
※本記事は、2024 年 10 月開催の「Macnica Data・AI Forum 2024 秋」の講演を基に制作したものです。
1. はじめに
現代社会において、私たちの生活はますますWebサービスに依存するようになり、企業に対するユーザーの期待値は飛躍的に上がっています。その中で「顧客体験向上(CX)」は企業が競争力を保つための重要な課題になっています。そして、顧客データの適切な活用がそのカギを握っています。本記事では、DX支援のスペシャリストであるフレクトの大橋様を迎え、顧客体験向上に取り組んだ企業の事例や、分断された顧客データという課題について深掘りし、その解決策とベストプラクティスについての対談の様子をお伝えします。
2. アップデートされるサービスの顧客体験
マクニカ 池田: 株式会社マクニカ ネットワークス カンパニー セキュリティ第3事業部の池田です。Okta製品を担当し、日々お客様への提案活動を通して顧客体験向上とビジネス加速に向けた支援を行っております。本日はセッションの司会進行を務めます、よろしくお願いします。
フレクト 大橋: こんにちは、株式会社フレクト 取締役COO クラウドインテグレーション事業部 事業部長 大橋です。当社はクラウドインテグレーションを専門とする企業で、OktaやSalesforce、AWS、Databricksといったパートナー企業のソリューションを提供しています。顧客体験向上やCRMの分野で多くの事例を持っており、今日はその一部を共有できればと思います。どうぞよろしくお願いします。
マクニカ 瀬下: 株式会社マクニカ ネットワークス カンパニー データ&アプリケーション事業部の瀬下です。データブリックスチームのセールスエンジニアを担当しております。データの利活用、BI、AIトレーニング、および導入支援を担当しており、日々お客様の課題解決に取り組んでいます。本日は、データ活用の観点からお話しできればと思います。よろしくお願いいたします。
マクニカ 池田: それでは早速始めましょう。まず、昨今の顧客体験についてですが、スマートフォンの普及によりユーザーの期待は大きく変わりましたね。
フレクト 大橋: そうですね。スマートフォンやWebサービスの普及に伴い、ユーザーが簡単にサービスを利用できることが当たり前になってきました。GoogleやInstagram、LINEなどの消費者向けアプリの広がりで、ユーザーはかなり良質な体験を求めるようになっています。そのため、企業もこうした期待に応える必要があります。

マクニカ 瀬下: 特に、ユーザーがこれらのアプリで体験することが標準となっているため、他のサービスにも同様の便利さや高品質な体験を期待するようになっています。この要求に応えるために、企業はデジタル顧客体験の向上に投資し続けなければなりません。
フレクト 大橋: 確かにそうですね。しかし、多くの企業が直面する課題が、顧客データの管理がバラバラで統一されていないことです。これにより、顧客に一貫性のある体験を提供するのが難しくなり、企業として十分なデータ活用ができない状態に陥っています。
マクニカ 池田: 具体的には、どのような課題があるのでしょうか?
フレクト 大橋: 一例を挙げると、保険会社や銀行などの企業では、オンラインとオフラインのサービスが分離されているケースがあります。例えば、オンラインで保険の見積もりを依頼した後に、実際の店舗に出向くと、再度同じ情報を提出しなければならないことがあります。これでは顧客にとっての利便性が低下し、顧客体験が損なわれます。
マクニカ 瀬下: また、スマートフォンアプリの利用が増える中で、アプリごとのユーザーIDやパスワードの管理も問題になります。例えば、ショッピングアプリとサービスアプリで異なるIDを使用していると、ユーザーはそれぞれにログインする手間がかかり、不満が募ります。
フレクト 大橋: その通りです。これを解決するためには、デジタルIDの統合と顧客データの一元管理が必要になります。企業はこれにより、各サービス間で統一されたユーザープロファイルを持つことができ、全体としての顧客体験が向上します。
マクニカ 池田: また、顧客データが統一されることで、企業はより高度なデータ分析を行い、顧客のニーズに応じたサービス提供が可能になりますね。
フレクト 大橋: その通りです。例えば、保険会社が顧客のデジタルデータを統一することで、その顧客が以前に受けた保険サービスの履歴や、現在の契約状況を簡単に把握でき、その顧客に最適な新しいサービスを提案することが可能になります。
マクニカ 瀬下: さらに、ユーザーの利用履歴や行動データを活用することで、予測分析やパーソナライズされた推奨が可能になります。これは顧客体験を一層向上させるための鍵となります。
フレクト 大橋: そうですね。また、デジタルIDの統合は、セキュリティの観点からも大変重要です。複数のIDを管理するよりも、一元化されたIDシステムを利用することで、セキュリティリスクを大幅に低減することができます。
マクニカ 池田: 確かに、セキュリティの強化も顧客体験の一部です。高いセキュリティを提供することで、ユーザーが安心してサービスを利用できるようになりますね。
3. ユースケースから見る根本原因「分断された顧客データ」
マクニカ 池田: では、具体的なユースケースについて詳しくお話ししたいと思います。例えば、自動車業界を考えてみましょう。この業界では、さまざまな顧客接点が存在します。お客様がディーラーで車を購入した後、アフターサービスとしてタイヤ交換やドラレコの取り付け、定期メンテナンスなど複数のサービスを利用することになります。しかし、これらのサービスが個別のシステムで管理されていると、顧客データが分断されたままになってしまいます。

フレクト 大橋: そうですね。このような分断された顧客データが問題になる具体的なケースとして、まず考えられるのは各サービスで異なるIDが発行される状況です。同じお客様がタイヤ交換の予約をする際にはID1として登録され、次にドラレコを購入する際にはID2として別のシステムに登録されます。これでは、同じお客様に関するデータが一貫して管理されないため、企業側では統合された顧客データが得られず、効果的なマーケティングやサービス提供が難しくなります。
マクニカ 瀬下: 確かに、顧客のIDやデータが分断されていると、データ品質の低下や管理の煩雑さにつながりますね。例えば、同じ池田さんが4つの異なるIDで登録されていると、それぞれのデータを合体させるのに多大な手間がかかりますし、デジタル上では一人の顧客がまるで複数いるかのようになります。このような状況では、データ分析やマーケティングの効率が著しく低下します。
フレクト 大橋: 顧客の立場から見ると、各サービスに異なるIDでログインしなければならないのは非常に煩わしいことです。同じ企業のサービスを利用しているのに、まったく違う体験を強いられるのはストレスになります。また、再度同じ情報を提供しなければならないのも大きな手間です。
マクニカ 池田: このような問題を解決するためには、まず各サービスのIDを統一することが基本です。そして、それに伴うデータの統合も並行して進める必要があります。これにより、顧客体験の向上だけでなく、データの質も飛躍的に向上します。

フレクト 大橋: また、IDの統合はデータプライバシーの保護にも寄与します。異なるシステムでバラバラに管理されているデータは、セキュリティリスクが高まりますが、統合することで一元的に管理・保護しやすくなります。具体的には、各サービスのIDを統合することで、企業は全体的な顧客の見通しを持つことができ、よりパーソナライズされたアプローチが可能になります。これは、リテンション(顧客保持)率を高め、長期的な顧客価値を向上させることに繋がります。
マクニカ 瀬下: さらに、統合データを活用してAIや機械学習のアルゴリズムを導入することで、予測分析や自動化されたマーケティングが実現できます。これにより、業務効率も大幅に向上します。
フレクト 大橋: こうしたIDとデータの統合が進むことで、企業は顧客一人ひとりに対してより個別化されたサービスを提供することができるようになります。例えば、過去の購買履歴を基に最適な商品のレコメンデーションを行ったり、顧客のライフステージに応じたサービス提案を自動的に行うことができるようになります。
マクニカ 池田: このような具体的なアプローチにより、分断された顧客データの課題を解決し、全体的なビジネスの効率化と顧客体験の向上が実現できますね。
4. データ分断を打破するベストプラクティス
マクニカ 池田: データ分断を解決するための具体的な方法について教えてください。
フレクト 大橋: まず、IDの統合から始めることが重要です。Oktaなどの認証基盤を活用することで、複数のサービスで共通のIDを使用し、ユーザーは一度のID認証で複数のサービスを利用できるようになります。これにより、顧客体験が劇的に向上します。
マクニカ 瀬下: また、顧客データの一元管理も不可欠です。データブリックスを活用して、各サービスから収集されたデータを統合することで、データの質が向上し、より正確なデータ分析が可能になります。
フレクト 大橋: たとえば、自動車業界の事例で言えば、タイヤ交換時期や来店頻度などのデータを基に、適切なタイミングでサービス案内を行うことができます。これにより、顧客満足度を高めることができます。
マクニカ 池田: 正確なデータ分析により、マーケティングも効果的に行えますね。ユーザーのニーズに即したサービス提供ができるようになり、結果として顧客のロイヤルティが向上します。
フレクト 大橋: その通りです。また、IDの統合とデータの一元管理は、企業全体での一貫したアプローチが求められます。しかし、この過程でプロジェクトの規模や複雑さから、混乱や抵抗が生じることもあります。したがって、ステップバイステップで進行し、逐次的に成果を確認しながら進めるのが理想的です。
マクニカ 瀬下: 例えば、最初は特定のサービスや部門で試験的に実施し、成功体験を積み重ねてから他の部門やサービスに展開していくアプローチが効果的です。これにより、プロジェクト全体の成功確率が高まります。
フレクト 大橋: また、デジタルIDを統合するだけでなく、その後のデータ利用も考慮に入れる必要があります。具体的には、ユーザーの行動データをタイムリーに分析し、リアルタイムでマーケティング施策を打つことが求められます。
マクニカ 池田: 例えば、ECサイトでの購買履歴を分析し、次の購入タイミングや興味がある商品を予測することで、パーソナライズされた提案が可能になりますね。
フレクト 大橋: その通りです。このようにして、顧客ごとに最適な体験を提供することができるようになれば、結果として顧客のロイヤルティが向上し、ビジネスの成長にも繋がります。
マクニカ 瀬下: また、統合データに基づく予測分析や行動分析を通じて、顧客離れの兆候を早期にキャッチし、適切な対応策をとることも重要です。これにより、顧客満足度を維持し、長期的な顧客関係を築くことができます。
フレクト 大橋: さらに、データの一元管理は社内のサイロ化を防ぎ、部門間の協力を促進します。これにより、企業全体での戦略的な意思決定が迅速かつ効果的に行えるようになります。
マクニカ 池田: このような総合的なアプローチにより、分断された顧客データの課題を根本的に解決し、ビジネスの成長をサポートすることが可能になります。
5. まとめ
マクニカ 池田: 最後に、今日のディスカッションを振り返ってみましょう。まず、顧客体験がユーザーの期待に合わせて進化してきたこと。そして、デジタルIDと顧客データの適切な管理が重要であることが分かりました。
フレクト 大橋: 分断された顧客データは、顧客体験の低下やデータ分析の質の低下を招きます。しかし、IDの統合とデータの一元管理を行うことで、その問題を解決できます。
マクニカ 瀬下: Oktaやデータブリックスのような技術を活用し、企業全体で一貫したアプローチを取ることで、顧客満足度を高め、ビジネスを成長させることができます。

マクニカ 池田:皆さんもぜひ、この取り組みを参考にしていただき、自社のデータ管理と顧客体験向上に役立てていただければと思います。大橋様、瀬下様、本日はありがとうございました。
フレクト 大橋: どうもありがとうございました。
マクニカ 瀬下: ありがとうございました。

株式会社フレクト
取締役COO クラウドインテグレーション事業部 事業部長
大橋 正興 氏
2004年ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ入社、携帯電話のミドルウェア開発に従事。2007年フレクト入社。2009年より取締役。クラウドインテグレーション事業を統括し、その成長を牽引。

株式会社マクニカ
ネットワークスカンパニー データ&アプリケーション事業部
瀬下 大地
2021年からゼロトラスト関係に従事し、上流から運用までのサポートを担当。
SE経験を経て本年度Data分野に参画。現在はDatabricks専任のセールスエンジニアとして従事し、Data+AIが実現可能な基盤の浸透に邁進中。

株式会社マクニカ
ネットワークスカンパニー セキュリティ第3事業部
池田 将司
2020年2月マクニカ入社。セキュリティ製品のプロダクトセールスとしてスタート。現在はOkta Customer Identity Cloudのプロダクトマネージャーとして、ID領域にて活動中。