割
・ セキュリティ設計の具体像
・ 安全設計(ASIL)との関係
といった観点から、さらに掘り下げていきたいと思います!
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