なるほどブレインテック第2回 ~ARAYA金井様に聞くブレインテック最新情報とムーンショットプロジェクト~ 講演レポート


2023年5月31日(水)に、なるほどブレインテック ”第2回 ARAYA金井様に聞くブレインテック最新情報とムーンショットプロジェクト” のウェビナーを開催いたしました。

今回は、ブレインテック・AI分野において最先端の場で活躍されている、株式会社アラヤCEOの金井様、CROの笹井様をお迎えし、国内外における「ブレインテック最新動向」、「ムーンショットプロジェクト」、「活用事例」についてお話しいただきました。


左より:[ファシリテーター]株式会社マクニカ 楠、 [ゲスト]株式会社アラヤ 笹井様、金井様 [パネリスト]株式会社マクニカ 村田


本記事では、当日行われたウェビナーの内容をレポートにまとめております。以下動画と合わせて、是非ご覧ください。

株式会社アラヤ様のご紹介

株式会社アラヤは2013年の設立後、脳の研究・脳画像の解析からスタートしたAI開発企業です。

今回ご登壇いただいたお2人は、元々は神経科学者で意識の研究などをされており、現在はアラヤ社を通じて世の中に“ブレインテック”の活用を広めていくための活動をされています。

会社設立当初、金井様はイギリスの大学で研究をされており、帰国した2015年からは「AIとブレインテック」の両輪で当社を成長させてきました。

社員数約140名の内、正社員は約6割、残り4割がインターンという構成で、AI・ブレインテック業界での活躍を志す若者から非常に注目されており、彼らが経験を積むために集まったという、非常に新しさを感じる期待の企業です。

アラヤ社では、「AI×ニューロテックで人類の未来を圧倒的に面白く」というテーマを掲げています。

AI活用の取り組み

AIの分野は実用性が非常に高いため、“画像認識”だけでなく、デバイスにディープラーニングの推論機能を実装した“エッジAI”や、深層強化学習の技術である”自律AI”を活用したサービスの提供も可能です。

建設業界における建機の自動化のような、自律的に物やロボットが動く技術の活用にも積極的に取り組んでいます。

また、目視が難しい外観検査にAIを活用した例として、白米の上に乗っている白髪を検知できる画期的なAIソリューションの事例についてもご紹介いただきました。

ニューロテック活用の取り組み

ニューロテックの分野においては、金井様を筆頭に、脳神経科学の博士号を持っている方や、この分野に興味のある方々が集結した組織として研究を続けています。

ニューロテックの1つの出口であるBMI(ブレイン・マシン・インタフェース)※1の社内開発や、後述の「ムーンショットプロジェクト」においても、日本中の様々な研究者たちと連携した開発に取り組んでいます。

※1:脳波などを読み取りその命令でコンピュータを動かすことや、それとは逆にコンピュータから神経に直接刺激を送ることで、感覚器を介さずに人に視覚や味覚等を与える技術や機器のこと。


このように、AI業界で新しい技術を事業化し社会実装する経験を積んできたアラヤ社は、これらの経験を活かして、今後はブレインテック業界での社会実装を益々進めていきたいと考えているそうです。

海外最新情報

次に、海外でのブレインテック研究や事例について、金井様よりご紹介いただきました。

「てんかん」患者の在宅モニタリングシステム―Seer Medical社(米・豪)

最初にご紹介いただいたのは、てんかん患者の脳波診断とモニタリングを在宅で行うシステムを開発しているSeer Medical社の事例です。

このシステムは、てんかん患者の症状のモニタリングを、入院ではなく自宅でおこないたいという要望から開発されました。

頭皮の下に電極を埋め込む方式のため、電極を直接頭蓋骨の中に入れる方式と比べると、安定・継続して脳波を取得することができます。

てんかんの場合、細胞1つ1つの活動を見る必要はないため、実用性と侵襲度合いとのバランスが上手くとれているシステムと言えます。

ブレインテック導入時のポイントとして、「簡単にできるのか」「ニーズはあるのか」という点が挙げられますが、てんかんのように医療のニーズが見込まれる分野では、ブレインテック事業としての発展性が高く、サイエンスとして医療に貢献できるという点が企業の強みになっていくため、興味深い事例となっています。

脳血管内からのステント型電極挿入技術―Synchron社(米・豪)

次にご紹介いただいたのは、ステント※2型電極(ステントロード)によるBMIを、世界で初めて人間に適用した企業として知られているSynchron社の事例です。

こちらの技術では、動脈瘤の手術などで用いられるステント型電極を、脳の表面に近い血管から挿入することで、脳活動を取得することができます。

血管に金属を入れることは敷居が高いように感じますが、医療従事者によると、頭蓋骨に穴をあけて電極を刺す方法に比べると、こちらの手術は日常的に行われており、比較的簡単に患者への負担も少なく活用できるとの見識だそうです。

また、この技術を約1年使い続けている患者は、頭の中で動きや文字を想像することで、実際にコンピュータを操作してタイピングに活用するといったことができおり、安全性だけでなく実用性の実績も確立しています。

※2:人体の管状の部分を管腔内部から広げる医療機器のこと。多くの場合、金属でできた網目の筒状のもので、治療する部位に応じたものを用いる。

サルの脳情報デコーディングによるキーボード操作―Neuralink社(米)

最後にイーロン・マスク氏が設立したことで有名なNeuralink社の事例をご紹介いただきました。

この事例の実験では、脳にチップを埋め込んだサルが、指で画面をなぞっているときの脳の神経活動を取得しています。

この神経活動の情報から、サルがどのような文字を書こうとしていたのかを読み取り、画面に入力できることが証明されています。

Neuralink社が、人間での臨床試験についての承認を取ったことは最近の大きなニュースにもなっているため、これからは侵襲型のBMI競争や技術開発も益々進んでいくと考えられます。 

楠:ここまで、3社の画期的なソリューションの事例をご紹介いただきましたが、オーストラリアからこのようなスタートアップ企業が出てきているのには、何か理由があるのでしょうか?

金井様:オーストラリアでは、「てんかん」について人材的にも規模的にも大がかりな研究を行っています。また、侵襲と非侵襲の間を取った「低侵襲」と呼ばれる技術を使っているため、医学的なコミュニティとエンジニアリングのコミュニティとがうまく連携できる体制があるといった、地域の強みが出ているのではないかと考えられます。

楠:低侵襲の技術であれば、必ずしも大がかりな手術が必要ないという点でも、まずは医療の段階から社会実装の可能性が広がっていきそうですね。

金井様:最初は医療目的から始まり、いずれは人間の身体的な障害などを乗り越えるための方法としてだけでなく、誰もが使いたいと思う技術になっていく可能性があるのではないかと考えています。

楠:神経活動など膨大な量のデータを人間が分析することはほぼ不可能であることから、BMIとAIを使った技術が広がっていけば、病気や不自由な方々にとっても、より便利な世の中になっていくのではないかと期待がもてますね。

 

さて、ここからは国内での事例に目を向け、金井様が関わっておられる「ムーンショットプロジェクト」についてご紹介させていただきます。

ムーンショットプロジェクト

ムーンショット型研究開発制度は、内閣府主導の挑戦的な研究開発を推進する大型プログラムです。2050年までの実現を目指し、現在9つの目標が設定されています。

アラヤ社が現在取り組んでいるのは、「身体、脳、空間、時間の制約からの解放」という目標1の部分です。

当社ではこの目標を実現するために、BMIの技術をAIで向上させることで、人の思考によってアバターやロボットを操作できるような、物理空間とサイバー空間を両方想定した課題に取り組んでいます。

インターフェースチームのプロジェクト

ムーンショットプロジェクトの取り組みの一環として、2022年にはBMIブレインピックというイベントが開催されました。

このイベントは、非侵襲のヘッドフォン型脳波計を使ってバーチャル空間のアバターを操作し、その動きの速さや自由度を競い合う大会です。

多くの中高生が大会に参加し、競技後には「自分たちも将来このような開発ができる仕事に就きたい」といった感想もあったようで、非常に好評なイベントとなりました。

また当社では、テクノロジーの研究開発だけでなく、一般の方々がブレインテックを社会実装する際に、専門家の立場から正確な情報を提供するための「ブレイン・テック ガイドブック」を作成し公開しており、一般の方々が今後ブレインテックの技術を安心して使うための参考となるような情報提供にも取り組んでいます。

ミドルウェアチームのプロジェクト

次に、笹井様より、ムーンショットプロジェクトにおけるミドルウェアチームの取り組みについてご紹介いただきました。

当チームでは、テレパシーのようなコミュニケーション方法の実装を目指して研究を進めています。

この取り組みでは、侵襲的な計測方法ではなく、「超高密度脳波計」を用いた非侵襲的での脳波計測を行っているため、実際に社会実装する際のハードルが低くなり、発話困難な患者にとっての希望になると考えられています。

超高密度脳波計は、通常の脳波計ほど簡単に付けられるものではありませんが、8つのアダプターそれぞれの中に16個の電極が含まれており、合計128チャンネルという高密度で電極が配置されているため、通常の脳波計よりも精度の高いデータを取ることができます。

当プロジェクトでは、まずは非侵襲でのコミュニケーションの解読を目指しており、この脳波計で取得した波形を使って、Eメールを返すことができるかという研究に取り組んでいます。

具体的な方法として、各メールの内容に紐づけられた数種類の色のうちいずれかの名前を、ほとんど聞こえないほどの小さな声で発音した際の脳波の波形を読み取り解析することで、脳波を使ってメールを選択することが可能になります。

選択したメールを生成AIであるChatGPTに連携することにより、過去の履歴に基づいた数通りの返信が選択肢として提示されるため、今度はそれらの返信メールに紐づけられた数種類のいずれかの色の名前を発音します。

返信・送信ボタンや画面に戻るためのボタンにも、それぞれ色が振り分けられているため、発音での画面選択を繰り返すことにより、脳波の波形を使ったメール返信に成功しました。

笹井様ご自身が被験者となり行ったこの実験では、70~80%の精度でメールの返信に成功しており、この実験結果をSNSに投稿したところ、50万回再生されるという大きな盛り上がりを見せたそうです。

今後は数種類の発音の脳波解析だけではなく、実際の人間のボキャブラリーと同程度の規模での解析を目指しており、さらには解析だけでなくChatGPTなどといった生成AIとの融合により、様々なことに応用するための研究を進めています。

楠:ブレインテックとAIの親和性は既に高いと言われていますが、生成AIとの融合によってその信用性はさらに高まっていくと考えられますね。

金井様:脳から取れる情報量が限られていても、生成AIを使うことでうまく補強するといった使い方が考えられ、その組み合わせによってブレインテックとAIを使った新しいサービスが可能になっていくと考えています。

 

さて、ここまでは、少し先の未来を見据えた国内外での事例をご紹介しましたが、最後にアラヤ様が今現実的に取り組んでいる事例についてご紹介いただきました。

アラヤ様の最新事例

アラヤ社は、脳情報産業を目指して起業した創業期から、2段階目のAI事業化期を経て、現在は3つ目のフェーズである「脳×AI期」に来ています。

会社設立当初からの金井様の志として、電脳化や意思を持ったAIを実現したいという気持ちは変わっておらず、その志と当社でのビジネス経験値とを組み合わせることで、脳とAIの融合に挑戦し続けています。

自動車の安全運転における研究開発

アラヤ社は5年以上に渡り、本田技研工業株式会社様と共同で、自動車の安全運転のための脳科学活用について研究を行っています。

安全運転において脳のどこの部分が重要なのかを研究するため、fMRIとドライビングシミュレーターを用いた実験により、運転が上手い人と一般の人は運転中の注意がどのように働いているのかを脳活動から分析するというプロジェクトを行ってきました。

このプロジェクトで得られた知見は実際の製品開発にも活かされており、脳科学を自動車業界でのビジネスに活用した事例となっています。

楠:自動車での運転ミスは社会的な問題にもなっているため、脳科学の寄与によって少しでも問題を解消することができれば、ブレインテックの社会的価値は今より高くなりそうですね。

金井様:自動運転の進捗状況や、少子高齢化における高齢者の安全運転を考える上でも、重要な知見になると考えています。

脳波を正解データとした人間の状態推定AIの開発(Face2Brain)

最後に、脳波計ではなく非接触情報でのセンシングを可能にするAI開発の取り組みについてご紹介いただきました。

この取り組みでは、顔の情報から脳活動を再構成するAI技術の開発を進めており、非接触情報からでも大量のデータを取り溜めることに成功しているそうです。

このデータがアセットとなり、顔情報からのセンシングの精度が高まってくれば、脳科学の様々な活用に期待がもてるようになります。

村田:ブレインテックの社会実装を進めていく上で、車の運転時などに脳波計を被るということはハードルが高いため、顔情報や、脈拍計、スマートウォッチなどと相関性をとり、脳波の情報と融合させるような使い方も、未来の姿として期待されるのではないかと考えています。

サイエンスと経済の融合を通して社会課題の解決を目指す

アラヤ社は、アカデミアと社会との間に位置することで、サイエンスと経済との融合を目指しています。

金井様:学術的研究成果と社会における新しい技術の活用とが分断されてしまうことは大きな課題ですが、その距離を縮めることで、社会側では新しい技術が活用され、更なる研究に向けて研究者を支援することができるといった好循環が生まれると考えています。

当社はブレインテックの事業を通して、国内外のアカデミアの人たちを活気づけ、社会の中でその研究の価値をもっと感じてもらえるようにしたいというビジョンで、今後も更なる活動を進めてくとのことです。

まとめ

今回開催のなるほどブレインテックでは、ブレインテック最新情報について、国内外の事例を交えたお話を聞かせていただくことができました。

ブレインテックの社会実装について、素早い実装と情報の正確性とのバランスを取っていくことは、非常に重要であると同時に難しい課題であると感じます。

この課題を乗り越えるためには、脳科学×AI事業における専門的な知識や経験が必要となってくるため、マクニカはこの部分からお客様のサポートをさせていただければと考えています。

本記事をお読みいただき、なるほど!と少しでもブレインテックについての理解を深めていただけましたら幸いです。

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