ネットワーク機器とセットで使うSFPなどの光トランシーバーモジュール(以下、光トランシーバー)の存在を気にされたことがありますでしょうか?光トランシーバーは特に意識しない限り、ネットワーク機器メーカー指定の純正光トランシーバー(以下、純正品)を導入されている方がほとんどかと思います。
光トランシーバーには純正品に加え、サードパーティー製品という選択肢があります。そこで、サードパーティー製品でも大丈夫なの?という疑問を解消しつつ、メリットや注意点を、技術的な視点から掘り下げていきます。なお、サードパーティー製品の例としては、光トランシーバーメーカ最大手のFinisar(現在はII-VI incorporatedの一部門)製品を取り上げます。
本記事は、シリーズ【「サードパーティーオプティクス」のはじめかた】 の第一話となります。
このシリーズでは光トランシーバーのエンジニア目線で、サードバーティーオプティクスに興味を持たれている方々、実際に導入を検討している方々に向けて役立つ情報を発信していきます。
サードパーティーオプティクスとは?
シリーズ名にもある、「サードパーティーオプティクス」とは、サードパーティー製光トランシーバーの総称で、純正品と同じ規格に準拠しています。
機器メーカーの純正品は保守サポートが充実しているなど、安心して導入・運用できるメリットがありますので、間違いのない選択と言えます。
一方、増え続けるトラフィックの増大に対応するため、100Gなどの高速インターフェースの導入を検討される場面で、純正品の見積価格を見て予算が折り合わず導入を断念した経験や、比較的安価な1Gや10Gインターフェースなどで妥協された経験はありませんか。
そんなお悩みを持つ皆様に知っていただきたいのが「サードパーティーオプティクス」という新しい選択肢の存在です。北米のハイパースケールデータセンターから始まり、現在では通信キャリアや比較的大規模なネットワークインフラを所有している企業に採用が広がっています。
そんな「サードパーティーオプティクス」の魅力を紐解いていきます。
サードパーティーオプティクスの3つの特徴
- メーカー純正品と同じ標準規格に準拠
- 豊富なラインナップ
- 技術知識を身につけ、自分で構築する必要がある
1.メーカー純正品と同じ標準規格に準拠
光トランシーバーは、光通信において異なる機器同士を接続するために使われるので、相互接続性のために規格が詳しく定められています。
純正品であってもサードパーティーオプティクスであっても、光トランシーバーが守るべき標準規格が主に2つあります。
- IEEE 802.3 Institute of Electrical and Electronics Engineers: 米国電気電子技術者協会が定めるネットワークに関する規格
- MSA Multi-Source Agreement: 光通信に関わるベンダー間で取り決めた規格
IEEE 802.3では主に光もしくは電気性能を、MSAでは主にフォームファクターの仕様を定めています。
一例として、Finisar社 QSFP28光トランシーバーのデータシートを見てみます。
XII. Referencesには、QSFP28の光トランシーバーとして本製品が準拠している規格が列挙されており、1.に準拠するMSA規格一覧が、同じく2.には、準拠するIEEE 802.3の規格が記されています。
サードパーティーオプティクスであっても純正品と同じくこれらの標準規格に準拠しており、技術的に装置間の相互接続性において全く心配はありません。
2.豊富なラインナップ
装置メーカー指定の純正品ではラインナップが限られていますが、サードパーティーオプティクスには豊富なラインナップがあり、ほぼすべてのMSA規格を網羅しています。100Gの場合を見てみます。
光通信規格 |
純正品(例) |
サードパーティー オプティクス Finisar社例 |
距離 |
コネクター/多重方法 |
FEC |
100G SR4 |
○ |
○ |
100m |
MPO |
あり |
100G SWDM4 |
× |
○ |
100m |
LC / SWDM |
あり |
100G CWDM4 |
○ |
○ |
2km |
LC / CWDM |
あり |
100G CWDM4-Lite |
× |
○ |
500m |
LC / CWDM |
あり |
100G LR4 |
○ |
○ |
10km |
LC / LAN-WDM |
なし |
100G LR4-Lite |
× |
○ |
2km |
LC / LAN-WDM |
なし |
純正品として選択できるのは「SR4、CWDM4、LR4」のみが一般的です。
純正品対応規格SR4とサードパーティーオプティクス対応規格SWDM4を比較すると、距離は100mで同じですが、SR4は、扱いの難しいMPOコネクターと太くて重いリボンケーブルを使う必要があります。一方SWDM4だと取り扱い易いLCコネクターと2芯のケーブルを使用できるようになり、より高いユーザビリティーを実現することが可能です。
また、サードパーティーオプティクス対応規格のCWDM4-LiteやLR4-Liteは、CWDM4とLR4と同じ規格ですが通信距離を抑えており、トランシーバーの価格だけでなくシステム全体のコスト削減にもつなげることが可能となります。
3.技術知識を身につけ、自分で構築する必要がある
サードパーティーオプティクスを運用するには、自社で構築するネットワークに最適な光トランシーバーを、自ら選定し、導入することになります。そのためには、ある程度の物理レイヤーに対する知識が必要です。必要とされる技術的な知識を、開発フェーズに合わせてご紹介します。
最初におさえるべき技術的知識
光通信や光トランシーバーとケーブルに関する基礎的な知識
・光通信規格の違い
・光トランシーバーの種類と違い
・光ケーブルやコネクターの種類
導入検討時に必要な知識
正常動作(リンクアップ)の確認に必要とされる知識
・コストを抑えるための選定(いくつかのケースを例にして)
・リンクバジェットの考え方
・FECについて
保守に必要な知識
ツールを活用するための知識
・I2Cアクセスによるトランシーバーのパラメーター取得
・光パワーメーター、光オシロスコープ、光スペクトラムアナライザーの紹介
次回は、「最初におさえるべき技術的知識」について詳しくご紹介!
記事後半でご紹介した必要な基礎知識は、続編で順次紹介予定です。乞うご期待ください。
まとめ
今回は光トランシーバーの導入には「サードパーティーオプティクス」という選択肢があること、また様々な規格によって接続性が保たれているため、サードパーティーオプティクスを安心して導入いただくことが出来ることを説明させていただきましたが、いかがでしたでしょうか。
サードバーティーオプティクスは純正品と比較して非常に安価に導入できるほか、選択肢が豊富で自社のネットワーク環境に最適な製品が選べるなど多くのメリットがあり、国内大手お客様でも採用が広がっています。
実際に導入された企業様の事例は、以下よりご覧いただけます。