はじめに

昨今では、DXという概念はもはや珍しいものではなくなりました。いまや日本でも多くの企業がDX化に取り組んでいますが、その実現は一筋縄ではいかないものです。

そこで本記事では主に「これからDXを推進したい」「DXについて振り返りたい」というご担当者様に向け、数々のお客様と伴走してきた弊社ならではの、DXにおける「新規事業立ち上げ時の10か条」をまとめました。

なお、今回の記事は【前編】と【後編】をご用意しています。こちらの【後編】では10か条の詳細を、【前編】ではDXの基本や事例をご紹介しています。

DXによる
「新たな価値創造」のカギは?
10か条で学ぶ新規事業
立ち上げ時のポイント
【前編】の記事はこちらから!

その1. メンバーの共通言語となるシートの作成

価値仮説・検証方法を言語化し、サービスブラッシュアップのための共通シートを作成する

新規事業の立ち上げにおいては、チーム構成が成否のカギを握っていると言っても過言ではありません。そして良いチームを作るには、各メンバーの認識をしっかりとすり合わせ、全員が常に同じ方向を目指して進むことが非常に重要です。

そのために活用したいのが、上に示した「サービスデザインキャンバス」です。

なお今回の内容は基本的にDXの推進を前提としていますが、このキャンバスはさまざまな新規事業の立ち上げ時に活用できます。あらかじめこのシートに「誰に、なにを、なんのために伝えるのか?」「プロジェクトやビジネスの仮説」といった要素を書き込むことで、要点がクリアになります。

項目数は少なくありませんが、プロジェクト立ち上げメンバーが1つの目標をもって話し合い、考えを整理することは、チーム作りにおける最初のコミュニケーションの良い機会になります。

また仮に進行途中で目的を見失いそうになったとしても、このシートを見直すことで、原点に立ち返ることもできます。さらにこのシートを活用しながら「結果」や「学び」といったプロジェクト終了後の振り返りも行うことで、次回にその経験が活かせるとともに、ノウハウが社員に見える形で蓄積されるというメリットもあります。

下の画像は、【前編】の記事で事例をご紹介したSOMPOリスクマネジメント様のプロジェクトにおけるサービスデザインキャンバスの一部です。

●SOMPOリスクマネジメント社の例を一部抜粋

1:誰に、なにを、なんのために」の項目はもちろん必須となりますが、実際に記入されたシートをご覧いただくと、「2:仮説」でプロジェクトの背景、「3:検証方法」で「どうやって、何を実現するのか」などをあらかじめ整理しておくことの大切さが垣間見えます。

たとえばこの事例の場合、フォークリフトによる事故件数の低減は業界としての目下の急務でしたが、「コロナ禍で物流が増えることでさらに事故が増えるのでは?」という的確な仮説も、プロジェクトを構成する要素として欠かせません。

各所で議論されているように、DXの推進には経営者や関係者の巻き込みが必須となります。もし「何から始めればいいのか分からない」という場合には、手始めにこういったシートを作成し、全体像を見える化したうえで、相談を持ちかけてみてはいかがでしょうか。

その2. 収益の流れを構造化する

想定するビジネスやサービスの建付けを構造化する

経営層にアプローチするのであれば、プロジェクトの収益化という視点も重要です。

なぜなら、プロジェクトを創るということは、仮にそれが目の前の業務カイゼンに関わるものであったとしても、長期的な視点で見れば収益を生み出すことに他ならないからです。すなわち事業計画を立てる上では、収益の流れを構造化することも必須要件だと言えるでしょう。

そのためには上に示した「ビジネスモデルキャンバス」を用い、顧客セグメントや価値提案(どんな価値を提供できるか?)などを考えてみることをオススメします。なかには「その1. メンバーの共通言語となるシートの作成」でご紹介した「サービスデザインキャンバス」に近い項目もありますが、こちらは基本的に顧客(外部)を想定し、プロジェクトの内容をより掘り下げたものというイメージです。

下の画像は【前編】の記事で事例をご紹介した、コイワイ様のプロジェクトにおけるビジネスモデルキャンバスです。

●コイワイ社の例

コイワイ様では鋳造による試作品事業を展開しており、DXによる見積業務効率化(3Dデータを活用した、過去類似案件からの検索システム導入など)を行いました。その背景に想定されていた顧客セグメントには、同社と同じく試作品事業を展開する企業、機構部品を試作するユーザーなどがいました。

そしてコイワイ様としては、DXを行うことで、「見積試算を一から試行錯誤することなく(一連のやり取りを)遂行できる」「試作や開発の件数を増大できる」といった、自社にも顧客にもメリットがある価値提案が可能になり、結果としてビジネスチャンスを拡大できたというのが、一連の流れというわけです。

DXを行うことで、自社と顧客にどんなメリットが生まれるのか?」というのは当然あるべき問いではありますが、こうしたツールを使って整理しておくことが重要です。

その3. とりあえず「モノ」を試作し、仮説検証を繰り返す

DX化は多くの場合、長い時間を要します。そのため、いきなりゴールに近道しようとするのではなく、「小さな成功」の積み重ねを繰り返すことを目指します。

具体的には、「その1. メンバーの共通言語となるシートの作成」や「その2. 収益の流れを構造化する」でご紹介したキャンバスが固まったら、できるだけ早い段階でアプリケーションなどのプロトタイプを試作し、「実際に使ってみた際のイメージ」を得られるようにしましょう。そして、試作と実用を何度も行うのです。

実際、「DXAIといったテクノロジーを活用して何ができるのか」を口頭や文章だけで表現することは難しいものです。またプロトタイプを作る中で、プロジェクトの立ち上げ当初は見えていなかったユーザーのインサイトや、真の課題が明らかになることもあるかもしれません。

万が一、プロジェクトの途中で流れが大きく変わりそうなときは、キャンバスを新たに描き直すこともお忘れなく!

その4. ユーザーの“顔”を思い浮かべる

モノを創る際は、それを使うユーザーの顔(ペルソナ)を思い浮かべてみることも大切です。考えるべきことはいくつもありますが、一例としては下記のようなものが挙げられます。 社歴(ベテラン or 新人) 業務における仕事や役割 デジタルリテラシーの有無(専門用語を使っても問題がないか) 何に困っているか?(ニーズ) DX化により、どうなってほしいか?(ゴール) こういったことをイチから考えていくと、サービスを作る際に「文字はできるだけ大きく」「日本語だけを使う」など、相手にとって使いやすいモノが生まれる可能性が高くなります。 作る側にとって難しいモノは、おそらく使う側にとっても難しいモノであると考えられます。だからこそ、「どんな相手が使うのか?」はあらかじめしっかりと考えておく必要があります。

その5. ユーザーの体験と思考を書き出す

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「その4. ユーザーの“顔”を思い浮かべる」でご紹介したように、ユーザー像が明らかになったら、今度はユーザーが現在している体験と、サービス提供後にする体験(ストーリー)について考えましょう。

このとき、軸を「行動」「思考」「感情」の3つに分けたうえで、「ユーザー自身の課題」と「今、ユーザーに応えられていない課題」を洗い出すことがポイントです。そうすることで「ユーザーは○○を考えているから、○○なことで困っているのではないか」という仮説を立てられるため、実際にアプリケーションなどを設計する際、着目すべき箇所が見えやすくなります。

その6. チームを構成する

技術ドリブンではなく価値ドリブンで遂行できるチームの構成

10箇条も半分を超えたところで、ようやくチーム構成についてです。

「その1. メンバーの共通言語となるシートの作成」でも述べた通り、プロジェクトの成功には盤石なチーム構成が欠かせません。ここで補足したいのは、「技術だけでなく、価値を顧客に提供することをメンバーに意識してもらうのが重要」という点です。

DXのプロジェクトでは、エンジニア・データサイエンティスト・デザイナーなど、様々な業種のメンバーが業務を共にすることになります。それぞれが各分野のプロであるため、個別に見れば良質なコンテンツが出来上がることには期待がもてます。

しかしもっとも大切なのは、「顧客が求める方向に正しく向かっているかどうか」です。そのため、チームの特性と先方の事情・要望などを正しく理解し、うまく舵取りができるPMの存在もまた、必要不可欠なものとなります。

その7. パートナー会社とも価値観を共有する

自社のリソースが不足しており、外部ベンダーを活用するとしても
ワンチームで社会課題解決をすることを忘れてはならない

プロジェクトによっては、パートナー会社(ベンダー)の協力が必要なケースも出てくることと思います。

ここでぜひとも意識したいのが、プロジェクトの背景やゴール地点、すなわち「その1. メンバーの共通言語となるシートの作成」や「その2. 収益の流れを構造化する」でご紹介したようなキャンバスをパートナー会社と共に描けているかどうか、という点です。その理由は、DX推進のプロジェクトでは関係者がワンチームとなり、同じゴールを見据えて進んでいくことが何よりも大切だからです。

プロジェクト進行中のコミュニケーションは当然として、キックオフ前の段階でいかに双方の距離を詰められるかも、成否を握る重要な要素の1つと言えます。

その8. 海外の事例を参考にする

サービスの設計や訴求において自社ノウハウが無い部分を外部のベストプラクティスから参考にする

いつの時代も、良質なコンテンツは先人の優れたアイデアが起源になっている場合が少なくありません。これはDXにおいても同様です。

特に、資金調達を行っている海外スタートアップ企業はヒントの宝庫だと言えます。たとえば予知保全サービスの事例について知りたい場合、WEBの検索ウィンドウで「Predictive maintenance(スペース)Startup」と検索するだけで、様々なベンチャーや、シリコンバレーのスタートアップ企業の情報を見ることができます。

当然ながら資金調達の枠や見込みユーザーの規模が大きいほど、世界的な成功例だと言えます。自社が今後取り組もうとしていることに対し、海外ではどのような事例があるのか、その海外企業と比較した際に自社の強みが何なのかということを考えるのもまた、プロジェクトの質を向上させる一因となり得るでしょう。

またサービスの訴求を行う段階で「自社はウェブやコンテンツの知見が少ない」といった場合に、そういったスタートアップ企業がどのような見せ方をしていて、どんなホワイトペーパーを配布しているのかといったことを参考にすれば、リリースまでの時間短縮などを図れるかもしれません。

その9. 専門家の話を聞く

ドメインエキスパートへのヒアリングを1人あたり2~3万円で実施できるサービスを活用

テクノロジーベンダーが新たなサービスを作る際に直面する壁の1つに、顧客が解決したい具体的な問題や業界構造の実態のリサーチが難しいことが挙げられます。そこでオススメしたいのが、各分野の専門家、いわゆるドメインエキスパートへのインタビューです。

かつてはコンサルティング会社に依頼し、数ヶ月で数千万のコストがかかるという事情も見られましたが、昨今では経営者クラスへのインタビューが1人あたり23万円で行えるサービスもあります。

「その4. ユーザーの“顔”を思い浮かべる」や「その5. ユーザーの体験と思考を書き出す」ではユーザー像や体験をあらかじめ予想することを推奨しましたが、自社内でその実行が難しい場合、この手段を検討してみてはいかがでしょうか。

その10. 逆算と仮説で事業計画を立てる

(※)ペンシルバニア大学ウォートンスクール教授のイアン・マクミランと
コロンビア・ビジネススクール教授のリタ・マグラスが考案した、計画立案と実行に関する手法

事業計画を立てるにあたっては、当然ながら利益やコストなどを考える必要があります。しかし、「DXが成功すれば億円の売上ができます」などと正確に明示することは、非常に難しいです。

そこで弊社が推奨しているのが、「仮説指向計画法(Discovery-Driven PlanningDDP)」です。この方法は、最初に「到達したい利益」を設定し、そこから逆算をしていくというものです。具体的には、下記のような考え方をします。 

①営業利益率は20%を目指す
②必要な売上は5億円
③②より、許容原価は4億円
④製品(サービス)の価格は月額20万円(年間で240万円)
⑤④より、ユーザー(顧客)はおおむね200集めたい
⑥市場規模としては約1,000ユーザーを見込める
⑦⑥より、自社としては20%のシェアをとっていきたい
⑧自社としては1520人のリソースが必要(その分の人件費がかかる)
⑨クラウドのインフラコストが約5,000万円かかる

…など

もちろん各種計算における考え方はこの限りではありませんが、ひとつの例として参考になれば幸いです。

終わりに

今回は【前編】と【後編】に分け、DXの基本や事例、新規事業立ち上げにおける10か条をご紹介しました。

弊社はDXへの道のりは会社によって異なる、すなわちお客様の数だけ答えがあると考えており、それゆえにお客様との伴走を何よりも重視しています。今回の記事はどちらかといえばDXへの入り口を開くものでありますが、少しでもDXを推進するみなさまのお役に立てば幸いです。

今後もこうしたコラムや事例などのコンテンツ更新は定期的に行ってまいりますので、ぜひともよろしくお願いいたします。

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