・教育業界でAI運用を検討されている方
・教育のAI運用改善の事例を知りたい方
・オンライン学習を改善したい方
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はじめに
リモートワークが当たり前となった今、教育もオンライン活用が当たり前となるのは必然的な流れであると感じます。
子供も大人もオンライン上でさまざまなコンテンツを学ぶ機会が増えたからこそ、リアルでの教育も徐々にAIを活用したDXが進んでおり、昔は信じられなかった「生徒が一人ひとつのタブレットを持ち学習をする」時代が来ています。
そこで今回は、AIを活用したDXとして『教育』に着目し、どのように活用できるかのヒントになるような事例を3つご紹介いたします。
1.アダプティブ・ラーニング
オンライン学習が一般化した今、学習者に合わせて教材を用意するなど、学習内容を最適化し、より効率的かつ効果的な学びを実現する「アダプティブ・ラーニング」が求められています。
アダプティブ・ラーニングのユースケースは世界的にも多いですが、その中から最新の例をご紹介いたします。
適切なタイミングで適切な学習問題を提示する学習サポート
『学習した内容を定着させるには反復が大事だ!』と聞いたことがあるかと思います。
そのためには学習項目を各学生に適切な間隔で提示し、記憶を時間とともに保持する学習スケジュールを提供することが必要になります。
以下の図は『RLTutor: Reinforcement Learning Based Adaptive Tutoring System by Modeling Virtual Student with Fewer Interactions』という論文で提案された、強化学習をベースとした最適な学習戦略を提供するフレームワークです。
このフレームワークは学習者の知識状態を把握・記憶する「内部モデル」と、強化学習により最適な強化方針や指導戦略を獲得する「指導モデル(以下、RLTuter)」の2つの構造を持ちます。
内部モデルは、Knowledge Tracing(TK:時間の経過とともに学習者の知識をモデル化するタスク)のテクニックをベースに、学習履歴から構築された「仮想の学習者」です。
RLTuterは学習者ではなく、この内部モデルとの対話を通じて間接的に戦略を最適化します。
通常、強化学習の最適化は多くの試行錯誤を重ねるモデル学習が必要になります。
しかし先にも述べた通り、RLTuterは内部モデルを利用した強化学習を実施します。
つまり、学習者の学習フィードバック数が限られている場合でも、その限られた学習履歴から学習者の知識を把握している内部モデルと試行錯誤を重ねることができるため、実際には多くの学習履歴を用いなくても教育方針を最適化することができるのです。
出典:RLTutor: Reinforcement Learning Based Adaptive Tutoring System by Modeling Virtual Student with Fewer Interactions
キャプション:Figure 1: Illustration of the difference between the usual reinforcement learning setting and the proposed method.
https://arxiv.org/pdf/2108.00268v1.pdf
2.TA: Teaching Augmentation
近年、教師の教育能力を拡張・補完するツールであるTeaching Augmentation(TA)システムに関心が集まっています。
TAシステムはさまざまな分野で登場しており、アンビエントディスプレイ (仮想ディスプレイ)・ウェアラブル・学習分析ダッシュボードなど、さまざまな形態をとっています。
教師のサポートを行うAIチューター
『Designing for human–AI complementarity in K-12 education』で紹介されたLumiloは、生徒の学習状況、メタ認知、行動などを教師が認識するためのスマートグラス用アプリケーションです。
教師が教室を見渡すと、生徒の頭上に絵文字やクエスチョンマークなどの複合現実感のあるアイコンが浮かび上がります。
このようなアイコンが浮かび上がることで、生徒全体の学習中の状況把握がしやすくなり、教師の経験を問わず生徒ひとりひとりに対して、学習のサポートが必要か・必要でないかを判断できるようになります。
また下図で示すモックアップ例は、授業中に生徒が特定のスキルに苦戦しているとAIが判断した場合に、Lumiloがその判断結果と、類似問題における最近の生徒の具体的な間違い例を表示します。
この機能を活用することで、より具体的な学習サポートを教師が行えることが期待されています。
出典:Designing for human–AI complementarity in K-12 education Kenneth Holstein and Vincent Aleven
キャプション:Fig. 1. Design mock-ups based on findings from low- to mid-fidelity prototyping sessions.
https://arxiv.org/ftp/arxiv/papers/2104/2104.01266.pdf
3.Speech to Text
音声からテキストに変換する技術を『Speech to Text技術』と呼びますが、このSpeech to Text技術はリアルタイムのライブキャプションを介してオンライン学習に使用することができるため、最近特に注目されています。
この技術を利用することで、耳の不自由な方や、失読症の子供(音声合成技術を使用して声で書くことができる)、教師の話についていけない生徒をサポートすることができます。
これまで日本語は、英語など多言語に比べ音声をテキストに変換することは難しいとされてきましたが、最近は精度の良い日本語に対応したSpeech to Textツールも増えつつあります。
しかしまだまだ課題もあり、モデルをトレーニングするためのデータセットが不足しているのです。
大規模な日本語音声のコーパス
021年に、自動音声認識(ASR)システムを訓練するための新しい大規模な日本語音声コーパスが提示されました。
コーパスとは自然言語処理で利用することばの構造や言語情報をまとめた集合体です。
このコーパスには、2,000時間以上のスピーチが含まれており、日本のテレビ番組とその字幕に基づいて作成されました。
このコーパスの有用性を確認するため、日本語のTEDxプレゼンテーションビデオに基づいて構築された評価データセット(https://github.com/laboroai/TEDxJP-10K)を使用し、モデルの評価も行っています。
このコーパスでトレーニングされたモデルは、日本語の話し言葉コーパス(Corpus of Spontaneous Japanese, CSJ:https://ccd.ninjal.ac.jp/csj/)でトレーニングされたモデルよりもパフォーマンスが優れていることも確認できたそうです。
まとめ
教育現場で活用されるAI事例を3つご紹介しました。
大人も子供も学べる機会が増えた今、AIを活用したサポートは多くの可能性があるはずです。
実際に、弊社マクニカでもWebカメラを活用した集中度算出など、今の時代に活用できるような取り組みを行っています。
学習者ひとりひとりに最適化されたコンテンツの提供や、個性ある生徒にも寄り添った技術が飛躍的に進歩しています。
また、こうした最新技術を提供する際の日本語化に関するハードルにも光明が見えてきています。
教育に関する改善アプローチについて、既存のAI技術を活用することでいくつかの解決策を用意できる時代になったことは喜ばしいことだと考えます。
■ 本ページでご紹介した内容・論文の出典元/References Kenneth Holstein, Vincent Aleven,“Designing for human–AI complementarity in K-12 education ”,Fig. 1. Design mock-ups based on findings from low- to mid-fidelity prototyping sessions., |