規格、機関および認証
■ 電気安全規格
安全規格とは、システムやコンポーネントが必要な保護レベルを提供するために満たすべき要件を定めた文書です。例えば、IEC-62368 はほとんどの民生用電子機器の安全規格であり、他の多くの規格の要件を網羅する広範な規格と見なされており、認証された多くの電流センサーもこの規格に準拠しています。なお IEC-62368 は、情報システム用の IEC-60950 および音声/映像用の IEC-60065 を置き換える規格となります。
■ 認証機関
認証機関は安全規格を作成します。国際電気標準会議 (IEC) は国際規格を作成し、他の機関は IEC 規格と自国のニーズに基づいて地域規格を作成します。例えば、UL(アメリカのアンダーライターズ・ラボラトリーズ)、VDE(ドイツの電気技術者協会)、および CCC(中国強制認証)は、それぞれ UL-62368、EN-62368 および GB-4943.1 を作成しました。
■ 認証代行機関
認証代行機関は、規格への適合証明書を発行します。これらは上記の認証機関や、TUV、CSA、BSA などの認定された第三者試験所である場合があります。IEC は規格を作成しますが、認証は提供しません。
■ 安全認証
安全認証とは、システムや部品が安全基準の要件を満たしていることを、機関や団体が保証することです。これは、製品が基準に対してテストされること、および工場検査を実施して、製品がテスト時と同じように製造され続けていることを確認することで達成されます。
■ CB 認証
IEC 認証機関報告書(CBスキーム)は、コンポーネントやシステムに対しておこなわれる一連のテストであり、そのコンポーネントやシステムが、スキームに参加している世界中の他の全ての認証機関の認証要件を満たすことを保証します。各地域の認証機関(例:UL、VDE、CCC)は、IEC 規格の要件に加え、修正または独自の要件を適用するため、このテストと地域の認証を組み合わせることで、その適用性が世界中で確認されます。一般的に、CB 証明書は世界中の要件をカバーしており、アレグロがウェブサイトで提供しているものが該当します。
絶縁定格
■ 安全関連の絶縁
人と 71VRMS または 120VDC を超える電圧との間に安全規格に準拠した絶縁を提供する必要があります。これには、基礎絶縁、補助絶縁、および強化絶縁の絶縁機構やコンポーネントが含まれます。
■ ガルバニック絶縁
ガルバニック絶縁とは、2つのシステムの金属部分が互いに分離されていることを意味します。絶縁を達成するために使用される絶縁材料には、空気、プラスチック、ガラス、またはその他の誘電体が含まれます。
基礎/単一絶縁
■ 基礎絶縁
基礎絶縁は、堅牢な二重絶縁機構を構築するために、追加の冗長絶縁機構と組み合わせて使用されます。既に別の絶縁システムが存在する場合、基礎絶縁だけで十分な場合もあります。基礎絶縁は故障(絶縁が短絡すること)が許容されますが、システムは安全であるべきです。一方で、2つの基本システムを組み合わせても二重絶縁の要件を満たさない場合があります。最終システムのアーキテクチャーを決定する際には注意が必要です。LC および LH パッケージは、基礎絶縁を備えたアレグロパッケージの例です(図1を参照)。アレグロパッケージとデバイスのより広範なリストについては、アレグロのウェブサイトを参照してください。

図1:基礎絶縁を備えたアレグロパッケージ ※Allegro MicroSystems 社より提供
■ 単一保護
基礎絶縁と単一保護は、危険な電圧からの同程度の保護レベルを与えます。基礎絶縁と単一保護は基本的に異なる二つの規格体系で使用さており、同じではありません。基礎絶縁はIEC規格体系の用語であり、IEC 認証システムで二重絶縁を作成する意味を持ちます。単一絶縁は UL 規格体系の用語であり、ほとんどのシステムで十分な 600VRMS の動作電圧まで絶縁が適切であることを示します。
強化/二重絶縁
人が送配電を含む危険な電圧を伴うシステムに触れなければならない場合、システムには二重絶縁が必要です。二重絶縁は、強化絶縁の単一層または他のグレードの複数層で構成される場合があります。訓練を受けた人員については例外があります。
■ 二重絶縁
二重絶縁とは、基礎絶縁機構に対して二重の冗長絶縁機構を適用することです。二重絶縁は、人的安全を確保するための一般的な要件であり、IEC 規格の概念です。
■ 強化絶縁
強化絶縁とは、二重絶縁と同じレベルの保護を提供するようにテストされた単一の絶縁機構です。強化絶縁は、2つの別々のコンポーネントで 2層の絶縁を作成することが実用的でない多くのコンポーネントに使用されます。LZ、MA および MC は、強化絶縁を備えたアレグロパッケージの例です(図2を参照)。アレグロパッケージとデバイスのより広範なリストについては、アレグロのウェブサイトを参照してください。

図2:強化絶縁を備えたアレグロパッケージ ※Allegro MicroSystems 社より提供
■ UL 二重保護
これは、米国の 250VRMS までのオーディオ・ビデオ機器という狭い範囲に対して厳密に要求されており、他の機器には一般的に適用されません。
機能絶縁
機能絶縁は、コンポーネントが意図した通りに機能するために十分ですが、安全規格の認証はなく、基礎絶縁や二重絶縁システムを構築するためには使用できません。機能絶縁は、基礎絶縁と同じクリアランスと沿面距離を満たすことが推奨されますが、必須ではありません。
補助絶縁
二重絶縁の要件を満たすために補助絶縁は、基礎絶縁に追加(補完)することが必要です。これらの要件は、単に 2層の基礎絶縁の要求に留まらない場合があります。
機械的特性
■ 沿面距離 (DCR)
沿面距離とは、IP ループと他のピンの間のパッケージ表面に沿った最小距離を指します。この経路には、一定のサイズ(汚損度2 の場合は 1mm)未満の表面形状をカウントすることはできず、距離を短絡させる可能性のある未接続の金属部分も含まれません。センサーの入力から出力までの最短距離は通常、パッケージの端にあり、最短経路はタイバーと呼ばれる製造工程で使用される金属片と交差しており、これを越える必要があります(図3を参照)。

図3:JEDEC パッケージにおける沿面距離の経路 ※Allegro MicroSystems 社より提供
■ 空間距離 (DCL)
空間距離とは、IP ループと I/O および電源端子の間の空気中の最小距離を指します(図4を参照)。電解や火花は角を曲がることができるため、見通し距離である場合と、そうでない場合があります。これは沿面距離と同じ経路である場合もあれば、異なる場合もあることを意味し、JEDEC パッケージの場合、通常は同じ経路です。空間距離は、部品の本体にかかる最大電圧を決定するために使用され、空気が破壊されて火花が発生する前の距離を示します。一般的に、アプリケーションにおける最大電圧は過電圧カテゴリーで決定されるため、空間距離によって部品の過電圧が制限されます。

図4:JEDEC パッケージにおける空間距離の経路 ※Allegro MicroSystems 社より提供
■ 絶縁貫通距離 (DTI)
DTI は、IP ループとダイの間の内部絶縁の最小距離を指します(図5を参照)。規格では、絶縁システムが定格に適切であることを確認するために、最小 DTI または追加試験のいずれかの要求があります。アレグロの電流センサー絶縁は、要件を満たすために広範な高電圧テストを受けています。

図5:絶縁貫通距離 (DTI) ※Allegro MicroSystems 社より提供
■ 比較トラッキング指数 (CTI)/材料グループ
CTI は一定の電解による導電性の炭素トラッキングの形成と浸食深さに対する材料の耐性を示す指標です。このテストでは、材料に硝酸を滴下し、材料上に配置された電極を介して電圧を印加し、完了後に表面のエッチング深さを測定します。エッチング深さが 0.1mm 未満であれば、その CTI 電圧レベルに合格します(表1を参照)。アレグロの IC パッケージの多くは、材料グループ II のモールドコンパウンドを使用しています。
CTI [V] |
定義 |
>600 |
I |
400 - 599 |
II |
175 - 399 |
IIIa |
100 - 174 |
IIIb |
表1:CTI と材料グループの関係
■ 汚損度
絶縁における汚損とは、導電性物質が部品表面に蓄積する度合いを示します。導電性の汚損は、表面に沿って電場を集中させることで炭素によるトラッキングの形成を加速させます。汚損が多いほど、同じ動作電圧に対してより多くの沿面距離が必要です。汚染は程度により特徴付けられ、1が最も清浄で、3が最も汚損しています(表2を参照)。ほとんどの電子機器の筐体内は汚損度2であると予想されます。汚損を減らす方法の一つは、基板にコンフォーマルコーティングを追加して、パッケージの表面に導電性物質の蓄積を防ぐことです。
これにより、汚損する環境でも汚損度1へ移行することができ、アプリケーションでより小さな沿面距離(もしくはより小さなデバイス)を使用することができます。ただし、コンフォーマルコーティングは絶縁とは見なされず、必要な空間距離には影響しないことにご注意ください。
汚損度 |
定義 |
1 |
清浄で乾燥した環境、非導電性のほこり |
2 |
湿気による偶発的な導電性のほこり |
3 |
導電性汚染、湿気で導電化する可能性 |
表2:汚損度と環境の関係
電圧レベル
■ 基礎絶縁の動作電圧 (VWVBI)
基礎絶縁の動作電圧は、その部品がメーカーおよび認証機関に従って特定の期間(一般的に 20年以上)動作しても絶縁劣化が危険なレベルに達しない電圧のことです。この指標は通常、規格書の表に従って、一定のパッケージ沿面距離を要求することで満たされます。動作電圧は、環境の汚損度およびデバイス表面の特性(材料グループ)によって制限されます。清浄な環境と耐性のある保護層(コンフォーマルコーティング等)を持つことで、同じ沿面距離でより高い電圧を許容することができます。アレグロの電流センサーは、内部で薄膜材料を使用しており、沿面距離によって制限される動作電圧を超えるように設計およびテストされています。
■ 強化絶縁の動作電圧 (VWVRI)
強化絶縁は二重絶縁に相当する単一の絶縁です。強化絶縁の許容動作電圧は、基礎絶縁の半分です。
■ 動作電圧波形
規格では、電圧が AC 送電線から得られると仮定しているため、動作電圧は ACRMS 電圧に基づきます。システムによっては、動作電圧は DC から高周波の矩形波まであります。規格では、高周波は 30kHz から始まり、この周波数を超えて絶縁を使用する場合の推奨デレーティング値があります(IEC60664-4を参照)。DC は、電荷が表面や固体絶縁物内部であまり移動しないため、AC よりも損傷が少ないと考えられます。DC 定格は通常、AC 動作電圧のピークと見なされます。
■ 動作電圧 (VIORM および VIOWM)
絶縁に掛かる電圧は任意の波形と見なすことができ、反復するものはすべて動作電圧と見なされます。このことで動作電圧の全体像を明確に説明することが難しく、規格においては正弦波形と非正弦波形の両方が考慮されます。送電線の電圧のような正弦波波形の場合、動作電圧は正弦波の RMS 値です(VIOWM、送電線入出力の動作電圧)。その他の波形は矩形波、DC 電圧、または任意の波形であるため考慮すべきパラメーターはピーク電圧のみです(VIORM、送電線入出力の繰り返し動作電圧)。認証機関がこれらの電圧をテストする際、通常は純粋な正弦波を使用するため、VIOWM と VIORM の定格は √2 の係数で関連付けられます。
■ 絶縁耐圧 (VISO)
絶縁耐圧が 1分間適用された際にはパッケージの絶縁が破壊されないことを保証する最小電圧です。これは ACRMS 電圧として規定され、試験電圧は純粋な正弦波です。この絶縁耐圧には 2つの重要な情報が含まれます。
1. 1分間の部分放電によって絶縁が破壊されません。
2. 正弦波のピークで絶縁が破壊されることはありません。正弦波のピークはインパルス試験のピーク電圧に比べて長いため、ピーク電圧のより余裕を持たせた指標と見なされます。
VISO は、一時的な過電圧として送電線の過渡現象が発生する経験する設計に適用されます。一時的な過電圧は、建物に入る電力の干渉によるものです。これにはサービス中に高電圧線を低電圧線にまたがって落とすようなことが含まれます。
■ インパルス耐圧 (VIMPULSE)
インパルス耐圧は、雷サージパルスを受けた際に部品が耐えられる最大電圧の指標です。インパルス耐圧は、電力網に接続されたシステムに適用されます。ほとんどの場合、1分間の正弦波による過電圧定格 (VISO) のピークとして規定されますが、それより高い値となる場合もあります。一般的な落雷としてインパルスは 1.2 × 50µs のパルスと短期間です。通常、デバイスは 1分間耐圧ピーク値の 1.3倍の電圧値に耐えることができます。これは一般的には認証では指定されておりませんが、余裕を持たせた過電圧のピークが指定されます。これはシステムの電力網の沿面距離を設定する主な指標です。
■ 部分放電
部分放電は、破壊電圧の高い材料と低い材料の間に界面がある場合に生じる摩耗メカニズムです。例えばモールド樹脂とポリイミドが接着され、層状となった絶縁材料にボイドや不連続面がある場合、固体絶縁物内で放電が発生します。ボイドは図6 に示すように、空気で満たされた個体絶縁物内の微小なコンデンサーと見なすことができます。空気は周囲のモールド樹脂よりもはるかに誘電率が低いため、その静電容量は小さくなります。一連の直列コンデンサーでは、静電容量が小さいほどそのコンデンサーにかかる電圧は高くなります。このボイドは周囲の固体絶縁物よりも高い電界を持っています。
またボイドは、著しく低い絶縁破壊材料である空気で満たされています。このため、ボイド内の空気が絶縁破壊し、プラズマ放電が発生しボイドが拡大します。これが最終的に残りの固体絶縁物を貫通しボイドを広げ、絶縁体を貫通する低抵抗経路となり、絶縁材料自体の絶縁破壊を引き起こします。

図6:ボイド内のの部分放電 ※Allegro MicroSystems 社より提供
部分放電は、比較的簡単な電気テストで検出できます。プラズマ放電は、印加電圧に電流スパイクとして現れます。電圧が十分に高い場合、あらゆる種類の絶縁で部分放電が発生します。動作電圧の付近で部分放電が発生した場合、それは潜在的に寿命が短いデバイスの指標となります。現在、多くの規格では絶縁テストの一環として、組立ラインで強化絶縁デバイスの部分放電テストを実施することが求められています。
■ 過電圧カテゴリー
過電圧カテゴリーは、機器が電力網に接続されているときに遭遇する可能性のある雷インパルス過渡電圧 (VIMPULSE) の大きさを決定するために使用されます。アプリケーションが電力網から離れているほど、過電圧カテゴリーは低くなり、その時点で予想される過渡現象も低くなります(表3 を参照)。
過電圧カテゴリー |
定義 |
I |
電力網より高度に保護 |
II |
建物の配線を通じて電力供給(コンセント接続) |
III |
建物の電力分配に直接配線 |
IV |
建物の電源の供給元に接続 |
表3:過電圧カテゴリー
例えば、建物の外に設置された 240V のメイン電源を使用する機器は、過電圧カテゴリー IV に該当し、6000VPK の落雷に耐える設計が必要ですが、建物内のコンセントに接続される機器は過電圧カテゴリー II に該当し、2500VPK に耐える設計のみで十分です。
お問い合わせ
本記事に関して、ご質問などありましたら以下よりお問い合わせください。
Allegro MicroSystemsメーカー情報Topページへ
Allegro MicroSystemsメーカー情報Topページへ戻りたい方は、以下をクリックください。