
※本記事は、2024年10月開催の「Macnica Data・AI Forum 2024 秋」の講演を基に制作したものです。
はじめに
近年、生成AIの進化はめざましく、その潜在力は単なる業務効率化にとどまらず、企業のビジネスモデルそのものを変革し得る大きなインパクトを秘めています。2023年に入り、国内でも生成AIが連日のように報道され、もはや一過性のブームではなく、企業競争力を左右する本格的な技術トレンドとして認知されるようになりました。
生成AIを戦略的に導入することで、既存の業務プロセスを革新するだけでなく、新たな製品・サービスの開発や顧客体験の向上、さらには新市場の創出につながる可能性があります。
本記事では、生成AIを導入する際に留意すべきポイントや、組織全体に根づかせるための仕組みづくりを中心に、成功事例を交えながらご紹介します。生成AIをいかに自社の成長エンジンへと変えていくか──その戦略を描くうえで、ご参考になれば幸いです。
企業における生成AI活用の現状と課題
生成AIの活用は、アメリカや中国をはじめとする海外で大きく進展し、多くの企業が競争力強化の一環として導入を加速させています。一方、日本では、業務で生成AIを活用している企業が全体の45%にとどまり、まだまだ大きな伸びしろがあるのが現状です。
この導入率の差を生み出している要因の一つとして、生成AIの導入方針が挙げられます。日本企業の多くは、社内向けの汎用ChatGPTを構築し、各業務部門が活用方法を模索する形が一般的です。対して、アメリカをはじめとする海外企業では、生成AIを具体的な業務プロセスに直接組み込むアプローチを重視し、オペレーション全体を変革することで実務レベルでの定着を図っています。こうした導入スタイルの違いが、実際の利用率や成果に大きく影響を与えていると思われます。

実際に弊社が複数の業務部門にヒアリングを行った結果、以下の二つの課題が浮かび上がりました。
一つ目の課題は、生成AIのチャットボット型UIが汎用的なUIであり、どの業務にどのように適用できるのかが明確ではないため、実際にどう活用すべきかが分かりにくいという点です。組織全体で導入を検討する際、具体的な活用シナリオが描けないまま試行錯誤に陥り、導入効果を最大化できないケースが少なくありません。
二つ目の課題は、生成AIに対して入力する「プロンプト」の設計が難しく、適切な指示を与えなければ期待した成果が得られないことです。たとえば、マーケティングチームがセミナー企画やコンテンツ生成に生成AIを活用しようとする場合、最良のアウトプットを得るためには、どのような指示(プロンプト)を与えるべきかを綿密に設計する必要があります。このプロンプトの試行錯誤が思いのほか労力を要し、導入初期のハードルとなっている実態が多くの部門で見受けられました。
課題解決に向けた取り組み(ユーザーとの共創)
こうした課題を解決し、生成AIを業務で効果的に活用するためには、AI導入を推進する部門と業務部門が協働しながら活用方法を模索し、最適な利用シナリオを共に築いていく「共創」の取り組みが、今後ますます重要になります。
そこで本稿では、弊社が取り組む具体的な手法として、二つの施策をご紹介します。
1.ユーザーとの協働による最適な入力方法の開発
弊社ではAI導入を推進する部門と業務部門が以下の4つのプロセスを通して生成AIの活用を検討しております。「業務の洗い出しと優先順位付け」「インプット・アウトプットの確認」「インプット画面の開発、プロンプトの設定」「業務への展開」です。

まず、「インプット・アウトプットの確認」では、現行の業務で使用している情報項目と、最終的に得たい成果を整理します。続いて、「インプット画面の開発・プロンプトの設定」では、整理した内容をもとに業務に即した入力項目を定義・開発し、目指すアウトプットを考慮してプロンプトを設定します。
こうしたプロセスを経ることで、業務部門の担当者はチャットボット形式でのやり取りを行わなくても、あらかじめ設計された入力欄に必要な情報を入力するだけで、生成AIを活用した望ましい出力を得られる仕組みが整います。
たとえば弊社のマーケティング部門では、セミナーのタイトルや概要の作成、ターゲットペルソナの設定などを営業部門がExcelで入力し、その情報をもとにWebに掲載するセミナー概要を検討する作業を行っています。 この業務プロセスに先述の仕組みを導入した結果、Excelに入力していた内容をもとに生成AIがWeb向けのセミナー概要案を複数生成することが実現でき、担当者の業務負荷を大幅に削減することが可能となりました。


2.プロンプトの出力結果の蓄積と活用
上記のプロセスで開発した仕組みを運用する中で、生成AIが出力した結果を評価することにより、業務に適した出力とそうでない出力の具体例が順次蓄積されていきます。こうした理想的なアウトプットに関する知見を体系的に蓄積し、それを生成AIの出力に反映する仕組みを整えることで、さらに自社や業務のニーズに即した精度の高い結果を生み出せるようになります。


まとめ
生成AIの導入と定着には多くの課題が存在しますが、それらを乗り越えるうえで欠かせないのが、AI導入を推進する部門と業務部門が協力し合う「共創」の取り組みです。業務部門が生成AIを最大限に活用できるよう、最適な入力方法や出力結果の検討・開発を重ね、その成果をもとにAIをさらに進化させていくことが重要となります。
私たちの目標は、こうした共創を通じて生成AIのポテンシャルを余すところなく引き出し、業務プロセスを革新していくことです。今後も具体的な導入手法やユースケースを発信し、皆さまの業務改善に貢献できればと考えています。
生成AIの活用をお考えの際は、ぜひお気軽にご相談ください。私たちとともに、未来の業務プロセスを共に創り上げていきましょう。