ブレインテック×AIで製造業をサステナブルに 第2回~脳波を活用したAI学習方法とは~

ブレインテック×AIを活用した製造DX

「ヒトの微妙な判断」と「個人間の技能レベルでの差異」

「ブレインテック×AIで製造業をサステナブルに」第1回 にて、脳波×AIによる製造DXへのメリットをご紹介しましたが、第2回の今回は弊社が実際に取り組んだ事例をもとに、脳波を扱ったAI開発の技術的側面をご紹介いたします。

今回取り上げるのは、製造部品のネジの欠損検査自動化に向けたAIモデル開発の事例です。
当初、製造現場では従業員の目視検査によって部品の欠損を検査しておりましたが、人手不足や従業員の高齢化から、属人的になっている検査工程を自動化することがミッションとなっておりました。(製造業でのユースケースはこちら

近年製造現場での異常検知は、AIの画像認識モデルで自動化を図るケースが多いですが、欠損検査において「ヒトの曖昧な判断」や「個人間の技能レベルでの差異」が発生していることが課題となっていました。

そこで、弊社のソリューションでは元来のAIの画像認識モデルに、脳波データを活用するという手法を採用しました。

脳波を活用したラベルデータのメリット

ハードラベルとソフトラベル

通常のAI学習では、学習データに対して01かの判断であるハードラベルを使用します。

欠損検査を例にすると、正常な部品の画像データに対しては0を、
欠損がみられる部品の画像データに対しては1をラベルとして付与します。
このように白黒はっきりしているラベル付けをハードラベルと呼び、これは元来のアノテーションでは広く使われているものです。

しかし実運用の場面では、01かの判断がはっきりしない場合や、判断基準がヒトによって異なるという場合もあります。
そこで、今回の事例で活用することになったのが、ソフトラベルです。

ハードラベルに対して、脳波のように常に変動している、0と1との間の情報を付与したラベルをソフトラベル と呼びます。
例えばヒトが認知する事象に対して、脳が強く反応すれば脳波が大きく振れます。

これにより、その時の脳波の波形をターゲットの事象と紐付けてラベルを付与するということができます。
また、脳波は様々な大きさに振れるという特徴により、事象に対してヒトがどれぐらい確信しているかを読み解くことができるため、0か1かの間にあたる曖昧な判断もラベルとして扱うことが可能となります。

本事例でも、ネジの欠損検査においては「ヒトの曖昧な判断」が起きることで学習データのラベル付けが難しくなるため、脳波データを活用することがメリットになると考えました。

図1:ネジの欠損検査時に沿い呈された熟練者の脳波データ(ターゲット:欠損にたいしての反応、ノンターゲット:正常物に対しての反応)

ソフトラベルの効果

本事例ではGround Truth(GT)、ハードラベル、ソフトラベルの3種類を学習データとして与えたAIモデルについて、それぞれの精度評価を行いました。

GT
AIモデルは、製造現場の検査員が、01かのラベル付与を手動で行ったデータを学習させたモデルです。
次に、ハードラベルのAIモデルは、GTで学習させたAIモデルについて、検査時の脳波を0か1かに変換したラベルで再学習させたモデルです。
そして、ソフトラベルのAIモデルは、検査時の脳波のソフトラベルをGTで学習させたAIモデルに再学習させてモデル化したものです。

これらの条件でAIモデルの学習を行ったところ、ソフトラベルで学習させたAIモデルが正解率0.9以上を達成し、1番精度が高いという結果になりました。
また、GTAIモデル学習では、AIモデル特有の過学習が発生しやすいことがわかり、ソフトラベルのモデル学習では、ラベルの平滑化の効果により効率的な学習が行われたことがわかりました。

総合的なAIモデルの掛け合わせ

パネルデータとアンサンブル学習

本事例において、ヒトの曖昧な判断をAIモデルが自動化することの難しさを挙げましたが、「個人の技能による差異」には更なる難しさがありました。
製造業の異常検知などは、1人ではなく複数の従業員で担うタスクですが、経験年数などのベテラン度合いや個人の感覚値によって判断に差が出てしまうことは避けられません。一方、教師あり学習でAIモデルを学習させるには、軸となるラベルデータが必要となります。

そこで本事例では、パネルデータを活用したAIモデル学習とアンサンブル学習という2つの手法について、モデルの精度を比較しました。

これらの2つの手法は、通常のAIモデル学習でも活用されている手法です。

まず、パネルデータを活用したAIモデル学習とは、複数人から取得した脳波データの加重平均であるパネルデータを、1つのラベルとして学習させる手法です。
次にアンサンブル学習は、脳波データを活用して学習した複数のモデルのスコアを平均化する手法です。
それぞれ手法は違うものの、複数のラベルを平均化して1つにまとめるという手法となっています。

用途に適した学習方法

本事例では、個人の脳波データをラベルに学習させた個人モデルと、前述のパネルデータを活用したモデル、アンサンブル学習を活用したモデルの合計3種類で精度評価を行いました。

評価の結果、パネルデータを使ったモデルはスコアの最小値と最大値の差が小さく、安定性が一番高いモデルとなりました。
一方、アンサンブル学習を行ったモデルは、ソフトラベルを活用した際の正解率が0.9451番高く、精度が最も優れているという結果になりました。

一見精度だけに注目すると、アンサンブル学習を取り入れることが最善のようにみえますが、実際のAIモデル運用という観点で考えるといかがでしょうか?

今回の場合、アンサンブル学習は精度スコアの最大値が最も高いですが、パネルデータの方が様々なデータに対しての汎用性に優れているという見方もできます。
どちらも比較的精度が高い場合、どちらの特性が実運用時に適しているかによって、学習手法を検討する必要があります。

図2:個人モデル、パネルデータを使ったモデル、アンサンブル学習の精度結果比較

ブレインテック×AIを製造業で活用するメリット

「ヒトの微妙な判断」をラベルデータにする

先述のとおり、元来のAI学習では0か1かのハードラベルが広く活用されておりましたが、「ヒトの曖昧な判断」を学習に生かすためには、脳波データを扱うことの方が適しています。

その理由として、脳波データの常に変動するという特性によりソフトラベルが可能になるという点はもちろんですが、アノテーション時のラベル付与においても、脳波測定により曖昧な判断を忠実にデータ化できるという点も挙げられます。
また先述のとおり、ソフトラベルを扱うことでデータの正則化の効果が見られ、通常のAIモデルで懸念される過学習が発生しづらくなることも脳波データを活用する利点になります。

「個人 の技能による差異」を活用する

今までヒトが行っていた判断をAIで自動化する際に課題となっていたのが、「個人の技能による差異」が原因で精度の高いラベルデータの準備が難しくなるという点でした。
しかし本事例のように、パネルデータを活用した学習やアンサンブル学習など、AIモデルの学習手法を工夫することができれば、特定の個人の判断に偏らないような様々な技能者の判断をバランスよく学習することができます。

まとめ

『ブレインテック×AIで製造業をサステナブルに』第2回目の今回は、製造部品であるネジの欠損検査をブレインテック×AIで自動化したソリューションについて、弊社が実際に取り組んだ事例をご紹介しました。AIを活用する場面では様々な課題が存在しますが、今回の事例では「ヒトの曖昧な判断」や「個人の技能による差異」からAIモデル学習の難しさに注目しました。その中で、脳波データをラベルとして扱うなど学習手法を工夫することで、結果として正解率0.9以上を達成することが可能となりました。

昨今、少子高齢化や技能継承の担い手が問題視されている製造業ですが、以前から既に注目されているAIでの自動化に加えて、脳波データを活用したソリューションの可能性が期待されます。

様々な現場がある中、目的に適した方法での製造業のDX化が進むことで、現場での働き方や産業自体もサステナブルに変わってくることが望ましいでしょう。

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