幻のわさびを守るコンテナ型植物工場 - 環境制御型農業による農業DX-

鮮度のいいお魚を使ったお寿司を味わう際、独特でさわやかな風味を持つ“わさび”は日本人にとって欠かせない調味料の一つとなっています。

  

そんなわさびですが、近年お寿司やお刺身をはじめとする日本食が海外で人気を集めていることをきっかけに、世界的需要が増加しています。

唐辛子にはない、鼻から抜ける独特の辛みが癖になる方が少なくないようです。

しかし海外で流動している多くは、ヨーロッパ伝来の「西洋わさび」というもので、わさび大根とも呼ばれ、やはり本物の味には届かないと本わさびを求める外国人が増えています。

このように、海外で本わさびの需要が増加する一方で国内でのわさび生産量は年々減少傾向にあり、わさびのアウトバウンドはおろか国内では市場価格の高騰が続いています。

 

本記事では、わさび栽培の問題を解決し豊かな食文化を未来へつなげるべく、先端技術を活用することで、省力化・精密化・高品質化を目指す「環境制御型農業」を40フィートのコンテナ内に実現した小規模な植物工場である「わさび栽培モジュール」について紹介します。

 

「本わさびを自前で調達したい」

「日本のおいしい作物を守りたい/広めていきたい」

「新規事業として植物工場に興味がある」

という方の検討材料の一つにしていただければと思います。

実は奥が深い!わさびとは?

わさびの種類について

日本人にとって和食から洋食、フレンチまで様々な料理に欠かせない存在のわさび。そのわさびには日本固有の「本わさび」とヨーロッパ原産の「西洋わさび」が存在します。

私たちが口にする機会の多いチューブのわさびや、ふりかけ・お茶漬けの素などに入っている粉わさびには西洋わさびが使用されていることがほとんどです。

西洋わさびは鼻にくるツーンとした辛みが特徴で、自生する力が強いため比較的栽培しやすいと言われています。

それに対して本わさびはとても繊細で、恵まれた自然環境、人々の丁寧な手仕事が加わることで成長します。

わさびの種類

本わさびは、清流の流れるわさび田で栽培する「沢わさび(水わさび)」と涼しい山林で栽培する「畑わさび(陸わさび)」の二つの栽培方法があります。

沢わさびは、根茎を大きく育て、生食ですりおろして使用します。畑わさびは、茎を大きく育て、わさびチューブなど加工品向けに使用されます。以下では、一般的にわさびとしてイメージされることの多い沢わさびについて詳しく解説します。

 

沢わさびは「真妻種」と「実生種」の2種類に分類されます。

実生種は、一般的なわさびのイメージに多く見られる鮮やかな緑色をしており、辛みが控えめで、すりおろすと瑞々しいことが特徴です。

それに対し真妻種は時間をかけてゆっくり成長するため辛み・香り・うまみが強く、すりおろすと粘りがあるのが特徴です。

老舗のお寿司屋さんや料亭で使用されることが多く、わさびの品種の中で品質が良いとされており、市場での評価が最も高いわさびです。

とても希少性が高く、市場にも多くは出回らないため、我々日本人でも味わう機会は限られています。

-真妻種の特徴-

 ・香り、辛み、甘味、苦みのバランスが良い

 ・風味が強く辛さの中にほんのり甘さがある

 ・すりおろすと粘りがある

 ・水質・水温・土壌・日照時間・気温などの条件が揃わないと上手に育たない

 ・苗付けから収穫まで約1年半~2年と成長が遅く、途中で病気になるリスクも高いため希少性が高い

わさびの役割について

本わさびは昔から薬草として使用されていたほど栄養満点で多種多様な栄養素を持ち合わせているため、健康や美容に幅広い効果があると言われています。

過剰摂取は胃腸に負担がかかってしまいますが、一日に3~5g摂取することが理想と言われています。

本わさびの危機!?わさびが抱える課題と現状

そもそも本わさびの栽培には澄んだ水があり年間を通して冷涼であること、かつ日本の暑い夏を2回乗り越える必要があるため、国内では生産地がかなり限定されます。

実際に全国の本わさび生産量の約85%が静岡県・長野県・岩手県の3県に集中しており、規模拡大が困難かつ新規参入が難しいと言われています。

それに加え、近年では気候変動に伴う台風や大雨などの自然災害によるわさび田への被害、高齢化に伴う生産者・後継者の減少、ノウハウの属人化等が大きな課題となり、国内のわさび生産量は減少の一途をたどっています。

出典:農林水産省「特用林産物生産統計調査」よりマクニカにて作成

“わさび”という日本の貴重な食文化を守っていくため、気候や場所といった環境に左右されず、農業知識のない未経験の人でも安定的にわさびを収穫することができるようなものができないか?

こうした想いから、環境制御型農業を実現するテクノロジーの研究を行い、わさびが抱える課題を解決できる植物工場が開発されました。

コンテナ型の植物工場“わさび栽培モジュール”とは?

このわさび栽培モジュールは、株式会社NEXTAGEによって開発されました。

植物工場の大きさは40フィートコンテナ(約17帖)と比較的小規模です。

大規模な植物工場ではなく、わさびが必要とされる地域の近くに生産拠点を設け、高品質な真妻わさびを必要な時に供給できることを目指します。

定植可能株数は約1,800株です。LED照明、空調・水温調整、CO2供給管理、加除湿器などで環境制御された空間により、本来は約2年かかる真妻わさびを、10か月程度で促成栽培することが可能です。

コンテナ内部での栽培の為、気候変動や台風の影響も受けません。

また、コンテナ内部にはリモート監視システムを導入しています。カメラ、センサー情報を元に専門家が遠隔栽培指導や電話会議の開催、コンテナ内で異常事態が発生した際はアラートが出る仕組みといったサポート体制により、初めての方でも安心してわさび栽培を行うことができます。

まとめ

今回は本わさびと、その栽培に適した植物工場の紹介をしました。

ここまでお読みいただき導入検討してみたい!と思われた方は下記ボタンよりお問い合わせください