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2026年7月13日、文部科学省指定スーパーサイエンスハイスクール(SSH)である横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校の1年生に向けたキャリア教育校外研修で、株式会社マクニカの本村健登が「AI時代のキャリア」について講演しました。
本村が一番伝えたかったのは、正解のない時代には、特定の職業に就くことをゴールにするより、自分で仮説を持って動き、試し、振り返り続ける力こそが武器になる、ということ。そしてAIは、その試行錯誤を一気に加速させる道具だということです。
それを頭ではなく手応えとして持ち帰ってもらうために、本村は生徒がスマホで匿名投稿したアイデアを起点に、「Claude Code」でゲームのプロトタイプをその場で作り上げる、という体験から講演を始めました。この記事では、本村が高校生に伝えた「AI時代に必要な力」と、それを体感させたライブ開発、そして約490件の投稿を寄せた高校生たちが本村に何を問うたのかをレポートします。

この講演のポイント
2026年7月13日、株式会社マクニカ AI&デジタル事業開発部 責任者の本村健登が、文科省指定SSH・横浜サイエンスフロンティア高校の1年生に向けたキャリア教育校外研修(会場:神奈川公会堂)で講演した。
テーマは「AI時代のキャリア」。核心は、特定の職業に就くことをゴールにするより、自分で仮説を立て、試し、振り返り続ける力こそが武器になる、というメッセージ。
生徒がスマホで匿名投稿したアイデアを起点に、AIエージェント「Claude Code」でゲーム「EUREKA!(仮題)」をその場でライブ開発。「思いついたことは、その日のうちに試せる」という手応えを、体験として伝えた。
投稿ツール「Slido」には約490件の投稿が集まり、AIの人格・感情や、AI時代に人間が持つ価値をめぐる本質的な問いが、本村に相次いで投げかけられた。

この講演は何だったのか——AI時代のキャリアを考える校外研修

この講演は、株式会社マクニカの本村健登が、横浜サイエンスフロンティア高校の1年生に向けて行った、「AI時代にどうキャリアを築くか」をテーマにしたキャリア教育の講演です。AIの使い方を座学で学ぶ授業ではなく、AIが仕事や社会を変えていく時代に、高校生が自分の進路や生き方をどう考えればいいのかを、実演を交えて伝える内容でした。

スーパーサイエンスハイスクール(SSH)とは、先進的な理数教育を通じて将来の科学技術人材を育てることを目的に、文部科学省が指定する高等学校のことです。横浜サイエンスフロンティア高校はそのSSH指定校であり、横浜市教育委員会の「進学指導重点校」でもあります。今回の講演は同校のキャリア教育校外研修として、神奈川公会堂で実施されました。学校が掲げた研修の目的は、①将来のキャリアを考える、②社会貢献の大切さを認識する、③多様な価値観を知る、の3点です。

講師を務めた本村健登は、マクニカのAI&デジタル事業開発部で責任者を務め、AIの新規事業開発を率いています。マクニカは、AI・半導体・サイバーセキュリティなどの先端テクノロジーを扱う技術商社です。本村はこの日、スライドを読み上げる一般的な講演ではなく、生徒とやり取りしながらAIで実際にものを作り、その体験を通して「これからの時代に必要な力」を考えさせる形式を選びました。

本村が一番伝えたかったこと——「何になるか」より「自分で試し続ける力」

本村がこの日いちばん伝えたかったのは、AI時代は「何になるか」を一度決めて終わりにするより、自分で仮説を立て、動き、試し、振り返り続ける力こそが武器になる、ということでした。

そう考えるのには理由があります。本村は生徒に、2つの「予想できなかった変化」を示しました。
1つは2020年のコロナ禍。Eコマースや通信インフラが大きく伸びる一方で、運輸・航空・旅行・外食は軒並み苦境に立たされ、就活生に人気だった花形の業界が一夜にして一転しました。もう1つは、AIがもたらした変化です。本村は、スタンフォード大学デジタル・エコノミー・ラボが2025年11月に公表した研究論文「Canaries in the Coal Mine?(炭鉱のカナリア)」を引用しました。同論文によれば、ChatGPTの登場以降、AIの影響を受けやすい職種では22〜25歳の若手の雇用が相対的におよそ16%減少した一方、経験を積んだ層の雇用は安定していたといいます。象徴的なのがソフトウェア開発者で、実装のような"教科書で学べる仕事"ほどAIに置き換わりやすい——というのがこの研究の指摘です。裏を返せば、経験を武器にAIを使いこなせる人材の価値はむしろ上がる。職業の"中身"そのものがAIで塗り替えられていく以上、職業名にしがみつくことは、かえって危うい。本村はそう語りました。

では、何を拠りどころにすればいいのか。本村がここで差し出したのは、自分自身の来歴でした。中高の6年間を野球に捧げてレギュラーになれず、大学ではお笑いに打ち込み、ディズニーワールドへの留学を経て、マクニカでAIの新規事業に長く関わってきた——どう見てもまっすぐな一本道ではありません。それでも、「好きなこと・得意なこと・世界が求めること・稼げること」が重なる一点(生きがい)が、20年越しにようやく一つに繋がった、と本村は語ります。回り道に見えても、自分の"好き"を手放さずに試し続ければ、いつか線になる——自身の歩みと重ねて語られた言葉でした。

その"試し続ける"を、本村は3つの習慣に落とし込んで生徒に手渡します。

1つめは、生きがい(ikigai)の言語化。先の4つが重なる点を自分で書き出し、理想とのギャップを行動に変え、実験として振り返る——AIを壁打ち相手にすれば、その精度は上がります。

2つめは、他人ではなく過去の自分と比べること。SNSは、他人の「最高の瞬間」を自分の「だらけた時間」に突きつけてくる装置で、自己肯定感を削るという研究があります。比べる相手は、昨日の自分でいい。

3つめは、成長マインドセット。スタンフォード大学のキャロル・ドゥエックが唱えた、能力は努力で伸ばせるという捉え方です。失敗は「失敗したというデータ」にすぎず、感情を挟まずに次の仮説へ繋げればいい。ほめるべきは、結果よりもプロセスだ、と。

そして、この試行錯誤を一気に加速させる相棒がAIだ、と本村は続けます。ただし、使い方には作法がある。答えを丸ごと預けるのではなく、問う前に自分の仮説を1つ持つこと。出てきた答えを鵜呑みにせず、納得できなければ食い下がること。最後に決めるのは、いつも自分であること。先に動いた人ほど、先にデータを手にし、先に仮説検証を重ねられる——「まず動く、そして振り返る」。その繰り返しこそが強い、というのが、この日のいちばんのメッセージでした。

その"力"を、その場で証明してみせた——生徒のリクエストから、ゲームが立ち上がるまで

本村はこの「まず試す」を、言葉ではなく、その場でやってみせました。生徒たちから寄せられたリクエストに、AIエージェントを使ってその場で応え、動くゲームに変えていったのです。

会場では、全員のスマホに匿名の投稿ボードが配られていました。困りごと、思いつき、そして「こんなものを作ってほしい」というリクエスト——次々と流れていく投稿のなかに、「恋愛ゲームを作ってほしい」という直球の注文や、ひときわ多くの票を集めた「AIをタイプのイケメンにするにはどうすればいいですか」というアイデアがありました。本村は、その生徒たちの声をそのまま出発点にします。「じゃあ、みんなのリクエストで作ってみましょう」。

本村はその場で、集まったアイデアを一つのゲーム像に束ねていきます。「科学にしか興味がない女子高生と、それぞれ違う科学分野を愛するイケメン男子。二人が恋に落ちると、恋愛と科学の掛け算でイノベーションが起きる——そんな恋愛シミュレーションゲームはどうだろう」。この構想を、AIエージェント「Claude Code」に口頭で伝えていきます。AIエージェントとは、人間が与えた目的に対して、必要な作業を自分で分解しながら実行するAIのことです。指示を受けたAIは、ゲームの試作版、企画紹介スライド、ロゴを、同時並行で作り始めました。

画面の中でコードが積み上がっていくあいだ、本村の話も止まりません。「AIが作ってくれている間に、人間は次に何を作るかを考える」。そう言いながら、待ち時間に音楽生成AI「Suno」で一曲、即興でこしらえてみせます。お題は「人類とチンパンジーのラブソング」——ヒトとチンパンジーのDNAが約99%一致することをモチーフにした一曲が、会場のBGMになりました。

そして、ゲームが立ち上がります。名前は「EUREKA!(仮題)」。プレイヤーは「科学にしか興味がない陰キャな女子高生」5タイプから主人公を選び、物理・生物・化学・情報・地学天文をそれぞれ専門とするイケメン男子5タイプから相手を選びます。恋愛感情を表す「LOVE」と、共同研究の熱量を表す「EUREKA」——2つのゲージのどちらか一方だけでは、本当の結末にはたどり着けません。主人公5×相手5=25通りの組み合わせごとに、生まれる発明が変わります。物理女子×生物男子なら「人工冬眠カプセル」、化学女子×情報男子なら「新素材探索AI」。異分野の掛け算から新しいイノベーションが生まれる、という仕掛けです。

ここで生徒が目撃したのは、「AIエージェントはすごい」という技術デモではありません。自分たちの中から出た思いつきが、数十分後には"遊べるもの"になって目の前に立ち上がる、という体験でした。思いついたら、その日のうちに試せる。前のセクションで本村が語った「まず動いて、試して、振り返る」という言葉が、説明ではなく手応えとして、この瞬間に会場へ残ったのです。

高校生は本村に何を問うたのか——Slidoに集まった、AIをめぐる約490の投稿

講演中、生徒たちはスマホの投稿ツール「Slido」を通じて、本村に直接、匿名で質問を投げかけることができました。当日そこに寄せられた質問・投稿は約490件。その中には、AIを専門とする登壇者に向けた、驚くほど本質的な問いが数多く含まれていました。生徒たちの関心は、「AIの思考の限界」「感情や人格を持つAI」「AI時代に人間が持つ価値」に強く向かっていました。以下は、Slidoに寄せられた投稿から、投稿者を伏せて原文ベースで抜粋したものです。

  • 「生成AIのLLMと人間の言語感がほとんど等しくなったという説が出ている現在、AIの言語モデルはあるひとつの人格として認められると考えますか? AI開発の最先端を行く企業として、ブラックボックスのAIシステムについて見解を教えて頂きたいです」
  • 「AIコンテンツの登場により、人の手で造られたコンテンツの価値が、これからどう変化していくと考えていますか」
  • 「AIが研究者と同等の思考力を持つ日は来るのでしょうか」
  • 「私は、感情を持ち主観意識もあるAIを作りたいのですが、そのような研究はされていますか」
  • 「自分の人格を少しずつAIに置換し、テセウスの船のように不老不死になれますか」
  • 「AIの問題として、学習結果が出力させてみるまで人間にはわからない、という点があると思いますが、それについてどう思いますか」

本村が紹介した雇用データに反応した生徒からは、「若手エンジニアの雇用が減少しているというデータについて、近年の年代別のエンジニア志望者数の変化についてもデータはありますか」という、一次データの精度に踏み込む追加質問も出ました。また、本村が説いた「AIとの向き合い方」を受けて、「依存と、仮説を磨き上げる行為の線引きが難しそう」という、自分ごととして考え込んだ投稿もありました。まさに本村が伝えたかった「自分の仮説を持って使う」という姿勢を、生徒がその場で咀嚼していた瞬間です。

講演の締めくくりには、質疑応答が行われました。「AIの論理的思考力は今後も改善されるか」という問いに対し、本村は「演繹的な思考力は間違いなく向上している。世界中のデータを学習し尽くした先の"壁"をどう超えるかが、各社の勝負どころになる」と答えました。「感情を持つAI・環境を認識するAIは実現するか」という問いには、「表情・視線・声の波形など高度にパーソナライズされたデータの学習が必要で、生成AIと感情認識が完全に一体化して人間と同じようになるのは、まだ先ではないか」と応じました。

そして最後に、薬剤師を志望するという生徒代表から、こんな謝辞が贈られました。「薬剤師はAIに奪われる仕事だと言われ、好きな音楽もAIが作れると知って、怖さも感じていました。でも『AIに任せたくない』の一言で片付けてしまうのは、もったいない。人間である価値・理由をどう示すか、どう生きるかを考えるきっかけになりました」。AIを脅威としてでも万能の道具としてでもなく、「自分がどう生きるか」を問い直す——本村がこの講演を通して高校生に持ち帰ってほしかったものが、生徒自身の言葉で返ってきた瞬間でした。

AIを「学ぶ」から、AIで「試す」へ

この日の講演が映していたのは、AIをめぐる学びが「危うさや使い方を知る」段階から、「自分のアイデアをその場で形にして試す」段階へと移りつつある、という変化です。AIが作業の多くを引き受けるほど、価値の重心は、何を作りたいかを考え、試し、選ぶ人間の側へと移っていきます。それは高校生にとって、職業名を先に決めることより、今の興味からまず動いてみる、という進路の考え方にも重なります。

約490件の投稿に表れていたように、生徒たちはすでにAIを、恐れるでも過信するでもなく、「自分はどう使い、どう生きるか」という問いとして受け止め始めていました。AIを見せるだけでなく、生徒と一緒に手を動かして作ってみる——そんな学びの場を、これからも教育の現場とともに重ねていけたらと考えています。

著者・登壇者について

本村健登(もとむら けんと)
株式会社マクニカ AI&デジタル事業開発部 責任者

12年以上にわたりAIと新規事業に従事し、300件を超えるAI・DXプロジェクトを牽引。現在はAIプロダクト開発、AIプロフェッショナルサービス、グローバルエコシステムを統括する。一方で、AIクリエイター「MOTOKEN」として音楽・映像作品を制作し、「こちらAIにて実験中」(2026年8月1日より配信)などエンタメ×AI領域のAIメディアも推進。出演番組にNewsPicks「1on1 Deep」、TOKYO MX「正直サミット」、テレビ朝日「8秒グランプリ」など。信念は「AIは人の"やりがい"と"強み"を最大化する」——「まずは自分が、その一番の実験台です」。