
※本記事は、2024 年 10月開催の「Macnica Data・AI Forum 2024 秋」の講演を基に制作したものです。
はじめに
生成AI(Generative AI)は、近年の技術進化に伴い、業務効率化や革新的なソリューションの提供手段として注目を集めています。特に、大規模言語モデル(LLM: Large Language Model)の活用は、その無限の可能性とともに多くの企業で導入が進められています。しかしながら、生成AIの導入・実装には、多くの企業が直面するいくつかのハードルがあります。これは単なる技術的な課題にとどまらず、業務適用の課題や組織の対応にも関連するものです。
本記事では、当社での「失敗事例」に基づき、企業が生成AIを正しく導入し、最大限に活用するためのコツや具体的な方法について解説します。特に顧客問合せ窓口におけるLLM活用事例を元に、陥りがちな失敗パターンとその解決策を紹介します。
失敗事例
生成AIの導入にあたって、多くの企業が抱える共通の課題として、以下3点が挙げられます。
- 過度な期待と不適切な業務定義
- 既存システムとの統合と品質の低下
- 組織内の連携不足
例えば、当社では生成AIをチャットボットとして顧客サポートに活用しようとしましたが、実際の利用率が低く、その結果期待した効果を得られないという失敗がありました。この原因として、前述の過度な期待、適切な業務定義ができていないこと、そしてシステム自体の品質の問題が挙げられます。
さらに、導入後のデータ検索の精度が低く、期待する回答内容を生成AIが出力できないため、ユーザーの評判が落ち、利用が減少するという悪循環に陥りました。
LLM実装に向けた取り組み
適用業務の詳細な定義
生成AIの導入に際して最も重要なステップは、適用する業務の詳細な定義です。これには、業務プロセスの各ステップで求められるインプットとアウトプットを明確にし、それをどのようにLLMに置き換えるかを計画することが含まれます。
例えば、顧客サポートの業務においては、問い合わせ内容の確認から最終的な回答までのプロセスを細分化し、それぞれの段階で生成AIが果たすべき役割を明確に定めます。



システム面の改善
次に重要なのは、自社データのLLM/RAG構成が処理しやすいデータへの加工です。ベクトル DB に格納されるデータの品質を高めるため、データソースを統一化し、文章構成を整えます。さらに、生成 AI が出力する回答の精度を向上させるためにユーザー視点でのUI/UXの整備を実施します。
例えば、ユーザーが最も近い質問内容を選択できるようにすることで、応答の精度を向上させることができます。

組織体制の強化
そして、組織内の連携体制を強化します。システム開発チームと業務現場が一体となり、相互に情報を共有しながらプロジェクトを進めることが重要です。このために、プロジェクトチーム(例:チャットボット推進チーム)を編成し、定期的なミーティングを通じて進捗状況を確認し、問題点を共有し解決していきます。

効果測定とフィードバック
導入後の効果測定も欠かせません。具体的なKPIを設定し、定期的に成果を評価します。その際、単なる数値評価だけでなく、現場のフィードバックを収集し、システムや運用プロセスの改良に反映させます。
まとめ
生成AI(特にLLM)の導入には、多くの企業が悩む共通の課題があります。しかし、正しく計画し、組織内での協力体制を整えることで、その効果を最大限に引き出すことができます。本記事では、LLMの導入における陥りがちな失敗パターンと、その解決策について詳しく解説しました。
適用業務の詳細な定義、システムの改善、組織体制の強化、そして継続的な効果測定とフィードバックプランを通じて、成功へと導くアプローチを示しました。これらのステップを踏むことで、生成AI導入プロジェクトは大きな成果を上げることができるでしょう。業務効率化と革新的なソリューション提供のために、参考になりましたら幸いです。

株式会社マクニカ ネットワークス カンパニー
データ&アプリケーション事業部 第1技術部 第1課
杉本 恭一
2021年に株式会社マクニカへ入社。統合ログ管理プラットフォーム製品を対象にテクニカルサポート、顧客トレーニング等の業務を担当。現在はサポートチーム全体の取りまとめを行いながら生成AIを活用した対顧客、対社内向けのサポート業務改革活動も推し進めている。