現代ではスピーディに変化する社会に適応すべく、理想的な組織の構築が求められる傾向がますます強まっています。そして、そのカギを握るのは社員の持つさまざまなスキルや経験のデータ化であり、それを実現するのがマクニカが開発を手がけるツール「Zipteam」です。今回は開発責任者を務める西村 大輔に、Zipteamの詳細やスキル可視化に込める想いなどを訊きました。
※:本記事に掲載しているZipteamの画面は、2024年7月時点かつ開発中のものです。
Zipteamとは?
――最初に、Zipteamがどのようなものか教えてください。
西村:一言でいえば、「チームのパフォーマンスを高めるためのツール」です。ユーザーが自身のスキルやロールを入力するとその情報がデータベースに格納され、それらを参照しながらチーム編成が行うのが、もっとも基本的な使い方です。通常、チーム編成を行う際に必要なスキルを細かく書き出したりすることはおそらくないと思うのですが、Zipteamがあれば、より課題を解決しやすくなります。
▲基本情報の登録画面にスキルを入力すると……
▲グラフ形式で表示され、登録したメンバーが持つスキルが一目瞭然となります。スキルごとの経験年数や、現在もその分野に携わっているかなども確認できます。
そんなZipteamには、3つの柱があります。まず1つ目は、社員のスキル・経験の理解です。たとえば、スポーツの分野では選手がどれだけヒットを打ったかなどの先進的なデータアナリティクスが行われています。これをナレッジワーカーに当てはめた場合、やはりデータ化すべきは知識に関することとなりますが、Zipteamでは特に分かりやすいであろうスキルに着目しています。
2つ目は、アナリティクスとデータのかけ合わせによる最高のチーム作りです。会社のチーム編成では、リーダーが「とりあえず能力の高いメンバーを集めれば、良いチームができるだろう」と進めることがありがちです。しかし、実際にはメンバーが多様なスキルを持っていなければ、市場に求められている価値を十分に満たせないこともあります。そのため、会社の中にまだ眠っている才能がないかを調べたり、チームに求められている要素とメンバーのスキルにギャップがないかのすり合わせが非常に重要なのです。仮に足りない要素やギャップがあれば外部のメンバーにサポートしてもらったり、社員を新たに採用するといった選択肢もとれるようになります。
3つ目は、人と人とのコラボレーションです。「イノベーションは暗黙知から生まれる」と言われるように、なにか新しい経営戦略を立てただけで 画期的な製品がいきなりメカニカルに登場することはまずありません。そういったものが生まれるのは、人が何かを閃いたり、アイデアを持ち寄ったりしたときです。そして、そのイノベーションは必ずしもトップダウンではなくボトムアップでも起こせます。ただ、その場合は「社内にどんな人がいるか」「自身が求める知識を誰が持っているか」「自分の持っている課題に対して、メンターになってくれる人がどのくらいいるか」といったことを部署などの垣根を超えて調べたうえで、インタラクションを起こす必要があります。
◀実際にチームを編成したところ。画面上部にはチームに求められるスキルがタグで表示されており、その下でメンバー一覧や、必要なスキルが満たされているか(Skill Gap)などを確認できます。右下の「Bus Factor」は、何名のメンバーがバスに轢かれたら(不意に欠員となったら)プロジェクト遂行に支障をきたすかを示すリスク管理指標で、Zipteamではそれをメンバーの保持スキルの観点から算出しています。
スキル可視化で、ビジネス部門の動きをより円滑に
――Zipteamをもっとも活用してほしい部門はどこですか。
西村:ビジネス部門です。もちろん人事部門にも活用いただけるに越したことはありませんが、Zipteamはチームのパフォーマンスを高めるためのツールなので、現場の課題に詳しい方のほうがよりメリットを享受できると思います。
あるお客様では2025年問題に備えるべく、会社の基幹システムの更改プロジェクトが発足し、社内のリソースのみでそれを進めることになりました。ところが、そのプロジェクトに求められるスキルを誰が持っているかなどの正確な情報は、誰も知りませんでした。こうした状況は、おそらくどの会社にもあるのではないでしょうか。
また、プロジェクトAには十分なスキルを持つ人材を回したけれど、プロジェクトBではそれができなかったというケースもありがちです。これらは社員のリテンションにも影響する重大な問題なので対策を立てたいところですが、社員のスキルを人づてに確認するのは、正確性や時間の面から現実的ではありません。そうした課題を解決するのもまた、Zipteamの役目です。
――複数のグローバル拠点でZipteamを試験運用中のお客様もいらっしゃるそうですね。
西村:はい。たとえば、直近で注目されている技術に詳しい人が海外の拠点にいて、さらにその方が日本語も話せることをZipteamを通じて知ったことで、その方を日本に招いての研修ができたお客様がいます。ほかにも、プロジェクト推進に不足しているスキルをZipteamで分析し、具体的な採用計画への落とし込みができたというケースもあります。ご利用いただいているお客様から「ここ数年でもっともワクワクするプロジェクトだから、魂を込めて仕事をしてください」いうお言葉をいただいたときは、とても嬉しかったですね。
――自社に必要な人材の方向性が明確になるのは大きなメリットだと思います。
西村:SuccessFactorsやWorkday(※)といった人事システムの分野でも、スキルに関わるフロンティアにみんな注目してはいると思います。ただ、スキルは常に変わり続けるものですし、種類が膨大なので、チームや現場が求める人材をピンポイントで探すといった運用の難易度が極めて高いと言えます。Zipteamは、その課題をクリアできる存在になりたいと考えています。
※:世界中で利用されている人事系ソフトウェア。
「人」が重んじられる時代でイノベーションを起こすために
――なぜZipteamを開発しようと思ったのですか。
西村:「人」がイノベーションや価値創造において重要な時代にも関わらず、それをエンパワーメントするツールが非常に少ないと感じているからです。私はこれまでにクラウド・セキュリティ・AIなどのさまざまなスタートアップやプロダクトを見てきたのですが、方々で話を聞けば聞くほど「最終的には人だ」と思いました。DXやイノベーションで大きく変われていない企業は、きっと人に関わる何らかの問題を抱えているはずです。
また、グローバルなソフトウェアビジネスを作りたいという理由もあります。日本はとてもよい国ですが、新興産業は海外に大きな遅れをとっています。そのため、たとえばアメリカで流行ったツールやプロダクトを日本に持ち込んでも、あまりに環境が違いすぎてまったくフィットしないことも珍しくありません。さらに日本発で有名なエンタープライズのITベンダーは、少なくともアメリカにはいません。こうした状況に、私は疑問を抱きました。
シリコンバレーは巨大なB2Cの企業に注目が集まりがちですが、実はその根幹には多くのグローバルB2B企業があり、そこに入れるようなものを自分たちの手で作らなければと考えています。そのため、Zipteamはアメリカ市場を最優先にしつつ、グローバルでの展開を見越しています。アメリカではSuccessFactorsやWorkdayのシェアが高いですが、競合するのではなく、私たちは独自のポジションを築いていきたいですね。
――確かに、ZipteamはSuccessFactorsやWorkdayとは立ち位置が異なりますね。
西村:そうですね。大企業か中小企業かは問わず、ブレイクスルーの実現をサポートできるツールでありたいと思っています。とはいえ、ある程度の人材がいなければ管理の必要性は薄いので、ご利用いただく会社の規模は200人以上を想定しています。
経営資源が多いほど企業は色々なことができるようになり、成長します。しかし、現代は行き場を失ったリスクマネーが過剰になり、モノもすぐにコモディティ化してしまう。そうなるとやはり「人」が重視されますが、社員が増えれば増えるほどメリットがあるかといえば、そうでもないことがほとんどだと思います。非常におかしなパラドックスですが、これが単に効率化の問題だとすれば、良いツールがあれば解消されるでしょう。
先ほども申し上げたとおり、イノベーションは人の暗黙知から生まれます。その価値創造に必要な暗黙知がおそらくスキルと呼ばれているもので、それらをいかにうまく活用しつつ、人のスケールメリットを伸ばすかがポイントになると思います。
――会社が人を増やすのは成長するためのはずなのに、増えた結果、構造が複雑になるだけでは確かに本末転倒ですね。
西村:はい。一方で、なるべくマネージャーを設けず社員が対等な関係で自律的に行動・協力する「ティール組織」のような考え方もあります。つまり、マネージャーを前提とするピラミッド型の組織に問題があるのではないか、ということです。実際、マネジメントを任された人は管理業務も含む仕事に対してマイナスな気持ちを抱くこともあると思うのですが、それが最小化され、イキイキとしたイノベーティブな組織作りに取り組むような事例も出てきているそうです。組織もスリムになるため、リソース面でも効率的です。
一般的な人事システムのベンダーにとっては、このような組織論は興味の薄いところかもしれません。しかし、私たちは非常に重要なことだと考えているので、Zipteamというプロダクトを通じて、新しい時代の組織づくりにも貢献していきたいです。
おわりに
今回は西村へのインタビューを通じ、社員のスキルを可視化することの重要性を知ることができました。自社に必要な人材の方向性を明確にし、よりビジネスを拡大したい皆さまとコラボレーションできる日を、私たちはとても楽しみにしています。チームのパフォーマンスを高め、暗黙知から生まれるイノベーションを実現する「Zipteam」についてより詳しくご覧になりたい方は、下記の資料をぜひご利用ください。