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はじめに

近年、スマートスピーカーやワイヤレスイヤホン、ノイズキャンセリング機能を備えたヘッドセットなど、音声を活用する機器が急速に普及しています。さらに、車載機器や産業用モニタリング装置などでも、音を「検知する」技術が求められるようになりました。

こうした音声インターフェースや環境音センシングの発展を支えているのが、MEMSマイクロフォン(Micro-Electro-Mechanical Systems Microphone)です。半導体製造プロセスを用いて形成された極めて小型なマイク素子であり、従来主流であったECM(Electret Condenser Microphone)と比べて、高い一貫性・信頼性・音質を実現しています。

特に、近年のMEMSマイクは高S/N比(Signal-to-Noise Ratio)や広いダイナミックレンジを備え、人のささやき声から環境騒音まで幅広い音を高精度に取得できます。

本記事では、MEMSマイクロフォンの基本的な仕組みとECMとの違いを整理しながら、Infineon社製MEMSマイクが持つ特長についてわかりやすく解説します。

MEMSマイクロフォンとは

MEMSマイクロフォン(Micro-Electro-Mechanical Systems Microphone)は、半導体プロセスを利用してシリコン基板上に形成された微小なマイクロメカニカル構造を用いた音響センサーです。音波を電気信号に変換する基本原理は従来のElectret Condenser Microphone(ECM)**と同じですが、構造と製造方法に大きな違いがあります。

MEMSマイクロフォンの構造と動作原理

MEMSマイクは主に以下の3つの要素で構成されています。

  1. MEMSダイ
     音圧を受けて振動する薄いダイアフラム(可動膜)と、固定電極を組み合わせた可変コンデンサ構造を持ちます。音波が入射するとダイアフラムがわずかに変形し、その容量変化が電気信号に変換されます。

  2. ASIC(信号処理IC)
     MEMS素子で得られた微小な信号を増幅・整形する回路を内蔵しています。ノイズを抑え、一定の出力レベルに調整する役割を担います。

  3. パッケージ構造
     音が入る開口部(トップポートまたはボトムポート)を備えた小型パッケージに封止されます。近年はSMT実装に適した金属または樹脂パッケージが主流です。

左図:Infineon社BottomポートMEMSMicrophone  右図:MEMS構造概略図

MEMSマイクロフォンの特長

MEMSマイクは、半導体プロセスによって高精度に製造されるため、以下のような特長を持ちます。

  • 小型・薄型化が容易:スマートフォンやイヤホンなど、限られたスペースに適合

  • ばらつきの少ない安定した性能:製造プロセスの均一性による高い再現性

  • 低ノイズ・高S/N比:高感度でクリアな音声取得が可能

  • 高AOPで大音量にも対応:音割れを抑え、幅広い入力音圧に対応

  • 電力効率に優れる:低電圧動作でモバイル機器にも最適

項目

説明

感度

標準的な音圧に対する出力電圧

信号雑音比(S/N比)

高感度かつ低ノイズで高音質を実現

AOP(Acoustic Overload Point)

歪みが発生し始める最大音圧レベル。大音量環境でもクリアに収音可能

全高調波歪率(THD)

忠実な音再現を確保

動作電圧

低電圧駆動に対応

消費電流

モバイル機器での省電力設計に適合

ポートタイプ

設計レイアウトに応じて選択可能

インターフェース

システム構成に柔軟対応

MEMSマイクのダイナミックレンジは、上記のAOPとS/N比の差(例:120 dB − 69 dB ≒ 51 dB)として算出されます。AOPが高いほど、ノイズの少ない広い音圧範囲を扱うことができます。

このように、MEMSマイクロフォンは小型・高音質・高AOP性能を同時に実現できる点で、従来のECM(Electret Condenser Microphone)からの置き換えが進んでいます。
両者の構造・性能・実装性を比較しながら、その違いを詳しく見ていきます。

Memsマイクロフォンの代表的な指標

MEMSマイクロフォンを選定・比較する際には、音質だけでなく、使用環境やシステム構成に関わる複数の仕様指標を総合的に確認することが重要です。
特に、感度やS/N比、AOPといった音響性能に関する指標に加え、出力形式や電源条件、防水・防塵仕様などは、最終製品の設計自由度や信頼性に大きく影響します。
ここでは、MEMSマイクロフォンにおいて代表的な指標と、その意味を簡単に解説します。

●感度

一定の音圧(通常は94 dB SPL)を入力したときの出力レベルを示す指標です。
デジタル出力のMEMSマイクでは dBFS で表記され、通常の音声レベルに対して、デジタル信号のどの範囲を使用するかを示します。感度が高すぎると大音量時に飽和しやすく、低すぎると小音量時のノイズが目立ちやすくなります。

●S/N比

有効な音声信号とマイク内部ノイズの比率を示す指標です。
S/N比が高いほど、周囲が静かな環境や小さな音でもクリアな音声取得が可能となり、音質を左右する重要なパラメータです。

●AOP

マイクの出力が規定の歪みレベルに達する最大入力音圧を示します。
AOPが高いほど、大音量環境でも音割れしにくく、広い音圧範囲に対応できるため、騒音環境や産業用途では特に重視されます。

●出力形式

マイクの出力信号の形式を示し、主にアナログ出力と**デジタル出力(PDM、I²Sなど)**があります。
デジタル出力はノイズ耐性が高く、マイコンやDSPとの接続に適している一方、アナログ出力は回路設計の自由度が高く、高S/Nを活かした設計に向いています。

●動作電圧/消費電流

マイクが動作するために必要な電源条件と消費電力を示します。
低電圧・低消費電流の製品は、バッテリー駆動機器や省電力が求められるアプリケーションに適しています。

●防水防塵仕様

水や粉塵に対する耐性を示す指標で、IP規格(例:IP57など)として定義されます。
屋外機器や産業用途、ウェアラブル機器など、使用環境が厳しいアプリケーションでは重要な選定ポイントとなります。

ECM(Electret Condenser Microphone)との違い

MEMSマイクロフォンを理解するうえでは、従来から広く使われてきた
**ECM(Electret Condenser Microphone)**との違いを押さえておくことが重要です。
両者は同じコンデンサ方式のマイクでありながら、構造や製造技術、性能特性に違いがあります。

ECMの特長と制約

ECMは、エレクトレット膜(永久帯電膜)を用いた比較的シンプルな構造を持ち、
長年にわたり音声入力用途を中心に広く採用されてきました。
構造がシンプルでコストを抑えやすい点は大きな特長です。

一方で、機械的構造や材料特性に起因して、以下のような制約があります。

  • 個体差が生じやすい

  • 温度・湿度など環境条件による特性変動

  • 大音量時の歪み耐性(AOP)の制限

  • 実装や量産自動化の難しさ

これらは用途によっては問題にならない一方、高音質化・高信頼性が求められる用途では考慮すべきポイントとなります。

MEMSマイクロフォンの一般的な特性

MEMSマイクロフォンは、半導体プロセスを用いて製造される音響センサーです。
微細加工技術により、構造のばらつきを抑えた安定した性能を実現できる点が大きな特長です。

一般的なMEMSマイクロフォンでは、以下のような性能傾向が見られます。

  • S/N比:65~73 dB 程度

  • AOP(Acoustic Overload Point):120~135 dB SPL 程度

  • 出力形式:デジタル出力(PDM、I²S など)が主流

  • 実装方式:SMT対応・リフロー実装が可能

  • 環境耐性:防水・防塵仕様(IP規格)に対応する製品も多い

これにより、MEMSマイクロフォンは
小音量から大音量までを安定して扱える広い音圧レンジと、
量産製品に適した実装性・信頼性を両立しています。

主要指標によるECMとMEMSの比較(一般的な傾向です)

項目 ECM(一般的な傾向) MEMSマイク(一般的な傾向)
製造技術 機械構造中心 半導体プロセス
S/N比 約 58~62 dB 約 65~73 dB
AOP 約 100~110 dB SPL 約 120~135 dB SPL
出力形式 アナログ デジタル(PDM / I²S)
実装性 手実装が主 SMT・リフロー対応
環境耐性 影響を受けやすい 高耐環境設計が可能
個体ばらつき 比較的大きい 小さい

※上記は、量産向け製品に見られる一般的な仕様傾向を示しています。

なぜMEMSマイクロフォンが主流になりつつあるのか

このような特性の違いから、近年では

  • 高音質化(高S/N比)

  • 大音量対応(高AOP)

  • 量産・自動実装への適合

  • 屋外・産業用途への展開

といった要求が高まるにつれ、
MEMSマイクロフォンを採用するケースが増えています。

次のセクションでは、
MEMSマイクロフォンを評価する際に重要となる指標について整理し、
その後、具体的な製品を例に実際の性能を見ていきます。

代表的なMEMSマイクロフォンの性能

これまで解説したECMとの違いや感度、S/N比、AOP、出力形式、電源条件、防水・防塵仕様といった指標は、
MEMSマイクロフォンを選定する際の重要な判断材料となります。
実際の製品では、これらの指標が単独で優れているだけでなく、用途に応じてバランスよく設計されているかが重要です。

ここでは、MEMSマイクロフォンの代表的な性能例として、Infineon社のMEMSマイクロフォン製品を取り上げ、各指標がどのように製品性能として反映されているかを見ていきます。

Infineon社 XENSIV™ MEMSマイクロフォンIM66D130Mの概要

IM66D130Mは、Infineon社のXENSIV™ MEMSマイクロフォンシリーズの一製品で、
高い音響性能とシステム設計のしやすさを両立したデジタル出力タイプのMEMSマイクです。
音声入力用途から環境音検知まで、幅広いアプリケーションを想定した設計が特徴です。

以下に、先に解説した主要な指標と対応する実際の数値を示します。

IM66D130M の主要性能

指標 Typ Spec 備考
感度(Sensitivity) -37 dBFS

一般的な音声レベルで十分な信号レベルを確保しつつ、
デジタル出力におけるダイナミックレンジを活かす設計です。

S/N比(Signal-to-Noise Ratio) 66 dB(A) 66 dB(A) のS/N比は、低ノイズかつ明瞭な音声取得を可能にします。
これにより、静かな環境や小さな音声もノイズに埋もれにくくなります。
AOP(Acoustic Overload Point) 130 dB SPL AOP 130 dB SPL は、騒音環境や大きな音圧の入力に対しても音割れを抑える性能を示します。
広い音圧レンジに対応できるため、環境音検知など幅広い用途に適しています。
出力形式 デジタルPDM ノイズ耐性の高いデジタル信号出力方式です。
動作電圧 1.6 〜 3.465 V 幅広い電源条件に対応します。
消費電流 540 µA(Normal mode)
170 µA(低消費mode)
低消費電力設計でバッテリー駆動機器でも有利です。
防水・防塵仕様 IP57  IP57 等級の防水・防塵保護を備え、屋外や産業環境など、環境変動がある条件下でも安定して使用できます。

出典:Infineon社IM66D130M製品データシート

IM66D130M は、

  • 感度・S/N比・AOPという音響性能指標

  • デジタル出力というシステム設計のしやすさ

  • 低消費電力と耐環境性

をバランスよく取り入れた代表的なMEMSマイクロフォンです。
特に「長時間駆動が求められるIoT機器」や「環境変動のあるセンサ用途」などで、安定した音声取得が可能な構成例として参考になります。

「ささやき声」からロックコンサートまで音声取得可能

IM66D130Mは、S/N比66 dB(A)、AOP最大130dBSPLの高出力直線性をもっています。
そのため、ささやき声からロックコンサートのような低ノイズ音声信号、優れたヒット率、弱い信号から強い信号までの高感度なアプリケーションに最適です。

使用例 詳細と課題
ポップ/
ロックミュージックコンサート
コンサートは通常は大音量で行われます。高音質は、良好で自然な音響性能への鍵となります。
スポーツイベント スポーツ(モータースポーツなど)または観衆(アイスホッケー競技場など)のいずれかが非常に大きい状況です。
交  通 低周波ノイズが多くあります。
風は野外で撮影されたオーディオ/ビデオ録画の音質を下げる一般的な原因です。高いAOPは特定の種類の風条件に有効です。

プリント基板へのはんだ付けも容易。リフローにも対応!

IM66D130M MEMSマイクは最高260℃の温度に耐えることができます。

高い耐熱性能をもっているため、プリント基板へのはんだ付けも容易です。はんだリフローを含む全自動製造ラインでも問題なく利用できます。

寸法図

アプリケーション例

  • スマートスピーカー
  • ホームオートメーション
  • IoT デバイス
  • アクティブ・ノイズキャンセル (ANC) ヘッドフォンやイヤホン
  • 高品質のオーディオのキャプチャー
  • 会議システム
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アプリケーション例

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