脳活動情報を使って顧客の本当の気持ちを察知! ~脳波で新しいアプローチ~

脳波から読み解いた感情や思考をビジネスに活かすために

株式会社マクニカ フィネッセ カンパニー
第4統括部 第2推進コンサルタント長森雅史

最近、脳活動情報を利用した新たなマーケティング手法(ニューロマーケテイング)が提案されています。人の感情や意志決定などを脳活動から解析し、今までのアプローチでは見えていなかった消費者の心理や購買行動意味を見出し、サービスや製品の改善につなげることができる可能性があり、注目されています。
本記事では、脳科学の観点から人の意思や決定はどのように生まれるのか紹介しながら、事例などを交えて株式会社マクニカの長森が紹介します。

近年のブレインテック市場の動向

ブレインテックとは「脳(Brain)」と「テクノロジー(Technology)」を組み合わせた造語で、脳科学を利用したテクノロジーやサービスです。ブレインテックで脳活動情報の取得や情報分析を行い、製品やサービスに活かすことができます。

2010~2020年の世界のブレインテック投資金額の推移は、ほぼ右肩上がりで成長し、2010年の約331億円から2020年は7,300億円と10年で約21倍に伸び、総額3兆円規模に達します。2020年時点でブレインテック市場に関わる企業は1,200社に上り、650の投資企業がブレインテック企業に投資をしてします。

ブレインテックを利用した製品やサービスは多岐に渡ります。例えば、医療・医薬では脳の病気の診断や医薬開発などに利用されています。ブレインコンピュータインターフェースでは、脳とコンピュータを接続して脳の司令により機器を動かすことできるようになっています。そして、マーケティング分野での活用も始まっており「ニューロマーケティング」という新分野を生み出しました。

ニューロマーケティングとは

インターネットでは「ニューロマーケティング」を「消費者の脳内の反応を見て、その心理や行動などの広告効果を分析する手法」と説明されています。これだけを見ると、企業のサービスや宣伝に対する消費者の意識、アンケート調査のようなものに見えますが、実は「脳内の反応」を見ることが重要なキーワードになります。
最近、企業から「顧客アンケートをしてもあまり当てにならない」「本当に欲しい顧客のフィードバックが得られない」という声が聞かれ、従来のインタビューやアンケートだけでは、本当に貴重な顧客の声を拾えていない現状が見られます。加えて、ユーザーエクスペリエンス(UX)という顧客に直接体験してもらうことが重視され、取り組む企業も増えています。
体験から得られる顧客の声が正確で正直なフィードバックでなければ、企業にとってUXの意義が薄れてしまいます。


※ニューロマーケティングで、顧客の好みを見極める方法をこちらの記事で解説しています!


例えば、車を試乗した際に、運転の快適性を営業担当者にフィードバックできるでしょうか。アクセルを踏んだ時の加速性、ブレーキを踏んだ時の制動性などを言葉にできますか。営業担当者に「旧モデルからサスペンションが変わりまして」と言われて、初めてそのことを実感し、セールストークに乗せられてフィードバックしてしまうことがあるかもしれません。

人間には意識的と無意識的な判断があります。その割合を、海を漂う氷山に例えれば、意識的に行う判断は5%ほどしかなく、残りの95%は無意識的な判断と言われます。

意識的な判断は、広範囲かつ高度な知識を基に、非常に複雑な思考プロセスを辿るため決断までに時間がかかり、脳への負荷も高くなります。
一方の無意識的な判断は、直感と強く結び付いています。ひと目で見て「良さそうだ」といった判断は直感的かつ高速で、脳への負荷も低いのです。また直感には、一度判断すると覆すのが困難という特性があります。
例えば、ショッピングでいろんな商品を見て回っても、結局購入するのは最初に良いと感じた商品でしょう。日常的な判断の大部分は、このようなプロセスを経て行われているのです。

つまり、ニューロマーケティングとは、脳の反応を見て顧客の無意識を捉え、フィードバックを行い、消費者やユーザーの本音を理解して、より良い製品の開発やコンテンツの改良、ブランディングやマーケティング戦略に活用できるというものになります。

人はどうやって判断しているのか

人の判断と脳活動に関する研究をいくつか紹介します。まずは、著名な神経科学者のBenjamin Libet氏が行った、人が手首を曲げる単純な動作の際にどのようなタイミングで脳活動が始まっているのかというものです。

この研究では、人の頭に脳波計を装着し、被験者に好きなタイミングで手首を曲げてもらいます。ここでは時計を使用します。被験者に、手首を曲げる際にどのタイミングであったか、覚えてもらうようにします。すると、被験者が手首を曲げる0.5秒前に脳波が検出され、運動が開始する0.5秒前に脳活動が開始していることがわかりました。この結果では、「脳が手首を曲げる準備をしているためだ」と考えがちですが、実際には、脳活動の開始から0.3秒後に手首を曲げることが決定され、運動が開始されていました。つまり、人が手首を曲げる行為を決定する0.3秒前に脳活動が開始されていることになります。

Libet氏はこの結果に驚き、何度も実験を行ったといいます。他の研究者も同様に実験を行いましたが、同じ結果だったそうです。この結果から、人間の自由な意志は幻想ではないかという疑念が生まれました。

もう1つはカードゲームを使った実験です。この実験では、「利益」と「損失」と書かれたカードの山を4つ(ABCD)用意します。ABの山はハイリスク・ハイリターン、CDの山はローリスク・ローリターンです。被験者にはこのことを知らせずに、精神性発汗を計測しながらカードを引いてもらいます。精神性発汗とは、緊張した際に出る汗のようなものです。

実験の結果、被験者は平均80回カード引いた時にABは危険な山、CDは安全な山だと気付き、それ以降はCDの山からカードを引くようになりました。さらに分析すると、約40回で無意識にABの山からカードを引くのを避けていました。ところが精神性発汗の量を見ると、約20回でABの山からカードを引く時の方がCBの山から引く時よりも多いことがわかりました。

ここから、約20回目にABの山からカードを引く際の緊張度が高く、既に体が危険を勘付いていたとわかります。このことから、まず勘付いて行動が変わり、後から意識付けがなされていることになります。無意識の中で判断が行われ、人が意識的と思っていたことが実はそうではなかった可能性が浮かび上がります。

こうした実験結果からは、「人の行動は無意識のうちに決められ、後付けで説明し得る」ということがわかります。そのため、インタビューやアンケートでは人の行動理由を正確に説明することができない可能性が高く、インタビューやアンケートに回答する本人も気付いていない、あるいは本人が理由を説明してもそれが正しいとは限らないというわけです。そこで、ニューロマーケティングにより脳活動から人の行動理由を正確、詳細に見ていく必要性が生じています。

ニューロマーケティングの可能性

ニューロマーケティングによって、どのように顧客のフィードバックを得るのでしょうか。ここでは脳波を使って感情を見ていくことと顧客の期待に対するギャップを見ることを解説します。

脳波を使って感情を見ていく例では、「パブロフの犬」という有名な実験があります。犬がベルの音で餌を貰えることを何度も経験するうちに、ベルの音を聞くだけでよだれを出すようになるというものです。これは、本来何ら意味を持たないベルの音に対して、犬がベルの音に「報酬を得られる」と期待するようになったからと考えられます。

次に、顧客の期待に対するギャップを見るものです。猿を使った実験では、まず左右2つのライトがあり左側のライトが点灯すると、そこのボタンを押すようにします。これを選択行動の基準とします。テストを開始しライトが点灯すると、猿には左右どちらかのボダンを押すことが求められます。左側のライトが点灯して左側のボタンと押すと報酬のバナナが得られ、逆のボタンを押してしまうと何も得られないというものになります。これを繰り返すうちに猿は、点灯した側のライトと同じ側のボタンを押すとバナナが得られるということを学習していきます。

そして、ある程度慣れたタイミングで報酬をバナナからレタスに変更すると、何と猿が怒りを見せました。これは、猿が特定の行動をすると報酬としてバナナが得られると予測しており、その予測を下回る報酬だったことに起因すると考えられます。

この2つは動物の実験ですが、基本的に人間も同じです。人は五感から得る情報と経験や学習から将来に得られる報酬を予測して行動に移します。次に、行動の結果を検知し、期待した結果との誤差を判定します。その誤差から学習したり、喜びや失望をしたり、怒ったりといった感情が生まれます。そして、得た結果が予想した報酬ほどではなかった場合、特有の脳波が発生します。これを測定することで、人の期待値とのマイナス側のズレを見ることができます。

ニューロマーケティングは、このように顧客の無意識を明らかにでき、有益な情報を得ることができます。
例えば、企業広告や商品パッケージに対し消費者が抱く印象やその浸透について、消費者自身も気付いていない声を聞き、効果測定や戦略に活かすことができます。さらには、製品やサービスの開発、改善における正しい方向性と深い検討をもたらすことが期待されます。まさに脳科学がマーケティングのあり方を変えていく可能性が出てきているのです。

脳活動情報を利用したマクニカが考える未来の社会

ニューロマーケティングとは、脳科学を利用したブレインテックの一部です。ブレインテックを基にした製品やサービスが今後開始され、利用シーンが広がっていくと考えられます。その一つとして、パーソナライズされた製品・サービスの提供が一層進むでしょう。既存の製品・サービスの多くは、大きな集団(マス)に向けた設計ですが、一人ひとりの個性や嗜好をターゲットにした活動が増えていくでしょう。ブレインテックで、個人の幸福を基準にした社会づくりが実現されていくのではないでしょうか。

また、クロスコミュニケーションの加速も考えられます。言葉にできない思考には、人を感動させたり、社会にとって有益だったりするものがあります。例えば、仮想空間で人と人がつながり、新しいアイデアあるいは悩みや苦しみが世界と共有され、さらにより良い社会が形成されていくかもしれません。

ブレインテックは、マジョリティーだけのものではなく、社会的マイノリティーの方々にも焦点が当てられ、いろんな立場、性別、国籍、健常者や非健常者も利用する時代がやって来ます。頭の中に思いついた言葉や画像、イメージ、音、動画が、共同の仮想空間を経由して、目や耳、その他の感覚を通じて実感する形になり、表現の多様性を生み出すでしょう。

このようにブレインテックは、脳活動情報を利用して単に企業活動を推進するだけでなく、多様化する個人の価値観が尊重される社会の実現により寄与していくものと期待されます。マクニカは、ブレインテックを通じて誰も置いてきぼりにしない、個人にとってさらに豊かな社会づくりに貢献していきます。

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