小売・ECのDX成功に必須の商品データ構築──AIによる自動登録をマクニカネットワークス平原氏が解説

Biz/Zine Day 2020 Autumn レポートVol.3:マクニカネットワークス株式会社 平原郁馬氏

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 デジタル化時代の顧客体験を向上させるためには、DXとその基盤となる商品データ・顧客データの充実が欠かせない。しかし、労働人口の減少が大きな課題となりつつある今、人手をかけずにデータの取り入れを行うためには、AI活用による商品登録業務の自動化が有効だという。2019年にCrowdANALYTIX社の統合と世界25,000人のデータサイエンティストコミュニティによって提供される同社のAI商品登録ソリューションについて、同社AIビジネス部の平原郁馬氏が、米国大手小売企業の実例を踏まえつつ解説を行った。

労働人口10%減少時代を乗り切るためのDX

これからの日本における最大の共通課題として「少子高齢化」があることは誰もが知るとおりだ。10年間でおよそ10%の生産年齢人口の減少が見込まれており、業界業種に関わらず、リテール業界にも大きな影響をもたらすことは間違いない。

 総務省がまとめた1950年からの日本国内の人口推移を参照すると、2020年現在で15歳から65歳までの労働生産年齢人口は約7,300万人。10年後の2030年には6,773万人にまで減少し、労働力は10%も減少する。1000人規模の企業であれば、10年後には900人で同じように運営し、ビジネスを拡大させていく必要があるというわけだ。各業務も現在より1割減らした人数で回していかなければならない可能性がある。

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「労働生産年齢人口が減ると、企業が使える国内のリソースも減少するが、企業の売り上げを減らせばいいという話にはならない。切実な問題ながら、労働人口の減少に対して具体的な施策を実施している企業は多くない」と平原氏は警鐘を鳴らす。

 当然ながら、労働人口の減少への課題感は企業だけのものではない。国もまた課題解決策を模索しており、その1つとして打ち出しているのが「DX(デジタルトランスフォーメーション)」だ。経産省は2018年に「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~」を発行し、「DX推進ガイドライン」として具体的な推進策を提示している。「労働人口減少という問題に日本全体で立ち向かうためには、企業も一丸となってDXを積極的に進める必要がある」と経産省もまた提言しているというわけだ。

 DXの実現には、データとデジタルを活用して“ビジネスモデルそのもの”を変革させる必要がある。既存の手法ではなく、テクノロジーを活用してデータドリブンで効率化や生産性向上を実現してはじめて国内外の競争に打ち勝つことができる。平原氏は「早急にDXのための中長期計画を立て、実践していく必要がある」と改めて強調した。

リテールのDXで最優先すべき商品・顧客データの基盤づくり

 こうしたDX改革が叫ばれる中、大きなインパクトを与えたのが、新型コロナウイルスの爆発的な流行だ。当初は早期に収束すると見込まれていたが、今後も影響し続けるのは必至だ。リテール業界はコロナ禍の影響を最も受けている業界の1つであり、たとえ近々収束したとしても、過去と同じ形に戻ることはないと思われる。

 今後は“ニューノーマル”といわれる状況が続いていくことを前提に、ビジネスを考える必要がある。誰もがスマートフォンの買い物アプリを使い、仕事でもWeb会議やリモートセミナー、リモートワークが当たり前になる。そんな中で“ステイホーム”を中心とした新生活は、オンライン配信などの新しいテクノロジーによって成り立っており、コロナ禍によってユーザー側でのデジタル活用が飛躍的に加速しているというわけだ。

 「これまで店舗で購入していたものが、コロナ禍によってデジタルを利用した購買に置き換わってしまった。企業側はすぐに顧客のニーズの変化に対応できないため変化は緩やかかもしれないが、誰もが『今何をすべきか』と考え始めなければならない」と平原氏は語る。当然、企業側が早々に対応しなければ、顧客を取り逃がす恐れがある。デジタルによって変わった顧客のニーズに対応するには、デジタルを取り入れながら提供価値やチャネルなど再定義する必要がある。とはいえ、一気に置き換えるのも難しい。それでは一体どこから手を付ければいいのか。

 平原氏は、DXで最も優先度の高いものとして、「データ基盤の構築」を挙げた。DXを推進するにはデータがなければ何も始まらない。リテールの重要なデータである「商品データ」と「顧客データ」を継続的に取得する仕組みこそ重要というわけだ。

 平原氏は「最初に取り組むべきなのは、DXの軸となるデータ基盤をしっかりと構築し、データの更新や管理ができる仕組みを整えること。それをテクノロジーと人のハイブリッドで実現していくことが大切」と述べ、その基盤上で各バリューチェーンの改善として、「デジタルを活用した品ぞろえの最適化」や「現場の勘に頼らない需要予測」、「パーソナライズマーケティング」などの施策を挙げた。

 そして、「少しずつ適用することで、バリューチェーン自体の在り方が変わり、結果としてリテールビジネスを変革させることができる。DXは一時的に生産性を上げる取り組みではなく、データテクノロジーでビジネスを中長期で変革する取り組みだ。その基礎として、データを作る部分からしっかりと基礎固めをする必要がある」と繰り返した。

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マクニカネットワークス株式会社 AIビジネス部 平原 郁馬氏

商品データベースの高い完成度が購買機会を創出する

商品データは、「自社で取り扱う商品のデータをどれだけしっかりと保持できているか」が重要だ。その中には、商品価格や原材料等、誰が見てもわかる“客観的な属性情報”と、企業毎に異なる商品のカテゴリーやジャンルといった、人の好みや感覚を反映させた“主観的な属性情報”がある。また、顧客データには、年齢や性別などの「定量データ」とアンケートの回答やSNSの投稿などの「定性データ」がある。この2つを紹介した上で、「商品データ」を作る工程の自動化について深掘りしていく。

 たとえば、スポーツ用品を取り扱う店で、基本的な商品データは商品マスターに入っているとしよう。顧客のAさんが「新しい、ローカットで人とかぶらないような色のスニーカー」が欲しいと考えている場合、Aさんがニーズにマッチするような商品を見つけるのは必ずしも容易ではない。Aさんの細やかなニーズに対して、一般的な商品マスターのデータのままではマッチする情報を提供できないからだ。しかし、この商品データが、「履き口はローカット、ソールはラバーで、スタイルはシティスター、2020年リリース」といったような情報までデータが拡張されていれば、探し出してAさんに訴求できる。つまり、商品のデータベースの充実度が今後の購買機会の創出、そしてさらに続くDXの成否を決めるというわけだ。

 平原氏は「データ基盤をどう作るか、しっかり考えることは重要だが人手はかけられず、データは増やす必要がある。この相反する課題の解決策を考えなければならない」と語り、その1つの解決策として“ハイパーオートメーション”を挙げた。AIやRPAの技術を組み合わせることで、人間の代わりにソフトウェアロボットに業務を実施させるという手法だ。データエントリー領域でのAI活用による「商品登録業務の自動化」は、既に米国大手小売で実施されており、大きな成果を得ているという。

 たとえば、全米トップ3に入る大手小売企業では、様々なサプライヤーより受け取った、商品カタログや商品画像、商品の価格表などのエクセルデータから、情報の読み取り・抽出、抽出した情報の構造化、商品マスターのデータベースへの入力までを「商品登録AI」で自動化している。

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AIによる商品登録業務の自動化・データアセット構築

また、アパレル企業の場合、サプライヤーからの商品写真から、袖丈の長さや襟の形、プリントの柄などの情報をAIが取り出し、商品情報にあるブランド名などの属性と合わせて構造化して自動的に格納する。他にも、工具のカタログなど様々な分野に活用が可能だ。

 商品価格や原材料など客観的な属性情報を抽出し、商品カテゴリーや商品ジャンルといった主観的な属性情報の推定分類を行うという2段階によって、人ではなく「学習させたAI」に商品登録・分類を実施させると。AIの精度が気になるところだが、最新のテクノロジーを正しく使うことによって精度は90%以上にも上り、人間と比べても遜色ないレベルにまできているという。

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25,000人のデータサイエンティストコミュニティが支えるAIによる商品登録業務

マクニカネットワークスでは、この商品属性抽出推定分類の自動化AIソリューションとして「Crowd ANALYTIX forProduct Master Database」を提供しており、DX時代のデータ資産構築を支援するAIソリューションとして位置づけている。

 平原氏はここでデモンストレーションを実施。商品の画像や商品のテキスト文章から商品属性情報を抽出し、抽出した情報をもとにカテゴリを推定分類して、それを構造化するといったプロセスを経て、データベースに格納されるまでを行ってみせた。

 ソリューションではそれぞれの企業の取扱商品に応じて個別にカスタマイズして提供されるという。そのため顧客企業が必要とする属性や分類に合わせて、一つ一つAIモデルを開発し、組み合わせてソリューションとして提供される。たとえば食品のカテゴリーの場合、商品パッケージの画像から「オーガニック認証マーク」や「原材料名」などの情報を抽出したいという要望もあるという。また電化製品などの場合、長い説明文からなどもCPUやグラフィックボードの情報などを抽出でき、自動で登録を完了できる。

 平原氏は「今まではこれらを人手で一つ一つ見て登録していくしかなかったところ、AIによるOCR処理や属性の抽出・分類モデル・レイアウト解析モデルを組み合わせることによって、カテゴリーの分類やプロダクツタイプの推定分類を自動化し、お客様によって必要とする商品情報を抽出してデータベース化できる」と語る。そして、「25,000人ものデータサイエンティストコミュニティとともに、AIソリューションの開発を行っており、課題に対して最適なソリューションの提案そして開発を行っている」と改めて技術力の高さを強調した。

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なお開発したモデルはプラットフォームクラウド側に搭載され、SaaSとして提供される。そのため、ユーザー企業側にデータサイエンティストが不在の場合でも、マクニカネットワークスの人材や知見を活用しながらDXを進めていくことが可能だ。

 「AIなどのデジタル変革を事業に取り入れる際は、様々なプロセスを経て進めていく必要がある。AI活用のアイディア出し、データの取得やプロジェクト計画の策定、AIモデルの開発、そして開発した後も、精度維持のための運用を継続する必要がある。マクニカはこれらのプロセス全てにおいて、伴走型のパートナーとして支援が可能」と平原氏は強調する。そして、「デジタル変革の進め方に困られている企業も、マクニカ・CrowdANALYTIXのデータサイエンティストコミュニティのリソースを活用していただき、ともにDXの取り組みを進められれば幸い」と力強く語り、セッションの結びとした。