本記事はオンラインセミナー「"Real WASABI"(日本わさび)植物工場の実現へ! AgriTechの現在地とは?」のイベントレポートです。

講演者プロフィール

佐久間 麻守 氏/株式会社NEXTAGE

2003年にアメリカ留学から帰国後、一貫してWeb/デジタル領域のサービス企画開発、運営に従事。
現職前は、大ヒットアプリゲームのプロモーション責任者として各種施策を実行。
201810月に株式会社NEXTAGEにジョインし、デジタル領域の知見が生きると感じた植物工場プロジェクトに参画。
わさびの植物工場栽培を通じた「モバイル農業」の社会実装に向けて邁進中。

小林 俊介/株式会社マクニカ

DX/AIの事業開発支援、プロダクト開発のPMに従事。
製造業、建設業、教育業、金融業、スポーツ業界など50社のコンサルティングを経験し、現在スマート農業のDXコンサルティング及び自社プロダクト開発の推進を行っている。
多様な業種で培った経験から、お客様のインサイトの獲得からUX設計を得意とする。

日本わさびの現状

セミナーはNEXTAGE社の佐久間様の講演からスタートしました。
まず、国内で消費されているわさびとは「どんなわさびなのか」という実態の共有からです。

どんなわさびを食べているかご存知でしたか?

商品の種類 原材料 食べている部分 効能
生食わさび
本わさび 根茎
穏やかな辛味・
爽やかな香り
あり。本わさびの根茎には解毒酵素を活性化させる力が強い物質を含み、発癌の予防の効果も期待されている。
チューブわさび
本わさび使用:原材料中本わさびの使用率が50%以上
本わさび入り:原材料中本わさびの使用率が50%未満
西洋わさび。
本わさびは、根茎も含まれるが、根や葉、茎の使用がほとんど。
辛味 なし
粉わさび
西洋わさび+からし粉
※本わさびは全く入っていない
西洋わさび 強い辛味 なし

私たちが普段口にしているわさびですが、本物のわさび(Real WASABI)を食している日本人は案外少ないと、佐久間様は言います。
国内で流通するチューブ型のわさびのほとんどは、生食に分類される本わさびの「根茎」をほとんど使用しない根や葉、茎の部分を使用しています。
つまり、日本人であっても生食に分類される「本わさび」は口にする機会がほとんどないということです。

では、なぜそのような状況になっているのでしょうか。
海外産わさびの逆輸入、苗の海外流出、生産環境の変化、生産者の高齢化と様々な理由がありますが、結論生産量が需要に対して圧倒的に足りていないという現状があるのです。

そうした現状を知り、このままでは日本固有種の一つであり、世界にも認められる日本わさび(Real WASABI)の栽培継続が危ぶまれる。そう感じたことから、同社はわさびの工場栽培事業へ注力することにしたそうです。

日本わさび生産回復へのアプローチ

自社でのわさび生産はもちろんのこと、必要なのはその輪を広げていくこと。
同社は「場所を問わず誰でもわさびを栽培できる環境を作る」ということをミッションとして生産回復へのアプローチを行っています。

わさび栽培の課題

日本わさびの栽培方法として3つの手法を例に課題を共有します。

栽培法 露地栽培 簡易施設栽培 植物工場
栽培場所 山中の川沿いなど 農地など 消費地の近く
栽培期間 1年〜2年程度 1年〜2年程度 1年程度
作業負荷 大きい 大きい 小さい
栽培用水 大量に必要 大量に必要 少量
課題 新規圃場の開発が困難 湧水等が大量に必要 設備・電力コストが発生
植物工場栽培技術者の不在

図のように、条件を変えて栽培を試みても、新規開発・維持・コストの面でそれぞれ大きな課題を抱えているのがわさび栽培の現状です。

それでも何故わさびの植物工場に注力するのか

 植物工場のメリットとして、テクノロジーでの環境管理など、人員による作業・管理負荷が少ないことが挙げられます。これは、人員が高齢化するわさび栽培において大きなメリットになります。
また、露地や簡易施設栽培の場合、栽培可能になるまで最長2年の歳月が必要になります。
気候変動や異常気象が頻繁に起きる昨今の日本において、2度の夏を経るリスクは大きなものになります。
その点、植物工場では安定した気候の中1年程度で栽培可能になるため、その他の栽培方法と比較して総合的な観点でアドバンテージを持っていると佐久間様は言います。

なぜテクノロジーを活用するのか

 他の栽培方法と比較してアドバンテージがあるとはいえ、テクノロジーの活用=生産回復になるわけではありません。とはいえ、環境データなどをテクノロジーで管理することには大きなメリットがあります。
例えば、レタスなどすでに植物工場として事例が多くある植物に関しては栽培まで30日程度と、比較的早い収穫が可能です。そのため、工場内での環境変化があったとしても成長速度の誤差は数日程度で収まります。
しかし、わさびは露地では2年、工場でも1年程度の期間を必要とするため、環境変化による収穫時期の誤差は個体によっては1年程度あるとも言え、これは大きな損失になります。
そのため、個体ごとの誤差を可能な限り無くし、安定した生産量を実現するためにテクノロジーによるリアルタイムな計測と、日々のカイゼンが必要になるわけです。

どのようなテクノロジーを活用するのか

佐久間様にわさび植物工場におけるアプローチを解説いただき、後半は弊社マクニカのフードアグリテック事業向け画像処理サービスについて講演しました。

世界的な食の課題へのアプローチとして、植物工場は大きな期待を寄せられていますが、現状では生産品目のほとんどがレタス類に偏っています。
かつ、その中でも20%ほどの植物工場しか黒字化できていないというのが植物工場の実情だと弊社マクニカの小林は言います。

 では、どのようにすれば植物工場を黒字化できるのか。そのヒントが、NEXTAGE社のわさびのような「高付加価値」を生む、多種多様な植物の栽培です。
そのような植物工場の収益化を実現するため、マクニカの得意分野であるAIIoT・センシングを活用し、「生育データの可視化システム」を提供しています。

マクニカの提供する栽培計画支援サービス

弊社で提供している栽培計画支援サービスでは、主に植物の環境データの取得と、カメラによる生育状態の画像判定が可能になっています。
これにより、植物のサイズ・色味・葉っぱ・葉っぱの密度などのデータから生育状態を確認することができます。

このデータを活用することで、例えば葉っぱの色味による判別で植物の病気を早期に発見するということも可能ですし、葉っぱの成長具合を観測することで剪定タイミングを把握し、成長度合いの定量化が可能になります。

また、生育状態のABテストなど、栽培レシピの研究にも活用することができます。例えば、気温15度の環境での生育と、20度の環境での生育状態を比較し、最適な栽培計画に役立てるといったことも可能です。

こうしたテクノロジーを活用することで、栽培困難な植物における栽培計画属人化からの脱却を実現します。

カスタマイズ=開発コスト増になりにくい、柔軟な開発環境

現在、栽培計画支援サービスはNEXTAGE社のわさび栽培にカスタマイズされていますが、そのほかの植物にも流用可能だと弊社の小林は言います。

本来、植物や環境が異なれば、オーダーメイドな開発が必要となり、開発コストや開発期間が膨大・長期化するのが通例です。
しかし、NEXTAGE社に提供する「栽培計画支援サービス」は23か月程度で実装しており、開発コストもグッと抑えることに成功しています。

その秘密は、過去の350件のAI社会実装の実績です。
これまで実装してきた様々なテクノロジーを組み合わせ、流用することで開発期間とコストを削減することに成功しています。

事実、今回の「栽培計画支援サービス」に使われた画像認識モデルは、ゴルフボール検出するために作られたアルゴリズムを流用しています。

また半導体商社として、世界中の電子デバイスに精通していることもあり、植物工場向けの各種センサーや、生育に適したLEDライト、カビの発生を抑制する装置などトータルで提供できる土壌があることも短納期でサービスを提供できる秘訣だと弊社の小林は言います。

まとめ

本講演の内容をまとめます。

  • 国内で流通し、私たちの口に入る「わさび」の実態
  • 栽培困難植物をどういったアプローチで植物工場に適用するためのテクノロジー活用
  • マクニカの提供する「栽培計画支援サービス」で出来る生育データ取得
  • わさび以外の植物にも流用できる柔軟な開発環境がある

講演を終えてからのQ&Aタイムには、様々なご質問をいただきました。(一部抜粋)

  • リアルタイム化と評価のタイムラグを、どのように対応していくとお考えでしょうか?
  • 高級食材の種苗の盗難等海外流出に向けた対策を講じらていますか?
  • わさびの味について、露地栽培と植物工場とで味は異なりますか?また露地栽培での不良率が工場ではどのくらい改善されますか?
  • 食物工場というと「工場」というイメージが強いですが、空き家や、廃校した学校を再利用も可能なのでしょうか?

その他も多くの鋭いご質問にもお答えしております。

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