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インナーアイ

はじめに

この記事では、“ブレインテック※”という脳科学とAI(人工知能)を組み合わせたテクノロジーを活用することにより、農作物の”病害虫”診断をおこなった、海外(ブラジルの農園)における実証実験の事例をご紹介します。
Embrapa社、ブラジルでの2023/2/7プレスリリースの日本語記事となります。

“ブレインテック”とは?

まず、”ブレインテック”とは何でしょうか?
ブレインテックとは、Brain (脳)とTechnology (技術)をかけ合わせた造語です。脳神経科学とITを融合して脳の状態を解析することによって、脳の働きの物理的なメカニズムを明らかにし、判明したメカニズムを様々なアプリケーションやサービスに生かしていく活動・ビジネス領域のことを指します。
この技術は、脳波を捉えることで、人が画像を観察する際に行う判断や分類を特定することができます。そして、その過程をシミュレーションすることで、即座に自動で画像にラベル付けをします。

ブラジル農園における、実証実験

Embrapa社 、InnerEye社、マクニカDHW、3社による実証実験

2019年、マクニカDHWは、農業分野での技術を探求するため、新たな応用可能性を持つEmbpara社をパートナーとし、2022年4月植物の病気の早期発見の実証実験を開始しました。

マクニカが取り扱う、InnerEye社により、脳波の神経信号とAIを関連付けることで、高い信頼性で人間の脳を模倣した機械を作ることができます。この脳波の捕捉とシミュレーションを可能にする機器は、人工知能(AI)を通じて大豆における病害虫を早期に検出することができ、この実証実験は、Embrapa社とMacnica DHW社、InnerEye社によるブラジルでの先駆的な取り組みとなります。

※Embrapa (ブラジル農業研究公社)について

実証実験によって得られた成果

このブレインテックを活用したシステムにより、“健康な葉”と、“うどんこ病やアジア大豆さび病”の葉を高い精度で識別することができました。

  ●この技術は、プランテーションにおける病気の早期発見や、酪農の生産量を最大化するための最適な牧草地の発見など、いくつかの応用が考えられます。
  ●認識システムは、農業機械、ドローン、携帯電話などに組み込むことができます。
  ●同様の技術が、空港でスーツケースの中の危険物を識別するために使用されています。

Embrapa Digital Agricultureの研究者Jayme Barbedo氏が農業に応用された人工知能を活用した技術の運用を解説

実証実験の詳細

Embrapa側でプロジェクトを率いるAgricultura Digital研究員のジャイメ・バルべド氏は以下のように述べています。
「AIツールは大きく進化しており、“良質なデータ”があれば、ほとんどすべての問題を解決することができます。AI作成には“良質なデータ”の収集だけでなく、専門家によるラベル付けが必要です。これは、コストと時間のかかる作業ですが、実証実験で使用したマクニカDHWとInnerEye社のシステムはその手助けをしてくれました。今回の実験の最初の成果としては、“感染した葉”と“健康な葉”を高い精度で識別できたことです。

今後は、病害・非病害の判別にとどまらず、大豆農園に存在する病害の種類を特定し、最も商業的にインパクトを受けやすい、重要な病害から順次対応していく予定です。また、“トウモロコシ”や“コーヒー”などの作物を実験に加えることについても、Embrapa研究センターと交渉中です。」

脳波を計測するため、Embrapa大豆の植物病理学者クラウディア・ゴドイ氏とラファエル・ソアレス(写真左)は、病葉と健全な葉の画像約1,500枚を評価しました。

●当実証実験関係者のコメント
・「脳波の神経信号とAIを関連付けることで、高い信頼性で人間の脳を模倣した機械を作ることができます」(マクニカDHW IoT & AIソリューションマネージャーのファブリシオ・ペトラッセム氏)

・「InnerEye社のシステムは、脳波を捉えることで、画像に対する人の判断や分類を識別し、その画像に自動ですぐにラベルを付けることができます」(システムのテストと検証を実施した、InnerEye社の開発者、ヨナタン・メイア氏)

・「概念実証の段階では、専門家の脳波から生成されたモデルが画像をうまく処理できることが示され、病害植物の識別を行う機械の訓練が可能になりました。また、“病気・健康”というラベルを付けた画像と専門家の脳波信号を組み合わせることで、モデルの性能が向上し、AIの利用が可能になりました」 (Embrapa社 バルベド氏)

当実験は、コンピューターの画面に素早く表示される“病気の葉”と“健康な葉”の写真を、
熟練者が見たときに脳波がどのように反応するかを計測し、その違いを学習し、病気の葉と健康な葉の画像を識別します。
従来では時間のかかるラベル付けを自動化してより迅速かつ効率化させる事ができる画期的なシステムです。
この認識技術は、病気に関する知識があまりない人でも使えるようになり、品質管理する上で非常に役立ちます。これにより、意思決定の迅速化を図り、企業の損失削減や天然資源の合理的な利用を実現することが期待されています。

「この実験は非常に興味深いものでした。使用したシステムは、コンピューターの画面に高速で表示される“病気の葉”と"健康な葉”の写真を専門家が見たときの脳波の違いを検出し、“病気の葉”の画像を識別することを学習するシステムです。
AI学習の進化により、このような認識技術は、病気に関する知識があまりない人でも使えるようになり、“病虫害診断”のような、従来専門家の知見に基づき実施していた診断をシステムで手助けすることができるようになります」とEmbrapa大豆の植物病理学者クラウディア・ゴドイ氏(写真上)は実験について語っています。

今回の実験に選ばれた2つの病害虫

Embrapa大豆の植物病理学者ラファエル・ソアレスソアレス氏によると、今回の実験では2つの病気が選ばれました。
経済的に最もダメージの大きい病害である“アジア大豆さび病”と、ブラジル南部で発生する“うどんこ病”です。
「これらの病害は、ダイズ栽培に与える影響が大きいという事だけでなく、それぞれ特徴的な症状が葉に現れる事。また、評価に適した画像が揃っているという理由で選ばれました」
研究者にとって、ダイズの病害虫の自動検出・診断ができるシステムの改良は、作物管理における最大の課題の一つであり、今回の実験のように実践的な結果を伴う技術は、今まさに必要とされています。

アジアの“大豆さび病”の損害は、ブラジルで収穫ごとに 20 億米ドルを超える

Phakopsora pachyrhiziという菌によって引き起こされる大豆さび病(右写真)は、放置すると最大で80%の損失をもたらすとされている、最も深刻な作物病害です。アンチ・ラスト・コンソーシアムの調査によると、この病気による損失コストは、殺菌剤の購入や生産性の低下を考慮すると、ブラジルで1収穫あたり20億米ドルを超えるとされています。

最大35%の生産性の低下を引き起こす可能性のある「うどんこ病」

うどんこ病は、10%~35%の生産性低下の報告があります。
うどんこ病とは、葉や茎が白い粉のような菌で覆われる糸状菌(カビ)による病気です。感染する範囲が広く、野菜類、花き類など、ほとんど全ての植物に発生します。
比較的温暖でやや乾燥した条件で発生しやすく、また発病してから重症化するまでのスピードが速く、発生してしまってからではなかなか防除が難しい病気です。

この病気は、湿度が低く、気温が穏やかな時期(18℃から24℃)に好発し、ブラジル南部の標高が高く、播種時期が遅い地域で多くみられます。「病害対策としては、抵抗性品種の使用と化学的防除が必要です」と研究者のラファエル・ソアレス氏は説明しています。
現状の対策として、菌の侵入を減らすために、少なくとも90日間、畑に大豆の苗を植えずにおく「サニタリーブレイク」などの実践に重点を置いています。また、早生品種の使用や推奨される作期開始時の播種、耐性品種の採用、播種暦の遵守、殺菌剤の使用などがあります。

したがって、Embrapaが推奨するのは、農家が品種を維持するために、利用可能な殺菌剤と利用可能なシステムを合わせて活用することで、この病害を適切に管理することができます」とクラウディア・ゴドイ氏は断言しています。


 被験画像を視覚で判定、判定の際の脳波データをAIに学習させる 

画像:インナーアイ

 脳波データ+画像データ ⇒ AI学習 

ブレインテックの仕組みについて

ブレインテックの技術は、脳波を捉えることで、人が画像を観察する際に行う判断や分類を特定することができます。そして、その過程をシミュレーションすることで、即座に自動で画像にラベルを付けることができます。
このシステムは、熟練者が病害植物の画像を視覚化する際の脳の働きを「模倣」し、ラベリングを自動化・効率化するものです。植物病理学者で行われたように、熟練者が何かを特定したり、意思決定したりするときの脳のプロセスをできるだけ忠実にシミュレートします。

まず、熟練者がEEG※を被って脳波を測定し、モデルのキャリブレーションを行います。"脳のパターン"、つまり脳の電気信号は人それぞれ違うため、モデルがその人の考えていることを理解できるように、一人ひとりキャリブレーションを行う必要があります。
※EEG:脳波測定装置(electroencephalograph: EEG)

システムがその熟練者の動作を “学習”したら、データベースへのラベリング作業が始まります。
熟練者たちは、1秒間に3枚の画像を表示するスクリーンに映し出された病葉を見て、病気の葉を認識したら数を数えるように指示されます。このとき、健康な葉を見たときとは異なる脳波の特徴をとらえます。

プロジェクトリーダーによると、数える作業は必須ではないですが、脳の信号を強化することで、病気と健康との区別がつきやすくなるといいます。このシステムでは、1秒間に最大10枚の画像を見ることができます。 

結果の信頼性

平均30分、1回のセッションで1,000枚以上の画像にラベル付け」ができました。
この作業は、手作業では何日もかかる作業です。ラベリング作業のスピードアップに加え、起こりうるエラーを修正するメカニズムがあり、学習したモデルの信頼性を高めています。

神経信号を通じて、システムは、「熟練者が一連の画像を見る過程でまばたきをしたか?」、「注意を失ったか?」を識別することができます。そのような場合には、システムは結果を破棄し、後で画像を再導入します。ブレインテックシステムは、注意力曲線を生成し、それが結果の信頼性にとって影響のあるレベルに低下してしまった場合、実験を一時中断して休憩を取ります。

ブレインテック、農業への応用

この技術は、農業分野での応用の可能性をいくつも広げています。
今回の実証実験”病害虫”診断の他にも、適正な“収穫時期”の判断にも応用が可能です。
別の記事:AIにおまかせ!「収穫時期判定」「病害虫診断」 ~農業熟練者の"脳波"を使った画像AIで自動測定・分析~
このAIモデルは、農業機械やスマートフォンのアプリに組み込まれ、専門的な労働力が不足している地域で活用することができます。

AIモデルが、リアルタイムに農薬を散布する必要がある区画を特定することで、より合理的な農薬散布が可能となり、経済的コストや環境負荷を抑えながら、よりクリーンで持続可能な食糧生産が実現します。

またこうしたAIモデルをスマートフォンのアプリとして組み込むことで、より便利な形で農家の意思決定を手助けし、問題の対策に必要なアクションを促すことが出来ます。

また、酪農の専門家によると“酪農における技術応用の可能性”もあると言われていおります。「乳量を最大化するためには乳牛を最適な牧草地で生育することが求められるため、“最適な場所と理想の頭数を判断”できる熟練者によるシミュレーションをシステムが行ってくれるのは、非常にありがたい。」と専門家は語ります。

    <ブレインテックの応用例>
     ・農業:病気の早期発見、収穫時期の判断、農薬散布の必要な区域の特定など
     ・酪農:生産量を最大化するための最適な牧草地の発見など


農業以外にも、以下のような製造業・空港セキュリティ・医療現場など様々な活用が想定されます。

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