はじめに

昨今では、DX という概念はもはや珍しいものではなくなりました。いまや日本でも多くの企業が DX に取り組んでいますが、その実現は一筋縄ではいかないものです。

そこで本記事では主に「これから DX を推進したい」DX について振り返りたい」いうご担当者様に向け、数々のお客様と伴走してきた弊社ならではの、DX における新規事業立ち上げ時の 10をまとめました。

なお今回の記事は【前編】と【後編】をご用意しています。【前編】の内容は DX の基本や事例のみとなっており、10条の詳細は【後編】でご紹介しているため、お好きならご覧いただけますと幸いです

DXによる
「新たな価値創造」のカギは?
10か条で学ぶ新規事業
立ち上げ時のポイント
【後編】の記事はこちらから!

そもそもDXとはなんだったか?

一口にDXと言っても、「その定義は人それぞれ」……と耳にすることもあるため、まずはDXというコトバをほんの少しだけ見つめ直してみましょう。参考までに、経済産業省による定義は下記の通りです。

 “ビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して顧客や社会のニーズを基に製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し競争上の優位性を確立すること”

この内容をあえて1単語でまとめるのであれば、DX=「デジタル化」がふさわしいと思われます。しかし、ここで注意したいのは「デジタル化をすること自体が目的になる」という点です。

実際、「DX化を目指す途中でゴール地点を見失い、計画が頓挫した」といった事例を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。経済産業省の定義にも「変革」とありますが、DXにおける基本的なゴールは「顧客視点を鑑みたうえで、新たなビジネス価値を創出すること」などが望ましいと考えられます。

そんなDXですが、実態としては様々なカタチがあります。

たとえば請求書や名刺などをデータで管理し、業務効率化を図ることで、社員をよりクリエイティブな仕事に従事させることを目的としたクラウドサービスなどは、よく見られます。

その一方でオススメしたい方針の1つが、「新規事業創出を見据えたDXの推進」です。先述の例は主に自社の業務改善のために行うものですが、さらなる未来を目指し、より会社を発展させるためのDXを進めることが、今後はより重要になります。

新規事業創出の重要性と、3つの“型”

では、なぜ新規事業創出が重要なのでしょうか。今回は自動車業界で一次サプライヤー(部品製造・供給など)を営む、いわゆるTier1(ティアワン)メーカーを例に考えてみましょう。

Tier1メーカーの顧客は、OEM(自動車メーカー)です。そして着目すべきは、昨今の自動車業界において、自動運転や電気自動車(EV)といった技術の発展が非常に目覚ましいという点。これ自体は業界全体で見れば明るいニュースであり、様々なOEMが精力的に取り組んでいることでしょう。

しかしTier1メーカーは、自社がいくら優れた製品を開発したとしても、既存の取引先であるOEMが今後の潮流の中で成長するのか、衰退するのかの予測が難しく、業績が先方の事情に左右されるリスクがあるわけです。

だからこそ、今まではタッチできていなかった新規顧客の開拓が重要であり、そのカギを握っているのが、とりわけDXによる新規事業創出(≒顧客視点を鑑みたうえで、新たなビジネス価値を創出すること)なのです。

そして弊社ではこの新規事業創出を、3つの“型”に分類しました。下の図は、それらを示したものです。なお「業務改善(図左下)」は先述した、主に自社や既存顧客の業務効率化を図るための取り組みを指しています。

新規事業・イノベーション創出の分類

イノベーションは、対象とする顧客とその領域によってコア適用型、ゼロスタート型、業務拡張型の3つの型に分ける事ができます。

新規顧客

新規事業創出

コア適用型

自社のコア技術を新規クライアントに適用した形。

新規事業創出

ゼロスタート型

新たなビジネス領域に新参者として入る形。卓越したアイデアが必要であり、難易度は高い。

既存顧客
・自社

業務改善

既存業務の効率を高めるためのシステム化。DXで比較的成果が出ている領域。

新規事業創出

業務拡張型

既存ビジネスで培ったパートナー関係はそのままに、お客様と共に新規事業創出を行う。一般的な新規事業創出であり、大企業が得意とする領域。

  既存領域 新規領域

昨今では、既存顧客と共に行う「業務拡張型(図右下)」もよく見られます。しかし弊社では比較的取り組みやすく、かつ効果の出やすい方法として、「業務改善」からスタートし、その後「コア適用型」への進出を行う「コアシフト」が重要だと考えています。

DXの王道パターン

これらの中でも、業務改善から、コア適用型の新規事業創出に繋げていく方法が、取り組みやすく効果の出やすい、DXの王道パターンと言えます。

新規顧客

Core Shift

新規事業創出

コア適用型

自社のコア技術を新規クライアントに適用した形。

新規事業創出

ゼロスタート型

新たなビジネス領域に新参者として入る形。卓越したアイデアが必要であり、難易度は高い。

既存顧客
・自社

業務改善

既存業務の効率を高めるためのシステム化。DXで比較的成果が出ている領域。

新規事業創出

業務拡張型

既存ビジネスで培ったパートナー関係はそのままに、お客様と共に新規事業創出を行う。一般的な新規事業創出であり、大企業が得意とする領域。

  既存領域 新規領域

「コアシフト」では自社の業務改善などで成果のあった部分や元々保持しているコア技術の良いところを抽出し、それをベースとするため、成功体験を顧客に対してそのまま提供・伝達できるというメリットがあります。

DXが絡む事業では、「費用対効果(価値や期待値)が分からない」ということも少なくありません。そのため自社内はもちろん顧客とのやり取りにおいて、事業の見通しの解像度が高いことは、大きな利点としてはたらくでしょう。

弊社におけるDX共創実例

ここで、弊社がDXプロダクトをご一緒させていただいた企業様の事例を2つご紹介します。

AIによる業務効率化でビジネス拡大 SOMPOリスクマネジメント様

1社目は、SOMPOリスクマネジメント様です。同社では各種リスクに関するコンサルティングサービスを提供しており、その顧客には工場や物流拠点などが含まれます。

このときのテーマは、「危険運転検出」。その背景にあったのは、フォークリフトによる労災事故(死亡事故も含む)が年間で約2,000件起きていることでした。また現場ではドライブレコーダーの映像をもとに注意喚起も行われていますが、人力ではすべての映像を目視検査することは難しい、という点も課題に。
これを解決するために採用されたのが、AIによる危険運転の検出でした。AIの活用は、主に下記のようなメリットをもたらしました。

・従業員による映像確認時間の大幅短縮(AIが危険運転箇所だけを検出してくれるため)
・目視によるチェックの見逃し低減

 SOMPOリスクマネジメント様は既存事業である損保契約に加え、こうしたリスクアセスメント(リスクの見積もりや分析など)の事業をより拡大することで、顧客となる企業の安全や損害リスクなどに、より注意を払うことがDXを行う価値と考えていました。
結果、AIによる業務効率化が実現したことにより、SOMPOリスクマネジメント様はリスクアセスメントできる件数が向上し、ビジネスの拡大につながったのです。

見積もり業務の効率化で営業機会が増加 コイワイ様

2社目は、コイワイ様です。同社は鋳造部品を中心に手掛ける企業で、3Dプリンターなどを活用した試作事業や、AM事業(金属部品製造)などを行っています。

こちらのテーマは、「見積業務効率化」。課題は試作品の見積もりを依頼された際、その類似案件を過去に受注したことが多くあり、かつそのデータが大量に蓄積されているにも関わらず、それらが活かせずに見積もりに時間がかかったり、対応が属人化していたことでした。

そこで同社では、ユーザーから受領した3Dデータをもとに、過去の類似案件の情報を検索できるシステムを導入。結果、社内業務削減および属人化の排除により、見積業務が効率化され、受注に向けた提案件数の増加につながりました。

技術ではなく、成功体験を使う

ご紹介した2つの事例におけるポイントは、やはり先述の「コア適用型」への挑戦(コアシフト)を行うことで、DXによる新規顧客の開拓に成功したという点です。

SOMPOリスクマネジメント様は既存業務のケイパビリティを活かしつつ、今までタッチができていなかった工場や物流拠点に対してのサービス展開が実現しました。またコイワイ様は自社での見積業務効率化を行い、かつ新規顧客開拓の際に有利にはたらくであろう、3Dデータの検索という汎用性の高いシステムの導入を行うことができました。

DXにおいてはAI・センサー・クラウドといった技術を使いこなすことも肝要ではありますが、このように自社における「とれ高」を生み出し、それを新しい顧客に価値として表現する、つまり「技術よりも成功体験を使う」ことが王道パターンだと考えられます。

コロナ禍の苦境をDXで乗り切った企業も

【前編】の最後は、コロナ禍におけるDXのお話です。既にご存知の通り、くだんの感染症が世界に与えた影響は、あまりにも大きなものでした。

下の図は20215月に発表された、上場企業の2020年度決算における営業利益成長率です。これによれば当時の景気傾向(プラス・マイナス)は業界別に、「K」の文字のように大きく分かれることとなりました。

未曾有のパンデミックが企業に与えた甚大な影響

2021年5月に上場企業の2020年度決算が軒並み発表され、景気傾向は未曾有の「K字型」となった

具体的には、人々が外出を控えた結果、Eコマース(EC)や通信インフラは大きく伸びましたが、運輸、旅行、外食などは大きく減衰していました。

しかし、このように大幅な減収・減益の業界に属する企業でも、成長(企業単体としての増収・増益)を見せたところも確かに存在したのです。そこで弊社ではこれに当てはまるうち、DXAIを事業戦略に取り入れている企業を独自に分析しました(DXAIを取り入れているかどうかは、有価証券報告書ベースでの判定)。

減収/減益業界の中で業績を成長させた企業の傾向を分析

結果、「減収・減益業界に属しているのに増収・増益を達成」かつ「DXAIを事業戦略に取り入れている」企業は全部で100数社が該当し、さらにそのうちの32社が営業利益ベースで10%以上成長していました。

「減収/減益業界なのに増収増益」でDX/AI戦略取り組み企業のうち32社が営業利益10%成長

No. 業種 売上高(百万円) 売上高増加率(%) 営業利益 営業利益増加率 減収/減益業界
なのに増収/増益
DX/デジタル戦略 AI/人工知能
1 人材紹介 6,831 43.36 396 158.82 1 1  
2 化粧品 23,363 10.17 1,512 115.38 1 1  
3 通信端末・回線販売 12,778 22.28 925 105.56 1 1 1
4 販促支援サービス 11,075 40.03 552 100.39 1 1 1
5 国際貨物フォワーダー 609,110 11.86 34,177 73.36 1 1  
6 アウトソーシングサービス 336,405 7.87 17,752 66.08 1 1  
7 カジュアル衣料専門店 543,560 3.95 38,026 65.44 1 1  
8 電源 7,137 17.85 874 53.60 1 1  
9 油圧・空圧機器 106,723 5.96 7,698 47.19 1 1  
10 地方銀行 71,418 5.26 12,807 46.43 1 1  
11 国際貨物フォワーダー 45,797 1.76 2,305 46.26 1 1  
12 中古用品店 10,904 28.69 552 45.13 1 1  
13 CAD・CAMシステム 21,665 1.47 2,877 42.43 1 1 1
14 組込みシステム開発 24,434 8.50 1,644 37.69 1 1 1
15 ファストフード 71,972 4.33 1,422 34.15 1 1  
16 メッキ・熱処理加工 39,073 3.11 8,669 32.35 1 1  
17 アウトソーシングサービス 8,165 7.96 1,219 28.05 1 1  
18 国際貨物フォワーダー 48,159 0.96 2,426 27.68 1 1  
19 賃貸アパート・マンション 48,058 12.63 4,338 26.66 1 1  
20 CATV・衛星放送 139,572 0.02 19,151 25.47 1 1  
21 学習塾・予備校 11,290 3.38 552 25.30 1 1  
22 不動産投資 16,979 12.32 4,484 22.75 1 1  
23 電力(火力・原子力) 2,131,799 5.90 77,397 21.29 1 1 1
24 燃料卸・販売 143,490 8.30 13,627 18.30 1 1  
25 映像・CM制作 37,314 13.26 2,448 17.47 1 1  
26 イベント企画・運営 19,326 18.72 2,317 16.08 1 1  
27 産業用機械・機器卸 81,607 15.94 9,892 15.68 1 1  
28 出版(フリーペーパー等) 60,097 1.64 5,941 15.67 1 1  
29 通信端末・回線販売 9,945 29.14 1,281 13.97 1 1  
30 塗料・インキ 781,146 12.88 86,933 11.37 1 1  
31 総合重機 408,592 1.53 15,396 10.83 1 1  
32 ゼネコン 450,232 3.23 28,069 10.33 1 1  

実際のところDXAI戦略が損益計算書(PL)にどれほどのインパクトを与えていたかまでは見えませんが、「来たる波に常に迅速に反応しよう」という風土こそが、この苦境での成長を支えていたのではないかと考えられます。

また、下の画像は先述の条件に当てはまる企業のうち、一部をピックアップしたものです。

積極的にDX/AIに取り組む「減収減益業界なのに増収増益」企業ピックアップ

建設業界:K社

  • ゼネコン業界のFY20業績はFY19対比で営業利益-13.9%マイナス
  • ゼネコンが軒並み業績を落とす中、唯一K社が営業利益+10.3%成長を達成

アパレル業界:S社

  • アパレル業界もコロナの煽りで衣料の需要が激減し、営業利益-100%以上のマイナス
  • その中で唯一脅威の+65.4%成長を見せたS社は、デジタル広告への転換、独自ECサイトの垂直立ち上げにより成長

化粧品業界:I社

  • 化粧品業界も-35.7%マイナスと、外出自粛により業績が激減する中で、同業界唯一の成長、営業利益率+115.3%成長と大躍進を遂げた
  • 同社は創業時からAIを活用した商品開発を強みとしており、AIの力でコロナ禍を諸ともせずに成長をしたお手本のような企業である

とりわけコロナのあおりを強く受けたアパレル業界のS社や、化粧品業界のI社は他社が未曾有のピンチを迎えるなか、それぞれ65.4%、115.3%という大きな躍進を見せていました。

上記のケースは早急なデジタル広告への転換、独自ECサイトの立ち上げ、AIを活用した商品開発など、DXによる事業革新が明確に成果として表れた好例だと言えるでしょう。DXはその種類や取り組みも様々ですが、企業を成長させることはもちろん、コロナ禍のような不測の事態に対抗する手段の1つにもなり得ると考えられるのです。

【前編】の内容は以上となります。【後編】では、新規事業立ち上げ時の10か条の詳細をご紹介します。

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