60GHzミリ波レーダーを用いた浴室環境での人検知デモ
この記事では、Infineon社の60GHzミリ波レーダーが搭載された評価ボードを用いたデモをご紹介します。
水や湿気の影響を最小限に抑えるためにレーダーの感度を調節し、シャワー中の人であっても確実な存在検知が可能です。
このソリューションは家庭の浴室だけでなく、下記のような場面で高齢者の転倒防止や子供の安全管理に活用することができます。
このソリューションが活用できる場所
- 温泉・サウナ施設
- 介護施設
- プール施設
- 学校
まずはデモ動画をご覧ください
※技適未取得機器を用いた実験等の特例制度(総務省のWebサイト)を利用
今回使用した評価ボード
R60ATR2

搭載されているInfineon製品
・60GHzミリ波レーダー:BGT60TR13C
特徴
・検出距離:最大5m
・FOV(視野角):±50°
・電源電圧:5V
・消費電流:93mA(推定) ※より低消費電流なカスタマイズも可能
・サイズ:35×31×7.5mm
搭載されているInfineon社製ミリ波レーダー製品ページ(Infineon社のWebサイト)
評価ボードのブロック図

水の影響を抑えるアルゴリズム処理の流れ
水の影響を受ける環境、特に浴室のような空間では、反射やノイズが多く発生し、正確な人の検出が難しくなります。MicRadar社のアルゴリズムは、そうした水の影響を可能な限り抑えながら、人の動きや静止状態を適切に検出することを目的としています。そのために、以下のような一連の処理を行います。
1. IF信号取得

まず、送信された電波が環境内のさまざまな物体に反射し、受信される信号との周波数の差分から IF(中間周波数)信号 を取得します。この信号には、人の体からの反射だけでなく、壁や床、さらには水滴や蒸気からの反射も含まれています。そのため、この時点の信号は水の影響を多く受けており、そのままでは正確な人の動きの検出は困難です。
2. 各チャープごとに1次元FFT(レンジFFT)

次に、取得したIF信号に対して 1次元FFT(高速フーリエ変換) を適用します。この処理を行うことで、距離ごとに異なる周波数成分に分解することができます。つまり、各反射波が「どの距離から戻ってきたものか」を識別できるようになります。この時点では、水の影響を受ける反射成分と人の反射成分が混在しているため、後の処理でこれらを適切に分離することが必要となります。
3. FFT結果をサンプル数で割り平滑化
FFTの結果をそのまま利用すると、環境ノイズや小さな変動が強調されてしまい、水滴や蒸気などの影響が大きくなります。そのため、FFTの結果を サンプル数で割る ことで、データを平滑化し、極端な変動を抑制します。この工程により、より滑らかなデータとなり、安定した解析が可能になります。
4. ドップラーFFTによる速度情報の解析
レンジFFTによって距離ごとの情報が取得できた後、次に行うのが ドップラーFFT(速度解析) です。ドップラーFFTを適用することで、対象が移動しているかどうか、またどの方向にどの程度の速度で動いているかを計測することができます。この処理を行うことで、水滴や壁などの静止物と、人の動きとをより正確に区別することが可能になります。
具体的には、ある距離において時間ごとの位相変化を解析し、その変化の大きさによって 「静止しているのか」「移動しているのか」 を判別します。この情報は、後のアルゴリズムで転倒検知や長時間静止の検出に活用されます。
5. アルゴリズム処理
ここまでの処理によって得られた距離と速度の情報をもとに、水の影響を可能な限り抑えながら、人の状態を正確に検出するためのアルゴリズム処理 を行います。
具体的には、浴室のような環境では、シャワーの水滴や湯気がレーダー信号に影響を与えやすいため、それらの影響を考慮したフィルタリングや、過去のデータとの比較による外れ値の除去を行います。さらに、通常の人の動きと比較して異常な動きを検出することで、浴室内での転倒や、長時間動かない状態(意識喪失や異常事態) などを識別できるように調整することも可能です。
6. MTI処理
最後に、MTI(Moving Target Indication:移動ターゲット検出)処理を適用し、静止物や水滴による不要なノイズを除去する フィルタリングを行います。この処理では、主に「動いているもの」を強調し、「静止しているもの」を排除することが目的です。
たとえば、浴室の壁や床、水滴などは基本的に移動しないため、それらの成分を削減し、主に「人の動き」に関係する信号を抽出 します。これにより、水の影響を最小限に抑えつつ、より正確な人物の検出が可能になります。
お問い合わせはこちら
何かご質問があれば、お気軽にお問い合わせください。