京都の新産業創出拠点が強力に推進するDXプロジェクトの軌跡

──京都リサーチパーク株式会社様

 産業支援機関や研究開発型企業が集まる新産業創出拠点としてオフィス・レンタルラボなどを提供している京都リサーチパーク株式会社では、業務の可視化や課題抽出、そして業務改善に向けた具体的な施策づくりなどDXプロジェクトを強力に推進しています。新たな時代に適用できる企業への脱却を進めるDXプロジェクトの今について、詳しく伺いました。

本プロジェクトの参加メンバー

京都リサーチパーク株式会社の方々

  • 代表取締役社長 門脇 あつ子様
  • 執行役員DX推進プロジェクト部長 梅田 和哉様
  • DX推進プロジェクト部 課長 味岡 倫弘様
  • 地域開発部 兼 DX推進プロジェクト部 國見 章様

株式会社マクニカ

  • イノベーション戦略事業本部デジタル事業開発部共創オファリング課 課長代理 小林 俊介
課題
  • IT化の遅れにともなう現場の多忙
  • 業務の見える化ができていない上長と現場
  • 押し寄せる変革の波がもたらす既存事業への不安
目的
  • トライ&エラーしながら事業推進ができる環境整備
  • 業務の見える化とパートナーの支援による自立的なDX推進
  • 社員一人ひとりが「自分がDX人材」と感じる意識改革
効果
  • 120件以上の課題整理&改善策の優先順位づけが完了
  • ロードマップに沿った円滑な業務改善が実現
  • 経営層の理解を得るためのアプローチも習得

DX推進プロジェクトが必要だった背景

京都における新産業創出拠点として名高い京都リサーチパーク

門脇様:京都リサーチパーク(以下、KRP)は研究開発型企業や京都府・京都市の産業支援機関が軒を連ねる新産業創出拠点で、30年以上前から創発の場づくりとして多彩なスペースと交流の仕組みを提供しています。コワーキングスペースやオフィス、レンタルラボのほか、国内唯一の京都最大級ラボスペース提供など、都市型の民間運営という観点では全国でも我々だけの取り組みであり、大きな特徴のひとつになっています。現在は約500の企業や団体合わせて、およそ6000人のプレーヤーが働くまちになっています。

DX推進プロジェクトがスタートしたワケ

門脇様:私が社長に就任した2022年当時は、まだ紙でのワークフローやハンコでの承認業務が残っており、業務基盤としてのIT化が進んでいませんでした。少数精鋭のメンバーによる運営で現場が日々多忙を極めていたからこそ、仕事のやり方を変える必要があると痛感したのです。私は過去に大阪ガスでDXを手掛けてきたのですが、DXというキーワードをいきなり使ってしまうと、現場が「すごいものが降ってきた」と感じて距離感が生まれてしまうと感じたため、まずは業務を見える化し、そこから課題解決に必要な改善を進めていくことにしました。

梅田様:私が入社した当時はむしろグループ内でもIT化が先行しており、モバイルデバイスも導入が早く出張先でも仕事ができるなど、比較的先進的な業務環境でした。一方、ITの部署が営業技術部や総務部、人事などの業務部門と一体化していくなか、IT化自体が停滞するような流れも実感していました。社員から業務環境に関して不満が出ても、前に進まないので我慢しながらExcelでなんとか進めていくといった状況が続いていたのです。そういった意味では、現場にも何とかしなければならない課題が数多くあったと言えます。

小規模な組織であるがゆえに、先行するグループ企業は追い越せる

門脇様:大阪ガスはIT化がかなり進んでいますが、仕事のやり方を抜本的に変革するには至っていませんでした。大企業はシステムが複雑な上、それまで積み上げてきたレガシーがあるので、社員のマインドチェンジ推進にも一苦労です。その点、KRP80名ほどの小規模な組織ですし、レガシーが存在しないため、3年間で一気に追い抜くほどの変革ができると考えています。

DXの本質は“ITを使いこなすこと”ではない

門脇様:いわゆるDXは「最先端のITを使いこなすことだ」と勘違いされがちですが、本来は意思決定スピードの迅速化や現場への権限委譲、トライ&エラーしながらの事業推進ができる環境整備、風土づくりの方が重要です。とはいえ、KRPでは理想的な環境をすぐには構築できませんでした。そこで、まずは日々の仕事の困りごとを改善して現場のモチベーションをあげ、次に目指すべきゴールを設定すべきだと考え、業務改善のプロジェクトに着手しました。

 ある程度の業務状況は見えているものの、「上長がきちんと業務を可視化できているか」「社員同士はお互いの仕事を把握できているか」については、不十分なところがあり、私は就任当初から個人で管理するExcelが多様されているせいで業務改革が止まっていると感じていましたが、このプロジェクトを通じて、それを改めて痛感しました。

 それでもビジネスが回っていたのは、京都においてKRPが大きなブランドがあり、多くの関係者の方から声をかけていただけるありがたい状況でしたので、現場では改善の必要性を感じていないメンバーも少なからずいたからではないでしょうか。一方で、会社の外ではものすごい早さで変革が押し寄せてきている上に、不動産DXも進んでいるため、今のスタイルの不動産賃貸業がいつまで成り立つのかも疑問です。そんな変革の波について、社内のメンバーに危機感を持ってもらう必要があると感じていました。

プロジェクト発足からの推移

DXプロジェクト1年目の取り組み

門脇様:就任当初に大がかりなシステムの導入があったのですが、多くのメンバーが兼務だったので、正直なところうまくはいっていませんでした。人的リソースが十分に充てられていない状況では投資も満足にできず、現場担当者が苦労していることはよく理解できていました。私はこれを「今の環境を変えよう」と伝えていく大きなチャンスと捉え、プロジェクト推進のための組織を作ったうえで、十分ではなかった予算をしっかり確保しました。

國見様:DXプロジェクト1年目は私が単独で事務局として動いており、当初はDXと言っても具体的に何をやっていくのかが見えていない状態からのスタートでした。加えて、ちょうどシステム導入が思うように進まない案件があり、社内でのデータ共有が十分でないという課題も見えたタイミングだったので、紙やExcelでの管理から脱却するべきだという認識も持っていました。不動産賃貸業における契約や建物管理に関するシステム設計は前職で経験していたので、マクニカさんがプロジェクトに入る前から、ツールを整備していくというロードマップを作成していました。その経緯も踏まえ、途中から参画してくれた味岡やマクニカさんと一緒に、1年目のプロジェクトを進めていきました。

門脇様:マクニカさんのことは、以前大阪ガスのときにお世話になったコンサルタントに紹介いただきました。コンサルティングファームにお願いしたこともあったのですが、予算や我々が求めるスピード感などには合っていませんでした。理想的な姿からバックキャストしてくるアプローチする方法ではありましたが、それに応えるだけの体制が我々になかったことも要因だと感じています。そんななかで改めてマクニカさんをご紹介いただき、しっかりと足元の課題から、担当の横について伴走いただけるなど、いいご縁をいただいたと感じています。

國見様:当時からコミュニケーションツールが十分でなく、紙での運用も根強く残っているなど、全社的な情報共有の課題が顕在化していました。その改善をコンサルティングファームにお願いしたのですが、予算の面で折り合いがつきませんでした。メンバーも兼務である私1人しかいなかったため、業務フローの整理にもリソースが足りないなど、厳しい状況でした。

梅田様:知恵をもらうだけでは前に進んでいけない状況だったので、内部がリソース不足の状況でも一緒に手を動かしていただける方を探していました。ただ、「DX推進部門が率先して引っ張るだけでは、おそらく持続性は望めない」という指摘は、門脇から受けていました。そのため、各部が一丸となり、自立的にDXを進めていける環境を目指していくことを念頭におく必要があると考えていました。

門脇様:KRPDXに詳しいスーパー人材の採用や組織づくりという発想は、当初からありませんでした。これからの時代は業務をしながら自ら業務改善できるようなツールも出てきますし、外部との連携もどんどん進んでいくので、今後は一人ひとりに「自分がDX人材だ」という意識を持ってもらうことが理想的です。そのため、新しいことにアレルギーを持たずに取り組んでくれる人を各組織からピックアップし、社内横断でプロジェクトを作りました。

國見様:ある程度のリテラシーがあり、適切なコミュニケーションを取れる若手メンバーが相応しいと考えたので、梅田が各部署からピックアップしたメンバーに声をかけ、その人たちに代表としてプロジェクトに参加してもらっています。ここでは大規模な組織ではないことが幸いして、新しいことに前向きに取り組んでもらえるメンバーをうまくアサインできました。

DX推進プロジェクトの今

課題整理からロードマップ作成、ツール導入へ

門脇様:現場の課題整理からDXにおけるロードマップまでは落とし込みができており、すでに具体策の展開も始まっています。これからの1年でその運用が定着できれば、大阪ガスと同等レベルにまで持っていくことができるはずです。この1年でここまでリカバリーできたのは、素晴らしいことだと感じています。小さな会社ながら縦割りの組織だったところから、各部のメンバーを集めた社内横断的な環境を整備し、100件を超える多くの課題を解決するための改善策を大きく3つほどに集約し、優先順位をつけて現在も取り組みを進めています。自分たちが一番何をすべきか、優先順位について自発的に発言できてきていると聞いており、人材育成も含めて理想的な形になってきています。

梅田様:実際のツール導入はこれから本格化することになりますが、業務効率化に対する期待はメンバーそれぞれが感じているはずです。次から次に仕事が目の前にやってきて新しいことを考える時間がなかった状況から、時間の作り方が少しずつ見えてきて、ツールによる業務改善によって新たな時間を確保でき、やりたいことができるようになるでしょう。KPRは新しいイノベーションを起こす企業や団体を支援する会社ですので、おそらく自分たち自身もイノベーティブな働き方をしたいと感じており、それに少しずつ近づいているのではないしょうか。

國見様:1年目は今後のロードマップを作成することを目指し、スケジュール通りに進めることができました。部ごとに強化すべき部分は当初よりも先行して進んでおり、その支援を継続的に行っていく予定です。一方で、コミュニケーションに関する課題解決に向けたMicrosoft TeamsやクラウドストレージのBox、一部生成AIなどは全社での環境整備が整っていますが、スケジュールよりも早期の導入のため、現場にどう展開していくのかについての課題が残っています。特に教育については、全社員を対象に使い方を含めた社内研修を実施していく予定です。

味岡様:私は途中からプロジェクトに参加しましたが、そのときは中身のある事業計画が各部に落とし込まれておらず、どんな施策を打っていくのかが不明瞭な状況でした。そこで、少なくとも競争優位を実現することを念頭に、課題抽出とその分析、そして優先順位をつけた上で利益戦略を検討するということを進めてきました。具体的な施策という観点では、一部の部署で実施していた顧客データ基盤を活用したアカウントベースマーケティング全社的に展開していくという提案をいただき、これもマクニカさんと動き出しています。

 業務効率と経営効率については中期計画に盛り込んでいますが、社員が働きがいを持てる環境づくりをDXとして目指すという門脇の意向もあり、2025年までのロードマップに目指す姿として設定しています。業務効率化はもちろん、経営者の意思決定が現場に素早く浸透し、各部門長が推進する際に若手を引き上げながら、リスクをとってチャレンジしていこうという門脇の意思を反映させています。

取り組みで変わったこと

門脇様:120を超える全課題の汲み取りや整理、そして具体的な施策への落とし込みなどに取り組んでもらった結果、単に課題の書かれたポストイットを貼って終わりではなく、それを丁寧に全てデータ化して集約する過程で、現場の声を、最終的には経営課題にまでつなげることができました。

國見様:各部からプロジェクト担当者を選出してスタートする際にキックオフを実施しましたが、心構えや事前準備などの色々な不安はありました。ただ、いざプロジェクトが始まってみると、課題が記載された大量のポストイットを短期間で集めることができたことは課題整理の面でも好材料でした。

味岡様:私は、経営層への報告に関するアドバイスが役立ちました。彼らが不安をもっていると質問攻めに遭うこともあるため、できるだけ定例報告で済むよう、今では信頼感を醸成していくことを意識しています。今回はバックオフィス的な業務改善だったため、重視されるコストや経常利益にすぐ還元できない部分も確かにあります。しかし、労働生産性や社員満足度といった指標を取り入れることで、経営層に理解してもらえるアプローチもできるようになりました。

これからへの期待

今後重要になる、管理者教育への取り組み

門脇様:これからは、プロジェクトに参加したキーマンがそのノウハウを自分の組織にうまく伝播させてもらいたいと思っています。ただし、理想通りの展開が難しい場面もきっと出てきます。そんなときには、上司がそのメンバーを支えてあげる必要があります。そのため、今後はますます管理者教育が重要になります。特に年配の上長が若いメンバーにチャンスを与えるという勇気を持つことは大切で、私も普段から自身に言い聞かせています。一方で、生成AIなどの技術発展のスピードが爆発的なので、技術トレンドをうまく押さえることも忘れてはなりません。最初の一歩が始まったばかりで、これからも変わり続けられる組織に変革していきたいと思います。

梅田様:グループでは社員向けにUdemyなどのオンライン研修を導入することになっているため、我々もそれを受けられるのはありがたい点です。そうした研修を受けていけば、自分たちの状況や立ち位置が改めて見えてくると思います。単にツールを導入して終わりではなく、しっかりマインドチェンジが起きて欲しいという期待感を持っています。

味岡様:コミュニケーションツールを含む新たなツールの導入は大阪ガスにリードしてもらえる部分があるため、粛々と進めていけます。その一方で、他社と差別化できるマーケティング環境の整備が今年最大の山場になってくると考えています。これはマクニカに継続的に支援いただく予定ですが、それらを考えるメンバーがいなくなった時点で、レガシーな仕組みになってしまう可能性もあります。2025年以降もその取り組みを継続させるためには、各部の人材育成が重要です。ノウハウの習得などは外部の力を借りられますが、今後は本当に推進できるリーダーの育成が求められることは間違いありません。

ツールの定着とデータ活用への期待

國見様:これから本格的にツールの導入が進んでいきますが、まずは安定させていくことが重要です。現場は業務をしながらツールを使うことになるため、苦労する場面もきっと出てくると思いますが、うまく対応したいですね。そして業務基盤となるさまざまなデータが集まってきたら、それらをどう活用するのか、何と連携させていくのかというところにまで早期に結び付けていきます。

梅田様:不動産賃貸業にデータを活用することは当然ですが、イノベーション創発活動において取得中のデータを、これまではマーケティングに活用できていませんでした。今後はそれらを上手に融合させながら新たな取り組みに活かすべく、ぜひマクニカさんにも引き続き支援をいただきたいと考えています。

会社ロゴ

京都リサーチパーク株式会社

事業内容
リサーチパークの開発・運営
創業
1989年10月1日
従業員数
78名(2024年4月時点)
ウェブサイト
https://www.krp.co.jp/

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