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USER PROFILE

株式会社オートテクニックジャパン様
1982 年創立、4 輪、2 輪、汎用製品の研究開発・品質保証をサポートするエンジニアリング ソリューション カンパニー。モビリティ開発に必要な設計・解析から実車のテストまで、これまで培った経験と高い技術に基づいて今とこれからのモビリティ社会に貢献している。

左:マクニカ 下山 中央:株式会社オートテクニックジャパン モビリティエンジニアリング第 0 事業部 斉藤様 右:同事業部 技師 山崎様

サマリー

背景
●電動化社会を見据えた”人とモビリティ”の研究

●音の開発で重要な、音の質-”快音”の表現方法を研究
課題
●音の開発において、一般ユーザー視点での評価が必要

●電動車の接近に対して、歩行者が聞き取りやすい音とは
目的

●物理評価と熟練技能者の主観評価に加え、脳波による客観的データを表現
取り組み

●車種違いによる、電動車の接近音(AVAS)の聞き取りやすさの評価を実施

●主観評価と脳波データの相関性を確認
今後

●脳波を活用した、聞き取りやすいが不快ではない音の開発

●将来的に車に乗りながら・歩きながらの計測など、流動的なシチュエーションでの計測に期待

●社会にとって“安全で・優しく・楽しい”モビリティづくりを実現

はじめに

今回、1982年の創立以来、モビリティ開発に長年の経験と高い品質・実績をお持ちの「株式会社オートテクニックジャパン様」から、「社会にとって“安全で ・ 優しく ・ 楽しい”モビリティづくりを目指す」ための新たな取り組みや、それを実現するために行った実験内容をお伺いしました。

背景

今必要とされる“モビリティの社会課題”にフォーカスし、高い専門技術力で解決

ヒトを創り、未来を拓く、エンジニアリング ソリューション カンパニーである、株式会社オートテクニックジャパンでは、2022年に新たな取り組みを行うべくモビリティエンジニアリング第0事業部を設立。
モビリティを主軸に新たな挑戦をしていき、モビリティに関わる課題や社会に取り残されていそうな課題などを自社の高い技術力で、解決していくことをミッションとして掲げている。

近年の問題としては、電気自動車やハイブリッド車の静音性があげられる。電気自動車やハイブリッド車に関してアンケートを実施した結果、視覚障害者の方々の約8割が恐怖を感じたことがあると回答している。
この問題に対し、車両接近通報装置(以下、AVAS)の義務化を発表している。

 参照:日本視覚障害者団体連合(自転車と静音者(ハイブリッド車・電気自動車)走行時の課題) http://nichimou.org/impaired-vision/barrier-free/car-when-driving/
参照:国土交通省(道路運送車両の保安基準等の一部改正について) https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha07_hh_000220.html


斉藤氏:
前述した社会課題から、今回AVASに関して” 視覚障害者”に焦点を当て、研究開発をおこなうことになりました。オートテクニックジャパンでは、そういった“人とモビリティ”の接点に注目した企画や技術開発を行っています。

下山(M):オートテクニックジャパンさんが長年培われてきた、モビリティ開発の経験と実績がまさに活かされる分野ですね。

 ※AVAS(Acoustic Vehicle Alerting System)とは?車両接近通報装置。電気自動車やハイブリッド車の低速走行時、歩行者に車両の接近を知らせる音響装置。日本やヨーロッパでは「AVAS」という表現が用いられている。

課題

“快音”化が重視される「モビリティの音」開発における客観的データの必要性

山崎氏:近年、モビリティの変革期と言われていて、オートテクニックジャパンも40年以上の歴史がありますが、モビリティに求められる姿も変わってきたということを実感しております。

株式会社オートテクニックジャパン モビリティエンジニアリング第0事業部 技師 山崎様

今回のテーマである、AVASの音の評価にクローズアップすると、従来車は静かな方がいいというのが大前提で、その中でも“室内が静か”というという点が最重要でした。しかし、近年電気自動車の出現で、静かな車はあたりまえで、静かだけでなく「音の質-“快音”かどうか?」という点が重視されてくるようになりました。

“快音“の評価は今まで、規定値を満たす物理評価と熟練技能者による主観評価で行ってきましたが、主観評価だけでなく、一般ユーザーの視点での評価の必要性を感じてきており、次に「それをどう取り入れるか?」という課題が出てきました。

特に、熟練技能者と一般の方では感覚に乖離があるのではと考えており、異音に気付く能力や、好みの感覚は、その方の経験が大きく関係するため、「表現することが難しい」内容となっていました。
“音”を言葉で表現するのは難しいと思いますが、“脳波を活用”すれば、直感的な反応を表現できるのではと考えました。また、「この音が好きかどうか?」などのポジティブな感情もわかる可能性があるため、“快音”化が重視される傾向にある、「モビリティの音開発において親和性が高いのでは」と“脳波”には前々から注目していました。

目的

社会にとって“安全で・優しく・楽しい”モビリティづくりを目指して

株式会社オートテクニックジャパン モビリティエンジニアリング第0事業部 斉藤様

“視覚障害者”の方とお話する機会があったことが、“第三者的な視点”や“一般ユーザーの視点”で評価することの必要性を感じたと斉藤氏。

斉藤氏:視覚障害者の方にいろいろとお話を伺ったところ、うるさい交差点では、AVAS音は実際聞こえづらく、その方が事故に遭われてしまったという衝撃のお話を聞きました。
メーカーとしては、規定を満たしている音を設定しているはずなのに、実際には聞こえていないという“現実とのギャップ”を目の当たりにしました。これはモビリティ開発に関わるオートテクニックジャパンが解決しないといけない課題だと強く思ったのがきっかけです。


結果、その音を必要としている一般ユーザー視点の生体反応の計測として、脳波を計測することとしました。

取り組み

“音”の聞きやすさを可視化

今回は、前述の課題を解決する試みとして、ハイブリッド車のAVAS音の聞きやすさ(認知のしやすさ)の評価を、「5車種」、「熟練技能者」と「一般の方」に聞いてもらう実験を実施。

写真:脳波計測の様子

●実験内容と結果
新宿の交差点のノイズを収録し、そのノイズ+AVASをそれぞれ聞いた時の行動データおよび脳波データを計測。計測終了後、聞きやすさに関するアンケートを実施。その結果、脳波でAVAS音の聞きやすさを可視化できることがわかった。

山崎氏:いろいろなロジックを使って出していただいた結果、被験者の“主観評価”と脳波データによる“感度のテスト”の結果において、相関があったということが分かったのは、かなり貴重なデータであると感じています。

参考:音声波形と脳波の相関関係
参考:脳波の反応強度

今後の予定

斉藤氏:今回の結果を踏まえて、今後の課題も見えたことが大きな成果でした。脳波活用に関する可能性が見えたことが、今回の大きな第一歩だと思っています。

山崎氏:今回の結果で、一般ユーザーに対して、“直感的手法による評価”が期待できることがわかりました。

「社会にとって安全で ・ 優しく ・ 楽しい」モビリティづくりを実現するために、“人とモビリティ”の接点を軸に考え、脳波を活用した“不快ではない音の開発”や、個人の気分に合わせて“車内をパーソナライズされた環境に変化”してくれるような新しいモビリティを目指し、実現するための研究を進めていきます。
ただし、上記実現のために必要とされる“脳波の活用”については、十分な基礎的検討が必要な段階と考えております。
理想のモビリティづくりの実現に向けて、マクニカさんに今後もサポートしていただき、さらなる検証を進めていきたいと考えております。

所感

斉藤氏:現状は静的な検証のみですが、将来的には車に乗りながら計測することや、歩きながらの計測ができれば歩行者側の検証など流動的なシチュエーションでの計測ができるようになり、より快適な“音づくり“と安全なモビリティ社会への貢献が期待できそうです。

山崎氏:物理評価や主観評価の結果に加えて、今回の実験で活用した”脳波データ”のように、人間の生体情報”によって客観的に判断できる手法・根拠を得ることで、様々な研究開発や評価指標として応用することを考えております。その結果を基に、より良いモビリティ社会の実現に向けて活用したいと考えています。

さいごに

下山(M):今回の実験を通して、生体反応として“脳波“の可能性を実感していただくことができました。
今後も引き続き、オートテクニックジャパン様の目指す「より良いモビリティ社会の実現」に向けて脳波ソリューションだけでなく、マクニカの様々な知見を活用いただけるようにサポートしていきたいと考えております。

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