空気環境は健康や生産性にも影響。いま「空気質」が注目される理由とは?

ほこりや花粉、コロナウイルス、悪臭、じめじめした湿気など、部屋の空気がなんとなく気になることはありませんか?実は、私たち人間が体に取り込む物質の83%が空気であり、その大部分が室内の空気だといわれています (※1)。これほど多くの空気を摂取しているにもかかわらず、水や食べ物の品質を気にするように、空気の質を気にしている方は少ないのではないでしょうか。

近年、健康や生産性に対する空気の影響が実証され、海外では「空気質 (IAQ:Indoor Air Quality) 」への関心が上昇中です。環境意識の高い国では、健康で快適に働けるオフィスの実現に向けて、空気質を向上させる取り組みが始まっています。

「空気質」とは、いったいどのようなものでしょうか。また、なぜ重要視されているのでしょうか。ここでは、空気質の基本や空気質測定のメリットを紹介します。

空気質とは?健康や生産性に影響する、空気環境の重要性

空気質とは、英語では「Indoor Air Quality (IAQ) 」と呼ばれ、主に室内における空気の成分量や状態のことを指します。空気は目に見えませんが、カビやウイルス、化学物質など人体に有害な成分が含まれています。こうした成分の量や、温度と湿度などによって、空気質が決まるのです。

空気質は、健康に大きな影響を与えます。さらに、仕事の生産性やモチベーションにも空気質が影響することが、最近の研究で明らかになっています (※2)。空気質に気を配ることは、健康維持や効率的な働き方に直結するといえるでしょう。

現代では、山火事や産業活動による大気汚染が世界的に課題になっています。屋内の空気質も、さまざまな要因で汚染されています。空気質の悪化を食い止めるために、世界保健機関 (WHO) は空気質ガイドラインを公表しています。米国、ドイツ、ベルギーなども国を挙げて、空気質の改善に取り組んでいます。

空気質を左右する成分とは?身近な環境にある、健康と生産性への影響

空気にはどのような成分が含まれているのでしょうか。空気質にかかわる代表的な成分を具体的に紹介します。

【二酸化炭素 (CO2) 】

空気中の二酸化炭素 (CO2) が増加すると、めまいや頭痛、呼吸困難などが引き起こされます。厚生労働省によると、室内のCO2濃度は「1000ppm以下」が適切な水準です。

CO2濃度は生産性にも影響することが、さまざまな研究で明らかになっています。例えば、国内で成人男子学生を対象に行われたタイピング作業の実験では、室内のCO2濃度が上昇するにつれて作業量が減少。CO2濃度が作業効率に影響することが示唆されています (※3)。

【微小粒子状物質 (PM2.5) 】

粒子状物質 (PM:Particle Matter) とは、固体または液体の微小な粒子のことです。工場などからの粉じんやばいじん、ディーゼル車からの黒煙などが含まれます。特に、粒径10µm以下 (1µm=1mm の1000分の1) のものは「浮遊粒子状物質 (SPM) 」と呼ばれ、大気中で長時間ただよって呼吸器に影響を与えるといわれています。

また、屋内では、粒径1.0μm以下のより小さい粒子 (PM1.0) が中心となります。これにはハウスダスト、ウイルス、料理の煙、ストーブの燃焼ガスなどが含まれます。その小ささから、肺の奥深くまで到達しやすく、呼吸器系疾患、循環器系疾患、アレルギー反応、肺がんなど、人体への影響が懸念されています。

なお、海外の研究では、粒子状物質 (PM) の増加にともなって、労働者の生産性が低下することが報告されています。

【ホルムアルデヒド】

ホルムアルデヒドは、合板、接着剤、防かび剤などに使われる化学物質です。皮膚や粘膜の刺激症状、頭痛、倦怠感などを引き起こす「シックハウス症候群」の原因物質の1つとして知られるほか、発がん性も指摘されています。

シックハウス症候群は職場や学校で起きることもあり、その場合は「シックビルディング症候群」と呼ばれます。

【揮発性有機化合物 (VOC) 】

揮発性有機化合物 (VOC) は、大気中で気体となる有機化合物の総称です。さまざまな製品に使われており、トルエンやキシレンなど、よく知られるものだけでも約200種類があります。微量の化学物質に反応して喉の痛み、頭痛、疲労感、皮膚炎などが現れる「化学物質過敏症」の原因物質といわれています。ほかにも、シックハウス症候群や呼吸器疾患への影響、内分泌系や神経系への影響、発がん性など、多岐にわたる健康リスクが指摘されています。

【窒素酸化物 (NOx) 】

窒素酸化物 (NOx) とは、一酸化窒素 (NO) や二酸化窒素 (NO2) などのことです。物が高温で燃えるときに、空気中の窒素 (N) や燃料に含まれる窒素化合物が、酸素 (O2) と結びついて発生します。特に二酸化窒素 (NO2) は毒性が高く、車の排気ガス、ストーブの燃焼ガス、ガスコンロの煙などに含まれ、呼吸器疾患の原因となることが知られています。

ここまで、空気質にかかわる代表的な成分を紹介しました。このほかに、温度や湿度なども、空気質に大きな影響を与えます。日ごろから空気質に配慮するかどうかで、心身の健康や作業効率などに大きな差が生じるのです。

空気質にかかわる代表的な成分

「空気質」を測定して、健康的で生産的な環境を実現

なぜ、人間にとって空気質がこれほど重要であるにもかかわらず、これまであまり注目されてこなかったのでしょうか。その理由は、空気質を正確かつ手軽に測定する方法が存在せず、定量的な評価が難しかったからです。

しかし近年は、オフィスなどにも導入できるような、高精度な空気質センサーが登場しています。そうしたセンサーを使って空気質をモニタリングすることで、例えば以下のようなメリットが得られます。

<空気質モニタリングのメリット>
 ・CO2濃度を測定し、一定値を超えたら換気することで、集中できる環境をつくり、作業効率を向上できる
 ・PMの量を測定し、粒子が多い場所を清掃することで、職場環境を快適に保つことができる
 ・ホルムアルデヒドやVOCなどの有害物質を測定し、一定値を超えたら速やかに除去することで、健康リスクを低減できる

すでに海外では、空気質に関する取り組みが、政府や保健機関、ビルオーナー、施設管理者などに重視されています。今後、国内でも空気質への関心が高まっていくことは間違いないでしょう。

まとめ

今回は、近年注目が高まっている「空気質」について紹介しました。空気質は、健康や生産性に大きな影響を与えます。空気質をモニタリングすることで、快適で能率の上がる環境をつくることができます。

また昨今ではサステナビリティの観点から、オフィスビルなどの環境性能を評価する認証制度が話題になっています。その中でも、建物内で過ごす人の健康や快適性に焦点を当てているのが「WELL認証」という国際的な評価システムです。WELL認証において、空気質は主要な評価項目の1つとなっています。

次回のコラムでは、WELL認証の最新動向について紹介します。

マクニカでは、空気質モニタリングソリューション「AiryQonnect(エアリーコネクト)」を提供しています。設置環境に応じたセンサー端末を選択でき、高精度な屋内空気質の測定が可能です。オフィスや店舗、工場など、さまざまな場所で、安心・安全・快適な空気質を実現できます。

■参照資料:
(※1)村上周三「住まいと人体-工学的視点から-」(臨床環境医学 第9巻第2号) http://jsce-ac.umin.jp/200725/jjce9_2_49.pdf , (参照2024-05-10)
(※2)宗方淳・田中知世「オフィス環境が執務者のモチベーションに及ぼす影響に関する研究」 (日本建築学会環境系論文集 第79巻 第695号)
        https://www.jstage.jst.go.jp/article/aije/79/695/79_19/_pdf , (参照2024-05-10)
(※3)三村凌央・近本智行「教室の学習環境と学習効果に関する研究(第9報)CO2濃度変化及び温熱環境が作業性と生理心理量に及ぼす影響」
    (空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集 第8巻)
      https://www.jstage.jst.go.jp/article/shasetaikai/2018.8/0/2018.8_169/_pdf/-char/ja , (参照2024-05-10)

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