【SONiC Workshop 講演レポート】 SONiC実機とGNS3 SONiC VSによる事前コンフィグ検証 ~生成AIエージェントを環境構築・検証支援に使ってみた~
本記事は、2026年6月19日に開催されたSONiC workshopで講演した内容です。
SONiC Workshopは、オープンソースNOS(Network Operating System)である SONiC に関する日本語での交流を目的としたイベントです。
SONiC Workshop Japan 2026の詳細はこちら
本セッションでは、マクニカ フィネッセカンパニー OpenNetworking事業推進部エンジニアの佐々木太郎が、SONiC環境における設定変更作業のリスクを軽減するため、GNS3上で構築したSONiC VS (Virtual Switch)環境を、「AIと実機の間に存在する安全弁」として機能させ、AIが設定エラーを起こしても安心して活用することができるという、構築・運用効率化の取り組みについて紹介しました。
プレゼンテーション資料をご希望の方は、下記よりダウンロード可能ですのでぜひご参照ください。
講演者
佐々木 太郎
株式会社マクニカ マクニカフィネッセカンパニー
第3統括部 Open Networking事業推進部
SONiCサポート担当エンジニア
AIを安全に活用するための「三層モデル」
今回の講演で最も重要なメッセージが、「AIエージェント × SONiC VS × 実機」の三層モデルです。
このモデルでは、
①AIエージェントがAnsible PlaybookやVS/実機の環境構築を支援
②SONiC VS環境で自由に検証・デバッグ
③検証済みの設定のみを実機へ適用
という流れを採用します。
特に重要なのは、AIのハルシネーション(誤情報)を仮想環境で吸収することです。
ネットワーク運用にAIを活用するにあたり、AIがもっともらしい嘘をつくハルシネーションという現象は、ネットワーク運用の安全性を担保する上で非常に大きな課題となっております。
このような業界全体の課題を解決するため、今回の検証でご紹介している方法を活用すれば、AIが生成した設定やPlaybookに誤りがあったとしても、まずはVS環境で動作確認を行うため、本番ネットワークへの影響を防ぐことができます。
本講演でのキーメッセージは、「AIを信じるのではなく、使い倒す。正しさの検証はAnsible+VSに任せる」です。
ネットワーク運用現場でよくある課題
この記事をお読みの皆様は、ネットワーク運用にあたり下記のような課題にお困りではないでしょうか?
1. 新規テナント追加に伴うネットワーク設定変更の事前検証
データセンターでは、新規顧客や新サービス向けにVRF、VLAN、ルーティング設定を追加する作業が頻繁に発生します。
一方で、設定ミスによる通信断やサービス影響は絶対に避けなければなりません。
<課題>
・本番環境での設定変更リスク
・検証用機材や検証時間の不足
2. GPUクラスタ増設時のネットワーク設計変更の自動化・検証
AI学習基盤やHPC環境では、GPUサーバー増設時にネットワーク構成変更が頻繁に発生します。特にマルチテナント環境では、VRFやVLANの追加、ルート制御の変更が必要になります。
<課題>
・短期間での基盤拡張要求
・ネットワーク担当者不足
・AIが生成した設定に対する信頼性への懸念
3.複数顧客向けネットワーク変更業務の標準化
SIerや運用サービス事業者では、顧客ごとに異なるネットワーク環境を運用しており、設定変更の品質維持と工数削減が大きな課題となっています。
<課題>
・顧客ごとに異なる設定手順
・ベテラン依存の運用
・レビューや検証工数の増加
これらの課題は結果的に、設定ミスや手順ミス、本番環境での障害発生リスクにつながります。今回紹介する仕組みは、こうした課題をまとめて解決することを目的としています。
なぜGNS3とSONiC VSなのか
まず、GNS3とSONiC VSを組み合わせる理由についてです。
GNS3のメリット
GNS3 (Graphical Network Simulator 3)とは、ネットワーク機器の仮想化・エミュレーションを行うためのツールです。
仮想ルーター・スイッチを使ってネットワーク構成を試すことができます。GNS3を利用することで、実機ネットワークと同等のトポロジーを再現し、疎通テストまで実施できます。
<GNS3のダウンロード>
以下公式のGitHubから、インストーラーをダウンロード可能です。
https://github.com/GNS3/gns3-gui/releases/tag/v2.2.54
SONiC VSのメリット
一方、SONiC VSは以下の特徴を備えています。
・実機を占有せず事前検証できる
・SONiCのCLIをそのまま利用可能
・HwSKUを実機に合わせることでポート構成を揃えられる
・AIが誤った設定を生成しても実機へ影響しない
・VSでバグ出しをして実機に適用できる
これらのメリットにより、コンフィグ検証や自動化テストに最適な環境となっています。
VSと実機の比較
では、VSは実機にどこまで近い構成になっているのでしょうか?
下記の表は、VSと実機をDockerコンテナの観点で比較した結果です。
Broadcom SONiC v4.5.1環境では、実機とVSで20個のDockerコンテナが共通しています。FRR、LLDP、STP、SNMP、Telemetryなど、制御プレーンやアプリケーション層の主要な機能はほぼ同一構成となっています。
差分としてはASIC関連コンポーネントが中心であり、コンフィグ検証用途では十分に実機の代替として利用することができます。
アーキテクチャー
ここからは、今回実施した検証の結果になります。まず全体の構成をご紹介します。
上のクライアントPCに、AIエージェント、SSH、GNS3クライアントが乗っています。
真ん中がサーバーで、GNS3サーバー上のSONiC VS v4.5.1です。Ansible環境もこのサーバーに構築しています。
下が実機のEdgecore AS7726-32Xで、VSと同じBroadcom SONiC v4.5.1です。実機とVSのバージョンを揃えているのがポイントで、同じAnsible Playbookが両方で動きます。
検証による変更前の運用は、default VRF配下にVLAN10のみが存在するシンプルな構成です。
ここに、
・新規VRF (Vrf_a)
・VLAN20
を追加し、テナント同士が通信できない構成を実装します。
検証フロー
実機とVSを活用した検証は以下の4ステップで進められます。
1.実機設定を取得
2.VSへ反映
3.VS上で変更内容を検証
4.検証済み設定を実機へ適用
この際、VSと実機の双方で同じAnsible Playbookを利用するため、VS環境で確認した内容をそのまま本番へ適用できる点が特長です。
Ansibleによる自動化設計
次に、検証環境を支えるAnsible設計について、利用した4種類のPlaybookをご紹介します。
Playbookは「Sync」「Precheck」「Change」「Test」の4種類で構成されており、それぞれが明確な役割を持つことで、安全かつ再現性の高い設定変更を実現しています。
さらに、Makefileによって実行手順を固定化し、オペレーションミスの防止も図っています。
まず「Sync Playbook」は、実機の設定をSONiC VSへ同期します。
2つのPlayで構成されていて、Play1では実機側がconfig saveしてファイルを取得、Play2でVSへ適用します。
VRFやVLANなどのアプリケーション層の設定のみをホワイトリスト方式で抽出してVS環境へ反映します。
これにより、実機に近い状態を仮想環境上で再現でき、以降の検証の土台を作ります。
次の「Precheck Playbook」は、安全ゲートとして機能します。
SONiCのCONFIG_DB (Redis)を直接参照し、追加予定のVRFやVLANが既に存在していないかなどを確認します。
実機環境では厳格なチェックによって想定外の状態での設定投入を防ぎ、VS環境ではレポート用途として利用できるため、同じPlaybookを用途に応じて使い分けられる設計となっています。
続く「Change Playbook」では、実際の設定変更を実行します。
sonic-cliの-cオプションで、1コマンドを1タスクに分割しています。そして、既存のdefault VRFやVLAN10には一切手を加えず、必要な構成のみを追加することで変更範囲を最小限に抑えています。また設定投入後にはCONFIG_DBを再度参照し、Playbook自身が変更結果を検証する仕組みも組み込まれています。
最後の「Test Playbook」は、設定反映後の動作確認を自動化します。
showコマンドによる確認とCONFIG_DBの内容確認を組み合わせることで、VRFによるルーティング分離までチェックします。さらに、VRFのテーブルにVLAN10が漏れていないか、テナントVRF側にVLAN20があるかまで自動で確認することができます。
これら4つのPlaybookを順番に実行することで、「実機設定の再現」「事前確認」「設定変更」「動作検証」という一連の作業を自動化できます。
こちらが実際のTest結果です。
狙い通り、同じテナントVRF内でのみPingが通り、VRFをまたいだ通信は遮断されています。設計したルーティング分離が、実機できちんと効いていることが確認できました。VSで検証した通りの結果が、実機でもそのまま再現できたということになります。
この仕組みによって、AIが生成したPlaybookや設定内容も安全に検証できるようになり、「AIを信じるのではなく、仕組みで検証する」という運用モデルを実現しています。
今回の検証結果のより具体的な資料はこちらからダウンロード可能です。
生成AIエージェントの活用
今回の取り組みでは、複数の生成AIサービスを用途別に活用しました。
Google Antigravity
GNS3環境構築やSSH設定などのインフラ構築支援に活用。 普段は手順が多くて面倒なGNS3のセットアップを、AIに指示しながら進行。
Claude Code
Ansible環境構築、Playbookの実装、デバッグ支援に利用。今回紹介したPlaybook群もAIによって生成され、VS環境での動作確認結果をフィードバックしてデバックを進行。
Microsoft Copilot
プレゼンテーション構成やシナリオ作成支援に活用。
AIを信じるのではなく、使い倒す
最後に、今回の検証で実際に発生したAIのハルシネーションによる設定エラー例と、それでもAIが活用できる理由をご紹介します。
今回実際に出たエラー例として、下記が確認されました。
・SONiCのVRF命名規則を理解していないVRF名の提案
・SONiCで必要なCIDR表記ではなくサブネットマスク表記の提案
しかし、これらはいずれもSONiC VS環境で事前に検出され、本番環境へ影響を与えることはありませんでした。
この事例は、VSが「AIと実機の間に存在する安全弁」として機能することを証明しています。これにより、AIが設定エラーを起こしても、安心して活用することができます。
まとめ
本講演では、GNS3とSONiC VSを活用した事前コンフィグ検証の仕組みと、生成AIを安全に活用するための実践的なアプローチをご紹介しました。
特に、
・GNS3 + SONiC VSはAIの実験場として利用できる
・VSがAIと実機の間の安全弁となる
・Ansibleによる自動化と組み合わせることでAIを安心して活用できる
という点は、多くのネットワーク運用者にとって参考になる考え方であると言えます。
生成AI活用が加速する今だからこそ、AIを「信じる」のではなく「仕組みで検証し使い倒す」という考え方が重要です。
SONiC VSを活用した三層モデルは、その具体的な実践例として非常に示唆に富んだ内容となりました。
この記事をお読みいただいた皆様も、AIエージェント×VS×実機の三層で安全に事前検証して、Happy SONiC Lifeを楽しみましょう!
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