2025年9月8日(月)、日本機械学会年次大会にて、半導体ひずみセンサーSTREALを活用した研究が発表されました。発表テーマは「切削工具ホルダー装着型無線式トルク・スラスト計測システムによるドリルの定常摩耗状態推定」で、2024年度の研究内容をまとめたものになります。
本研究は静岡大学様(以下、静岡大学)、エヌティーツール株式会社様(以下、エヌティーツール)、マクニカによる産学連携で進められており、静岡大学様による講演は、通算9回目の成果発表になります。
1.概要
生産現場の生産性向上には、切削加工中の工具状態をリアルタイムでモニタリングする技術が求められています。本研究では、回転工具ホルダーにSTREALを装着し、無線でトルク・スラストを計測する、低コストかつ高信頼性のシステムを提案しています。従来の圧電式切削動力計は高価で、ひずみゲージ式は精度や安定性に課題がありましたが、STREALは「高感度・小型・省電力・低コスト」という特長を持ち、これらの課題を解決します。
2.これまでの取組み
| 時期 | 取組み |
| 2016年~ | 旋盤加工モニタリング技術の開発 |
| 2020年~ | ドリル穴あけ・エンドミル加工の異常検出法の検討 |
| 2022年~ | 無線式トルク・スラスト計測システムによるドリル加工モニタリング |
| 2024年以降 |
センサー改良による感度向上、高サンプリングレート化(1KHz×2ch達成)、 |
3.提供製品およびマクニカのサポート
提供製品
・STREAL(SR300シリーズ)
・無線給電基板
・データ収集機(評価キット)
・防塵防水ホルダー
マクニカのサポート
・STREALの開発・提供
・無線給電基板・データ収集機(評価キット)の改良
・エヌティーツール製ツールホルダーへのセンサー貼付け、温度補正、組付け対応
・測定結果に対する知見の報告・評価案の提案
図:マシンニングセンターに取り付けられた、ひずみセンサーデータの送信基板およびデータ受信副基板を備えた回転工具ホルダー
4.発表概要
Machining center FANUC ROBODRILLを用いて、実際の生産現場に近い条件でドリル穴開け実験を実施。ドリルに作用するスラスト荷重・トルクに起因するひずみを測定し、市販の圧電式切削動力計との比較も行いました。
図:試験におけるドリル刃先の光学顕微鏡写真と、ひずみセンサー測定結果及び動力計測定結果
実験結果では、ドリルの摩耗進行に伴いひずみ計測値や切削抵抗が上昇し、特に摩耗幅80µm超で急激な上昇が見られました。ひずみ計測値と切削抵抗には高い相関が確認され、工具寿命直前の急激なひずみ上昇を検知することで、適切な工具交換タイミングの把握が可能となることが示されました。
図: (左のグラフ) ドリルの逃げ面摩耗幅とひずみ値の関係、(右のグラフ) ドリルの逃げ面摩耗幅と切削動力計で測定した推力およびトルクの関係
5.今後の展望
本システムは、ドリル加工だけでなく、エンドミルやタップなど他の回転工具加工にも応用可能です。各種工具に合わせたセンサー配置やホルダー設計の最適化により、幅広い加工現場での工具状態監視が期待できます。さらに、自動車・航空機・精密機器など多様な製造業や、海外工場・グローバル生産拠点への展開も視野に入れ、競争力強化を推進してまいります。
6.最後に
本学会は工作機械と生産システムの最前線であり、DXやCPSへの注目度も高まっています。本セッションでは他大学・大手企業の参加も多く、会場は満席・立ち見が出るほどの盛況となりました。今後も3社で研究を進め、ものづくりの現場に対し、より汎用性で有用性の高いシステム開発を目指してまいります。
【ご講演後の様子:静岡大学 酒井教授/講演会場 北海道大学 札幌キャンパス】