ワイドバンドギャップ半導体が注目される理由とは?
スマートフォンからEV、再生可能エネルギーまで、私たちの生活を支える多くの機器には半導体が使われています。
その中で近年よく耳にするのが「ワイドバンドギャップ(WBG)半導体」です。
Fortune Business Insightsの調査によると、WBG 半導体市場は2024年時点で20.8億米ドル規模と評価されており、2034年には62.2億米ドルへ拡大すると予測されています(※1)。年平均成長率(CAGR)は14.71%と高水準であり、WBG半導体が今後大きな成長ポテンシャルを持つ市場であることが示されています。
※1 出典:WIDE BAND GAP SEMICONDUCTOR MARKET SIZE AND FUTURE OUTLOOK(Fortune Business Insights)
Wide Band Gap Semiconductor Market Size, Share [2032]
WBG半導体は、従来のSi(シリコン)と比べて広いバンドギャップを持つことから、高耐圧・低損失・高速スイッチングといったデバイス特性を実現できます。これにより、WBGデバイスを用いることでアプリケーションの高容量化・高効率化・高周波化が可能となり、エネルギー効率や機器性能のさらなる向上に貢献しています。
このような技術進化を背景に、Siをベースにしつつ、SiC(シリコンカーバイド)やGaN(ガリウムナイトライド)といった新しい材料を用途に応じて使い分ける時代になってきています。
バンドギャップとは?
バンドギャップとは、電子が存在できないエネルギーの幅のことです。
この幅が広いほど絶縁破壊電界が大きくなる傾向にあり、半導体デバイスは高電圧や高温、高周波といった過酷な環境でも安定して動作できるようになります。
絶縁破壊電界とは、半導体が電圧に耐えられる限界値を示す指標です。一般的に高耐圧化するとオン抵抗(電流が流れるときに発生する損失や発熱の要因)が上昇するというトレードオフが生じます。
しかし、絶縁破壊電界が高い材料ではこのトレードオフを緩和できるため、同じ耐圧でもSiCやGaNはSiに比べてオン抵抗が低く、損失や発熱が小さく抑えられます。そのため、デバイスの小型化を実現しつつ放熱性能を確保することが可能となります。
- Si:バランスの取れた特性で、幅広い分野に活用されている
- SiC / GaN:バンドギャップが広く、Siを補完する次世代材料
バンドギャップが広いことで、以下のようなメリットが生まれます。
・絶縁破壊電界が高くなり、高耐圧デバイスを小型化できる
:材料自体が高電圧に耐えられるため、半導体層を厚く積む必要がなく、同じ耐圧でも小型化が可能です。
・熱伝導性や耐熱性に優れ、冷却負担を軽減できる
:熱を逃がす力が強く、また高温環境でも特性が安定するため冷却装置を小さくできます。システム全体の効率アップや軽量化に貢献することが可能です。
・高速スイッチングにも適し、電力損失の削減につながる
:電流のオン・オフを短時間で切り替えられるため、スイッチング時に発生する損失(熱)が少なくなります。高周波動作が可能になるため、など周辺部品の小型化にも繋がります。
こうした特性から、電力変換効率の向上やシステム全体の小型・軽量化に大きく貢献しています。
材料ごとの特長比較
ここで、現在広く使われているSiと、新しい選択肢として活用が進んでいるSiC・GaNの特長を簡単に整理してみます。
材料 |
主な特長 |
主な用途(アプリケーション) |
Si |
長年使われており製造技術が成熟 供給面が安定 安く大量に生産できてコスト優位 実績豊富で信頼性が高い |
全ての電子機器 PC、スマホ、家電、車載機器など |
SiC |
高耐圧・高効率 オン抵抗が低くスイッチング損失が小さい 高温でも冷却負担が少なく安定した動作 |
EVインバーター 産業用電源 再生エネルギー機器 鉄道 |
GaN |
高速通信や高周波動作に強い 超高速スイッチング 電源回路の周辺部品を小型化できる |
通信機器 データセンター用電源 急速充電器 5G基地局 |
Si-SiC-GaNの主な特長と用途

Si-SiC-GaNのポジショングラフ
Siは依然として幅広い分野を支える主力材料です。
一方で、より高耐圧や高効率が求められる領域ではSiCが、高周波化や小型化が重視される分野ではGaNが強みを発揮します。
それぞれの特性を活かして使い分けることが、次世代の電子機器開発において重要になっています。
もっと詳しく知りたい、ワイドバンドギャップ半導体
この記事ではSi、SiC、GaNの基礎について簡単に整理しました。
次世代半導体として活用が進んでいるSiCとGaNについて、より詳細な特長やアプリケーション動向を知りたい方は、以下の記事をご覧ください。