企業成長に欠かせない施策である、新規事業開発。イノベーション創出がミッションであるがゆえにゼロベースからのスタートとなり、決まった正解がなく行き詰まってしまった……という方も多いのではないでしょうか。
本記事はその解決のヒントとしていただくべく、新規事業開発における5つの「あるある課題」を整理しつつ、対策となる考え方やアクションをご紹介します。
いつまでやれる? 既存ビジネスモデル
最初に、新規事業の概況を整理してみます。多くの会社は、投入したリソースにおおむね比例する直線的(リニア)成長を目的に、主たる事業活動を推進していることでしょう。仮にそのビジネスモデルが10年や20年継続して成り立っている場合、その要因のひとつは“既存のお客様が常に同じ対応をしてくれる”からだと考えられます。
しかし、昨今は社会の変化が激しさから未来が見えづらく、外部の環境変化や他業界からの競合進出などの影響もあり、既存ビジネスが成り立たなくなるリスクが高まっています。あるいは、人手不足で業務が回らなくなるといったこともあるかもしれません。
こうした状況もあり、「現在のビジネスモデルを続けているだけで大丈夫なのか?」と不安を抱く会社は着実に増えているのではないでしょうか。そのため、それをくつがえす手段のひとつである新規事業の開発に力が注がれるのは、もはや必然の流れであると言えます。
とはいえ、新規事業に具体性を見いだせなかったり、経営層と現場の考え方に大きなギャップがあるために実行に移すことが困難だったりと、一筋縄ではいかないケースも決して少なくないのが実態です。
5つの「新規事業あるある課題」
次に、私たちがお客様とのやり取りのなかで実際に遭遇した「新規事業あるある課題」を5つご紹介します。
①手段が先行してしまう
新規事業の目的は、基本的に「ビジネスモデルの変革」にあります。しかし、その大切な目的が欠落して手段が先行してしまうケースは、一番のあるあると言っても過言ではありません。
一例として挙げられるのが、最先端テクノロジーの一角であるAIの活用です。特に話題になった2018年~2019年ごろ、「AIを使えば何か新しいビジネスができるだろう」「社内のシステムが変わるだろう」という淡い期待を抱き、外部にPoCを依頼した会社はきっと少なくないことでしょう。受託側も案件が増え、一見すればWin-Winです。ところが、依頼側の目的が不鮮明であるがゆえに受託側のアクションがPoCで止まってしまい、新規事業は立ち上がらず、業務効率化もできなかったというケースが続出したのです。
2023年からは生成AIが大きな注目を集めていますが、「使わないと置いていかれそう」「これを使って“何か”をしよう」といった理由で活用を考えている場合は、黄色信号が点灯しているかもしれません。
②新規事業開発プロセスが不明確
多くの新規事業は上層部が担当者に委任し、その担当者がベンダーやコンサルタントと協力したり、自分の力で頑張って事業企画をしていることと思います。その際にありがちな問題が、新規事業開発プロセスが明確になっていないことです。
この問題は企画段階や具体化の段階の評価軸をあいまいにし、結果として上層部が担当者に満点の事業企画を求めるきっかけを作ってしまいます。当然、新規事業では最初から満点を出すことなどできませんが、行き詰まった担当者はやむを得ず“上層部のための”企画書を作ったり、“上層部のための”事業開発プロセスで進めることになるのです。一度こうした状況に陥ってしまうと、本人も含むプロジェクト関係者がいかに優秀であっても、新規事業立ち上げへの期待は難しくなるでしょう。
③ロジックの積み重ねから抜け出せない
新規事業開発は一般的に未経験かつゼロスタートで任されることが多く、その担当者はどうしてもロジックに頼りがちです。マーケティングの常識に従ってSTP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)のフレームワークで市場を選別し、ターゲットを決め、自分たちの身の振り方を考えるパターンもあるでしょう。
特に、熱心な方ほどロジックの積み上げがうまく、時間をかけてしっかり行おうとする傾向があります。失敗が自分のマイナス評価につながるような場合も少なくないはずなので、こうした対応もやむを得ないことは事実です。
しかし、実はその慎重さは出口なき迷宮への入り口となっており、プロジェクト推進の観点では得策とは言えません。そもそも新規事業開発では社内の要因だけでなく、無限とも言える外部要因が複雑に影響を及ぼしてきます。つまり、最初から決まった正解はないわけです。ところが、「ゴールはあそこかな?」「あそこの方が確率が高いかな?」というロジックを延々と展開し、行動に移さないがために時間を浪費してしまうリスクがあるのです。
④会社の軸が定まっていない
新規事業は、あえて言い換えるならば「自社はどの分野のビジネスで優位性を持てるのか?」を探すゲームであるため、コアコンピタンスや強みの源泉をあらかじめ持っておく必要があります。しかし、その法則を鑑みずに「これはビジネスになりそうだ」と、とりあえず目についたものに飛びついてしまう……といったこともありがちです。
自社の軸となる要素や強みをそれに気づかなければ議論に終始し、時間を浪費した結果スケールできずに終わってしまうという可能性も十分に考えられます。
⑤会社の構造や現場に対する理解不足
縦割り組織で自分以外の仕事が不透明な環境もまた、新規事業の目的を見えづらくします。たとえば会社には企画・開発・営業・カスタマーサクセスといったさまざまな部署がありますが、「自分がサプライチェーンのどこに貢献しているか」「会社の経営戦略にどう貢献しているか」などを詳細まで熟知し、かつ日々の業務に結びつけることは困難です。一方で、課長や部長などの管理職はある程度高い視座から周囲を見渡せますが、逆に現場レベルの課題が見えづらいことが悩みになり得ます。
これらはごく自然なことですが、とりわけ新規事業の開発においては、手段と目的が一致しない状況を生み出す要因になるわけです。
サクセスストーリーへの道
先述のような課題は、いったいどうすれば解決できるのでしょうか。ここからは、対策を考えてみます。
パーパスを軸にする
新規事業開発において手段が先行してしまう原因の多くは、「そもそも会社として何をしたかったのか」がプロジェクト開始前から見えていない、あるいは途中で見えなくなってしまうことにあります。ときにはベンダーやコンサルタントとの会話が目的を気づかせてくれるかもしれませんが、新規事業の方向性はやはり前もって自社で明確にしておくことが望ましいでしょう。
そこでぜひ活用したいのが、変わることのないパーパス(会社の存在意義)です。たとえば私たちの会社の場合、世間一般では半導体のことが話題になりがちですが、「コンテナの中で最高級わさびを育てる」といった、一風変わった新規事業も実は手がけています。
そんな私たちのパーパスには、「世界中からあらゆるテクノロジーを発掘し、それらを社会に実装する」という趣旨があります。ほかにも異なる領域で10種類以上の新規事業を手がけるなかで、最先端技術を世界中から探すこと・社会実装にこだわることを経営層から現場まで一貫して理解しています。そのため、現場が新規事業に果敢にチャレンジでき、経営戦略からぶれない新規事業が生まれているのです。
新規事業を成功させるためには、自社の強みと存在意義を深く理解し、それを最大限に発揮できる企業発展のコアを可視化する必要があります。そして、その進むべき道を示す羅針盤となってくれるのがパーパスです。なお、パーパスではなく企業理念と呼んでいる企業も多いと思います。表現は違えど何らかのかたちでコアの言語化ができている場合は、それを新規事業の羅針盤とするとよいでしょう。
ファシリテーターを立てる
社内で横のつながりをもつことが難しい場合には、会社のビジネスモデル・関係者・抱えている課題といった情報の把握や整理を担う「ファシリテーター」を緩衝材として用意するのが有効です。
このファシリテーターに期待すべきことはさまざまですが、新規事業開発で特に重要なのは、経営層と現場の目線を合わせたうえで取り組みの優先順位づけをしてもらうことです。これにより経営層は現場レベルの課題を、現場は新規事業開発の目的を把握し、双方が腹落ちした状態でプロジェクトに臨めるようになります。
具体的なケースで考えてみましょう。
まず、ある企業で「営業担当者が商談時の議事録をチームに共有できていない」という課題があるとします。これは、担当者目線では「自分が覚えているからよい」と思っているかもしれません。しかし、マネージャー目線では「営業から情報があがってこず、ビジネス戦略が立てられない」という重要な課題かもしれません。
また、カスタマーサクセスでは「お客様の声を把握できず、満足度がわからない」、開発者が「次に開発すべきもののヒントを得られない」といった不満を抱いている可能性もあります。さらに、マーケティング担当者は開発者が苦しまぎれに作ったプロダクトのプロモーションしなければならなず、結果として製品が売れないというシナリオもあり得ます。
このケースの失敗要因は「開発が良いものを作れない」でも、「マーケティング担当者のプロモーションが悪い」でもないのは一目瞭然です。しかし、現場からは全体が見えないため、そのことにはなかなか気づけません。つまり、「営業が日報をちゃんと残せるようにすることが必要では?」という、いま皆さまが感じているであろうファシリテーターという第三者の存在と視点が、新規事業の手段と目的を一致させるためには必須だということです。
短いサイクルを多く回す
先述のとおり、新規事業開発ではロジックの積み上げに頼ってしまうケースがありますが、本来のあるべき姿は「観察と実証&改善」です。これは言い換えると、「いかに挑戦を繰り返し、改善を重ねつつビジネスモデルをスケールさせられるか」ということです。迷路のゴールをロジックで導くのではなく、実際に進んで壁にぶつかったら戻って、すぐに別の道を探すようなイメージです。
ちなみに、このような迅速な意思決定と行動を促すフレームワークに、Observe(観察)・Orient(状況判断)・Decide(意思決定)・Act(実行)の頭文字から成るOODA(ウーダ)ループがあります。
新規事業開発では挑戦のすべてがヒットすることはまずないため、とにかく数をこなすことが非常に重要です。その際にあわせて意識したいのが、挑戦の結果を「失敗」というマイナス要素ではなく、「検証と学び」というプラス要素として捉えることです。そのためには、特に経営層が新規事業開発のプロセスと現場の取り組みや課題を理解したうえで、視点を変える必要があるでしょう。
私たちを変えた「まずつくる」という考え方
ここまで新規事業開発におけるさまざまな課題をご紹介してきましたが、私たちは皆さまと同様の困難を経験してきた立場です。たとえば自社のプロダクト開発を進めようとしたところ、1年をかけて1つもアウトプットを出せないという苦い失敗もありました。当時は不毛なディスカッションを繰り返し、ロジックツリーが無限に膨れ上がっていく毎日でした。
そんな状況に終止符を打ったのが、あるとき部長から飛び出た「まずつくる」という考え方です。その言葉どおり、とにかくまずは何かしらのモノを作り、1歩でもプロダクトを前に進めることが狙いでした。そして、部署のメンバーが総出で「まずつくる」を心がけた結果、過去がまるでウソのようにスムーズに事が運ぶようになり、なんと半年で4つものプロダクトを作ることに成功したのです。
そんな「まずつくる」は、いわゆるアジャイル開発とは異なるものです。むしろ「アジャイル開発が難しくてうまくいかない……」と悩んでいる方にこそ、少し肩の力を抜いてぜひ実践してほしい考え方となっています。たとえ小さなモノでも、それが新規事業開発で周囲を説得する材料になったり、それまで見えなかった世界が広がることもあります。ご興味のある方は、ぜひ詳細が書かれた資料をご覧ください。
\新規事業開発の詳細が書かれた資料のお申し込みはこちら/
まとめ
今回は、新規事業開発における課題とその対策をご紹介しました。パーパスを軸に、ファシリテーターを立て、短く多くのサイクルを回す。この3点を心がけることで、皆さまが今後進むべき道はおのずと開けることでしょう。一方で、手段だけを先行させないことや、ロジックの積み上げに傾倒しないような注意は必要です。また、環境が複雑化する昨今では、さまざまな課題を自社だけで解決することが難しくなってきています。
そこで私たちは、新規事業開発に取り組むお客様のお悩みを解決すべく、無料の壁打ち相談会を実施しています(※2024年7月時点。状況は変更となる可能性があります)。
この取り組みで私たちは「まずつくる」をモットーに、お客様のあらゆる課題に徹底的に伴走しつつ、商社という強みを最大限に発揮しながら、最先端テクノロジーの探索と実装を実現してまいります。相談会は準備不要、業界も不問となっておりますので、まずはお気軽にご相談ください!