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ECサイトのみならず、小売やメーカー企業にとって在庫管理はビジネスに直結する業務であり、特に取り扱い商品の多い企業においては管理に苦戦している企業も多いのではないでしょうか。適切な在庫が常に管理できている状態であれば、過剰在庫による無駄な安売りや廃棄処分による利益面での損失を低減させることができ、また欠品による売上面での機会損失も低減させることができます。

昨今ではAI・機械学習を用いた自動管理ツールや発注システムなどの製品が多くリリースされ、導入企業も増えてきています。在庫管理をマンパワーのみに頼ってきた状況と比較すると、属人的なミスやリソース不足による未管理領域の減少により一定の効果が見込める可能性はあります。

ただし、AIシステムを導入すれば全ての課題が解消かというと、そうではありません。導入後も実際の運用現場においては人的な判断や柔軟性が必要となる場面が多く存在します。

本記事では、【ECビジネス成長×AI】シリーズの1テーマとしてECサイト運営においてAI需要予測を活用した在庫管理のポイントについてご紹介していきます。

筆者プロフィール

小松夕祐氏

Colabofact 代表 / Bsidefunny株式会社 CDO
小松 夕祐(こまつ ゆうすけ)氏

法政大学卒業後、株式会社メンバーズ入社。国内大手金融機関やメーカーのウェブサイト構築 / 運用ディレクション、プロジェクトマネージメントを6年半経験・同社マネージャーに従事。 2015年~Amazon Japan G.K.入社。 同社にてサイトマーチャンダイザーとしてデジタルマーケティングにおける戦略から実行、分析までを2年経験の後、バイヤーとして担当カテゴリにおける事業戦略、P/L管理、需要予測、商品企画を経験。 20193月~Principle Co.,Ltd.に参画。営業専任部門の立ち上げ、202010月より同社DX事業部の立ち上げおよび事業運営責任者を担当。20215Bsidefunny株式会社にパートナー・CDOとして参画。20216月より個人事業主として独立。

【ECビジネス成長×AI】シリーズ 第3回 INDEX

  1. 在庫はなぜ必要なのか?
  2. 在庫はどのくらい用意しておくのが良いか?
  3. 需要数はどうやって予測するのか?
  4. AIに在庫管理を任せることは可能か?

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▼【ECビジネス成長×AI】シリーズ 過去記事はこちら
【第1回】自社ECビジネス成長のための具体策とは?拡大するEC市場で勝ち続けるポイントを解説!
【第2回】取扱点数1,000万点以上のアスクルがECの裏側で行うAI活用成否を分けるのはラベルとカテゴリ整理
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1. 在庫はなぜ必要なのか?

AIを活用した在庫管理の方法を考える上で、まずはなぜ在庫が必要なのかを考えてみたいと思います。

在庫が必要な理由を端的に述べると「需要と供給のタイミングが異なるため」となります。お客様が欲しいと思ったタイミングで即時製造し、提供できる製品であれば極論在庫を持つ必要がないかもしれません。

しかし、多くの製品は製造に数週間かかり、また製造拠点から販売拠点までの輸送期間を含めると数ヶ月になります。つまり、お客様が欲しいと思ったタイミングから製造を開始した場合、お客様にお渡しできるのが数ヶ月後ということになります。お客様が欲しいと思ったタイミングですぐにお渡しできる状態を実現するには、将来のお客様の需要数を見込んで予め必要量を用意しておく必要があります。

この必要量を一般的に適正在庫量と呼びます。

在庫が必要になる理由

2. 在庫はどのくらい用意しておくのが良いか?

では、適正在庫量はどのように決めるのが良いのでしょうか。この問いに対する答えは商品性や単価、製品・部材の供給状況など様々な制約・条件をもとに判断する必要があり、一概にこの水準が必要量といった絶対的なものはありませんが、一つの適正在庫水準の考え方として以下のようなものがあります。

適正在庫量 = 安全在庫 + 一定期間の需要数

安全在庫とは急な需要の変動による欠品を防止するため常に最小限保持しておく在庫です。こちらも絶対的な水準が存在するのではなく、企業や商品性により変動はありますが、製造拠点に発注を出してから製品が届くまでの期間(生産リードタイム)に見込まれる需要数分を保持しておくのが多いケースという印象です。

注目すべきは一定期間の需要数です。当たり前の話ですが、お客様がいつ・どのくらいの量を購入するかが予め把握できていれば、その需要数に対して必要十分な在庫を確保すれば良く、欠品も過剰在庫も発生しません。また、先述の通り安全在庫の水準もある期間の需要数を基準としています。

これも当然ですが、実際のビジネスの現場においてはこの需要数を完全に予測することが困難であるため、どれだけ見通しを検討しても多かれ少なかれ在庫の過不足は発生します。この課題に対応するために在庫管理というプロセスが必要になります。

在庫を管理するうえで必要な情報

3.需要数はどうやって予測するのか?

では、需要数はどうやって予測すれば良いのでしょうか。需要予測には大きく分けて2つの手法があります。『デマンドフォーキャスト』と『デマンドプランニング』です。

『デマンドフォーキャスト』とは、過去の販売などの実績データをもとに未来の需要量を予測するものです。例えば、先々月11/先月9個という販売実績の商品に対して、今月も恐らく10個前後売れるであろう、と予測するといったものです。昨今では様々な統計モデルを活用したり、AIを活用し過去の販売実績だけではなく様々な相関データを活用し算出したりといった高度な予測も可能になってきています。このように過去の様々な実績データを元に、将来を予測する方法がデマンドフォーキャストであり、一般的に需要予測と聞くとこの手法を指すことが多いです。

一方、需要予測を実際の業務に導入し運用していく中で、デマンドフォーキャストだけで十分かというと、必ずしも十分と言えないケースがあります。これは、デマンドフォーキャストの算出精度自体が低いというケースもありますが、算出精度以外が原因で予測が外れるケースがあります。例えば、一昨年1050個・昨年950個の販売実績を持つ製品の場合、何らかの特別な理由がなければ今年は1000個前後売れるであろうと予測すると思います。ただ、この商品が今年の事業戦略上注力商材であり、5000個の販売計画となっていた場合、どうなるでしょうか。計画通り5000個販売できるかどうかは別として、少なくとも1000個の予測は外れる可能性が高く、計画に近い数量の在庫を用意する必要があります。

このように、需要数は過去の実績の延長上で推移するケースもあれば、内的・外的要因により過去の実績の延長上にはならないと見込まれるケースがあります。このようなケースに対応するためにある種の人の判断・意志を入れて予測する方法を『デマンドプランニング』と言います。実際のビジネスの現場において需要予測を元に在庫管理を行うには、状況に応じてこれら2つの需要予測方法を使い分ける、もしくは組み合わせて使うことが重要であると考えます。

需要予測の必要性とタイプ

4.AIに在庫管理を任せることは可能か?

AIのモデルや算出処理をおこなうプラットフォームのパフォーマンスは年々向上しており、様々な学習データや説明変数を調整していくことで一定水準での需要予測は可能であり、実務で活用できるレベルにすることも可能だと思います。実際筆者は過去にAIの需要予測結果を元に在庫管理やビジネス推進をしていました。ただ、完全にAI任せにできるか、というと経験上そうではないと思います。理由は以下2つです。

  1. 予測精度をどこまで高めても100%当たる予測は作れないため、在庫の過不足に対するマネージメントが継続して必要であるため
  2. 内的・外的要因により、需要数が過去の延長上にならないケースがあり、最終的には人の意思や判断を入れることが必要なケースが存在するため

どれだけ多くのデータでAIの学習を進めたとしても、恒常的に需要予測が100%当たることはありません。どこまで予測をしたとしても最終的には人によるビジネス判断が必要となります。具体的には、主に過剰在庫リスクをとるか・欠品リスクをとるかの判断です。これはビジネス環境やタイミング、商品性によりそれぞれ判断基準が異なります。例えば、売れ筋製品で一定の在庫回転率を有している商品であれば、欠品による機会損失をするよりは多少過剰在庫でもすぐに解消できる見通しのため、過剰在庫リスクをとるという判断をするでしょう。一方、あまり販売頻度が多くなく、不定期に売れ、かつ単価が高い商品などは、売れ残った時のビジネスインパクトが大きいため、過剰在庫リスクよりは欠品リスクを選択し、可能な限り少なめに持っておこうと判断する、というような具合です。

ただし、AIの需要予測が運用で全く使えないか、というとそうではありません。人が0から100まで全ての需要予測や在庫管理をする場合、特にSKUの多いサイトにおいては人的リソース不足や属人化の課題が生じ、ビジネス成長における大きなボトルネックになります。

鍵となるのは、AIと人的リソースのハイブリッド運用です。先述した通り最終的なビジネス判断は人が行いますが、それ以外の部分はAIやシステムに任せるといったハイブリット型の運用が量と質のバランスを両立させるためには重要であると筆者は考えます。

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第4回はECサイトの継続成長、顧客からの信頼獲得に重要なポイントの1つである「価格」の管理・最適化についてを予定しています。
お楽しみに!
 

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