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IsoMOV™ テクノロジーとは?MOV と GDT の組み合わせで実現する高信頼保護

電子機器の信頼性を左右する過電圧保護において、従来のMOV(金属酸化物バリスター)単体では、長期使用によるリーク電流の増加や熱暴走といった課題が存在していました。

Bourns が開発した「IsoMOV™ テクノロジー」は、MOV と GDT (Gas Discharge Tube) を組み合わせたハイブリッド構造により、これらの課題を解決し、高信頼・長寿命の過電圧保護を実現します。本記事では、IsoMOV™ の技術的な特長と動作原理、そして実際のアプリケーション例を通じて、その優位性と導入メリットをご紹介いたします。

IsoMOV™ テクノロジーとは?

図1:IsoMOV™ の構成図
図1:IsoMOV™ の構成図 ※Borns社より提供

IsoMOV™ テクノロジーは、Bourns が開発したハイブリッド型の過電圧保護素子であり、MOVとGDT を組み合わせることで、従来の保護素子では対応が難しかった長期信頼性や熱暴走の課題を克服しています。

一般的に、AC ラインの過電圧保護には MOV が広く使用されていますが、MOV は長時間の使用によりリーク電流が増加し、それに伴う熱暴走によって故障するリスクがあります。これに対し、IsoMOV™ では GDT が MOV のリーク電流を遮断する役割を果たすことで、MOV にかかる電気的ストレスを軽減し、素子の劣化を防ぎます。

図1 に示すように、IsoMOV™ は MOV と GDT を一体化した構造を採用しており、内部にはガラス封止やスペーサー、パッシベーション層などが組み込まれています。これにより、外部環境からの影響を抑えつつ、MOV と GDT の特性を最大限に活かした高信頼性の過電圧保護が可能となっています。

さらに、図2 に示すように、従来のMOV素子(図2 左)では粒界を通る電流がリーク電流となり、長期使用による劣化の原因となります。中央の図は IsoMOV™ の構造を示しており、MOV と GDT がハイブリッド化されたことで、MOV の劣化を抑制し、信頼性が向上しています。図2 の右には、実際のIsoMOV™ 製品の外観が示されており、コンパクトな筐体により省スペース設計にも貢献します。

このように、IsoMOV™ は MOV と GDT の特性を活かしたハイブリッド構造により、長寿命かつ高性能な保護ソリューションとして、車載機器や産業機器などの厳しい環境下でも安定した動作を提供します。

図2:MOV素子とIsoMOV™構造の比較(左:MOV素子の内部構造、中央:IsoMOV™の構造図、右:soMOV™製品の実物写真)
図2:MOV素子とIsoMOV™構造の比較(左:MOV素子の内部構造、中央:IsoMOV™の構造図、右:soMOV™製品の実物写真)※Borns社より提供

IsoMOV™ テクノロジーの技術的優位性

IsoMOV™ テクノロジーは、MOV と GDT が互いに補完し合うハイブリッド構造により、従来の保護素子にはない高い信頼性と性能を実現しています。以下に、主な技術的な優位性をご紹介します。

1. 相互補完による高信頼性の実現

IsoMOV™ テクノロジーでは、MOV と GDT が互いに信頼性を高め合う共生的関係にあります。これは、Bourns が以前から提供している GMOV™ Hybrid Protector と同様の設計思想に基づいています。GDT が MOV のリーク電流を遮断することで、MOV の劣化を抑制し、逆に MOV が GDT の続電流(follow-on current)を阻止することで、GDT の損傷も防ぎます。この相互補完により、サージが繰り返し印加されても熱暴走が起きず、長期にわたって安定した保護性能を維持します。

2. 他に類を見ない MOV の形状による性能向上

IsoMOV™ テクノロジーに採用されている MOV 素子は、従来の一般的な形状とは異なる独自の構造設計が施されています。この形状により、サージエネルギーが素子内部により均等に分布するようになっています。その結果、サージが繰り返し印加された場合でも、局所的な負荷集中が抑えられ、MOV 素子の経時変化が緩やかになります。これにより、長期使用における性能の安定性が向上し、信頼性の高い保護が可能となります。

さらに、IsoMOV™ プロテクター内部ではエネルギーの分布が最適化されており、単位面積あたりのサージ耐量が増大しています。これは、同じサイズの MOV と比較して、より大きなサージエネルギーに耐えることができることを意味します。

この性能向上は、以下の表に示すように、IsoMOV™ テクノロジーと最高性能の MOV とのサージ定格を比較することで定量的に確認できます。

※IsoMOV™ プロテクターのサージ定格は、よりサイズの大きい MOV プロテクターと同等

製品寸法(径)

MOV(最高性能品)

IsoMOV™ Hybrid プロテクター

10mm

2000

3000

14mm

3000

5000

20mm

5000

8000

表1:IsoMOV™ テクノロジーと MOV のサージ定格比較(単位:V)

3. 広範囲な動作電圧・温度対応

IsoMOV™ テクノロジーは、過酷な環境下でも安定した動作を可能にする設計が施されています。特に、最大動作電圧 550VAC、動作温度上限 125℃ まで対応しており、従来の MOV 単体では対応が難しかった高電圧・高温環境でも使用することができます。

この広範囲な動作条件により、IsoMOV™ テクノロジーは産業用機器、車載機器、電力設備など、高い耐性が求められる用途においても信頼性の高い保護素子として活用できます。設計の柔軟性が向上することで、エンジニアはより多様なアプリケーションに対応した回路保護を実現できます。

4. TOV(短時間過電圧)への耐性と高速応答

IsoMOV™ テクノロジーは、TOV(Temporary OverVoltage:短時間過電圧)に対して高い耐性を備えており、従来の MOV 単体では必要とされていた過剰な設計マージンを不要にすることができます。これにより、より効率的かつコンパクトな回路設計が可能となり、設計自由度の向上にもつながります。

さらに、IsoMOV™ テクノロジーはサージ印加時においても高速かつ安定したクランプ動作を実現します。図3 に示すように、8/20μs のサージ電流に対して、標準的な MOV と比較してより低いクランプ電圧で素早く動作を開始し、機器への過電圧ストレスを最小限に抑えます。

このような特性により、IsoMOV™ テクノロジーは繰り返しのサージや一時的な過電圧に対しても高い信頼性を維持し、長寿命かつ安定した保護性能を提供します。

図3:サージ印加時の電圧・電流波形比較 ※Borns社より提供
図3:サージ印加時の電圧・電流波形比較

5. 国際規格認証による信頼性の裏付け

IsoMOV™ テクノロジーは、国際的な安全規格に準拠した製品であり、以下の認証を取得しています。

 ・IEC61051-2:過電圧保護素子に関する国際規格への適合証明を取得済み
 ・UL1449 Edition 5:米国のサージ保護規格において、Type 4 Component および Type 5 Component として認定済み

これらの認証により、IsoMOV™ テクノロジーは第三者機関によって性能と安全性が保証されており、規格準拠が求められる機器設計においても安心して採用することができます。Type 4 Component はシステム内での組み込み使用、Type 5 Component はより限定的な用途に対応しており、設計の柔軟性を高めます。

IsoMOV™ テクノロジーの想定使用環境

■想定される設計条件
 ・AC/DC ラインにおける過電圧保護(電圧クランプ)が必要な回路
 ・EMI 放射レベルの低い AC ライン(標準 MOV より低容量のため)
 ・クランプ電圧の精度を維持しつつ、TOV (Temporary Over Voltage) に対するマージンを確保したい場合

■設計上のメリット
 ・高信頼性(5年以上の寿命要件に対応)
 ・省スペース(1部品で2部品の機能を代替)
 ・標準的な MOV と比較して、サージ電圧の定格が高い

■回路構成の簡素化例
 下図は、従来の MOV+補助素子構成と、IsoMOV™ テクノロジーを用いた構成の違いを示しています。
 IsoMOV™ テクノロジーを使用することで、複数の保護素子を 1つに統合でき、部品点数の削減と設計の簡素化が可能になります。

図4:回路構成の簡素化例(左:従来構成、右:IsoMOV™ テクノロジー構成)
図4:回路構成の簡素化例(左:従来構成、右:IsoMOV™ テクノロジー構成)※Borns社より提供

IsoMOV™ テクノロジーのアプリケーション事例

IsoMOV™ テクノロジーは、過電圧保護が求められるさまざまな機器において、高信頼性・省スペース・高サージ耐性を同時に実現できる保護素子です。以下は、実際の使用環境における代表的な導入事例です。

AC/DC モジュール(蓄電池エネルギー貯蔵システム内)

参考回路
※Borns社より提供

■ 課題
 ・過電圧保護
 ・カテゴリー IV のインパルスに対する保護が20年以上有効であること
 ・高信頼性かつコンパクトな保護ソリューション

■ 導入の効果
・製品の耐用年数を長期化
 (MOV単体使用時のリーク電流による劣化がないため長寿命)
・高性能、小型の保護素子のため保護機能のコストを削減

AC 電源(ネットワークスイッチ内)

参考回路
※Borns社より提供

■ 課題
 ・より小さいスペースでサージ耐性を 6kV まで強化する必要がある
 ・高信頼性かつコンパクトな保護ソリューションが必要

■ 導入の効果
 ・高信頼性サージ保護
 ・サイズが小さく、MOV と GDT を一体化し集積度が高いため PCB 設計が容易
 ・サージ耐性の 6kA への強化に好適

単相スマートグリッドメーター

参考回路
※Borns社より提供

■ 課題
 ・最高性能の過電圧保護が、限りある基板スペースに実装可能であること
 ・MOV と GDT の組み合わせに代わる新しい手法が求められている

■ 導入の効果
 ・省スペース、高信頼性、サージ定格の向上
 ・ISOM3 は MOV と GDT の組み合わせより遥かにコンパクト

EV 充電スタンド

参考回路
※Borns社より提供

■ 課題
 ・10kA 8/20us サージ耐性が必要
 ・高信頼性かつコンパクトな保護ソリューション

■ 導入の効果
 ・より省サイズ、高性能な保護ソリューション
 ・サージ耐性の 10kA への強化に好適

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