生態系調査における課題とは
自然環境の調査や動物のモニタリング、あるいはインフラの保全に至るまで、社会を支える多くの現場では「音」を手がかりに状況把握を行う重要性が高まっています。しかし、これらの体系的な調査には依然として多くの課題が存在します。まず、人手不足がその代表例です。専門的な知識を持つ調査員が限られているうえ、山間部や災害リスクの高いエリアなど、過酷な環境での長時間作業が必要になることから、現場の負担は大きく、継続的な調査体制を維持することが困難です。
さらに、調査に伴うコストも無視できません。人件費だけでなく、収録機材の設置・維持、膨大な音データの解析作業など、プロセス全体に高い費用が発生します。
データを研究機関に持ち帰って解析する従来の方法では、時間もコストも嵩み、迅速な意思決定につながりにくいという課題があります。
加えて、調査現場では通信インフラや電源の確保が大きな障壁となります。森林や山岳地帯、離島、施設の奥まった場所など、ネットワークが届かない地域ではリアルタイムのデータ送信が難しく、機材のバッテリー交換や保守のために頻繁に現地へ赴く必要があります。
このような物理的制約が、調査効率と調査精度の双方を低下させてきました。
こうした「人手」「コスト」「機材」という三重の課題が、従来型の調査手法では避けて通れないボトルネックとなっています。三重の課題を解決する手段として、近年注目されているのが 音を活用したエッジAIソリューション です。
本記事では音を活用したエッジAIソリューションをご紹介します。
バッテリー駆動式音声識別エッジAIシステム
本システムは、野生動物や家畜などの「鳴き声」を手がかりに、その場で種類を識別し、結果をリアルタイムに可視化するエッジAIソリューションです。
バッテリー駆動で動作するため、電源の確保が難しい山間部や保護区でも運用が可能で、最小限の構成で広範囲をカバーできます。
※2025/12時点では評価ボードを用いたPoC作成中
「鳴き声」を検知・識別・可視化するエッジAIシステム
●エッジAIによる音声識別:リアルタイムで鳴き声の動物を特定
●高拡張性:デバイス追加でカバー範囲を柔軟に拡大可能
●コスト軽減:最小限の構成で導入コストを削減
●低消費電力:バッテリー駆動可能で電源不要
作成したタカとワシの識別をするデモ
本デモでは、Infineon社製のBLE MCU「CYW20829」とMEMS Mic「IM69D130」を用いています。鳴き声を識別するAIモデルは、同じくInfineon社が提供している「DEEPCRAFT™」という開発環境を用いて作成しました。
2025/12時点では、推論した結果をクラウドに送信するHubおよび可視化サーバーは開発中のため、推論結果はUARTでPCに送信して表示しています。
グラフは、時間ごとの音声区間に対してAIがどの鳥と判断したかを示しています。
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ピンク:Golden Eagle(タカ)
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青:Northern Goshawk(ワシ)
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グレー:未分類(unlabelled)
音声が入力されると、「この時間帯の音はどの鳥の可能性が高いか」を確率的に分類します。
0:04~0:20:ワシの鳴き声再生→ピンクのグラフ(ワシの確立を表す)が立ち上がる
0:21~0:36:タカの鳴き声再生→青のグラフ(タカの確立を表す)が立ち上がる
想定ユースケース
- 保護区などでの希少動物モニタリング
- 農業地域での鳥獣害対策(例:イノシシ)
- 大学・研究機関での調査
まとめ
本検証では、タカとワシの鳴き声を識別するAIモデルを用い、音を活用したエッジAIシステムの有効性を確認しました。
識別対象となる音声データを変更することで、他の鳥類や野生動物、さらには環境音や設備音など、さまざまな音声を識別するAIモデルを搭載することが可能です。
用途や目的に応じたAIモデルを用意することで、用途に応じたソリューションを構築することが可能です。
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