電波は自由に使えない
Bluetooth®やZigbeeで使用する2.4GHzにしても、このサブギガにしても、電波を使用します。
電波は公共のサービスにも使用しますので、企業や個人が好き勝手に使うことを許してしまうと、本来実現すべきサービスに支障が生じるかもしれません。そのため、電波はきちんとした管理のもとで、計画的に使用されています。
管理は各国が各々行いますが、日本では電波法という法律を定め、それに基づいて総務省が周波数の管理を行っています。
例えば、470MHz~710MHzはテレビ放送(地デジ)で使用する。xxxMHzはラジオ、xxxMHzは携帯電話、xxxMHzは航空無線、xxxMHzは海上無線、xxxMHzは衛星通信といった具合に、用途に応じた周波数の割り当てが厳密に決められています。
数年前になりますが、800MHz帯や900MHz帯のいわゆるプラチナバンドが携帯事業者に割り当てられて、ニュースで頻繁に取り上げられたのは記憶に新しいところです。
いま流行りのドローンは、無人移動体として169MHzなどが割り当てられています。
日本の周波数の使用状況については、総務省のWEBサイト で公開されていますので、一度ご覧になってみると良いかもしれません。30kHzの長波(LF)から300GHzのミリ波(EHF)までが管理されているようです。
日本におけるサブギガ
周波数の割り当てがガッチリと決められている中で、各種用途向けに"ある程度"自由に使用して良い周波数帯が幾つか用意されています。
代表的な周波数帯には、426/429MHz帯、920MHz帯があります。
920MHz帯は2012年に開放されたばかりの新しい周波数帯で、426MHz帯などと比べて高いスループットが得られるため、用途も急速に拡がっています。
周波数帯 |
主な用途 |
426MHz |
車のキーレス、防災、セキュリティ など |
920MHz |
スマートメーター など |
海外におけるサブギガ
電波は公共のものという考えはどの国も同様だと思いますが、それぞれの事情に沿って管理しますので、国ごとに開放されている周波数が異なります。
米国では915MHz帯(902~928MHz)が、欧州では868MHzや169MHzが使用できます。
国・地域 |
代表的な周波数帯 |
米 国 |
915MHz, 315MHz |
欧 州 |
868MHz, 169MHz, 434MHz |
中 国 |
470MHz |
サブギガのメリットは?
2.4GHzと比較されることの多いサブギガですが、長所もあれば短所もあります。そのあたりをしっかりと理解することで、最適な無線方式の選択が可能になってきます。
屋外に強い
2.4GHzは水に吸収されやすい性質を持っていますので、雨が降ると通信距離が短くなってしまいます。
同じマイクロ波であるサブギガも水に吸収されますが、それでも2.4GHzに比べると水に吸収されにくく、天候の影響を受けづらい性質を持っています。
屋外での安定動作の観点でも、サブギガに分があると言えるでしょう。
電波環境が良い
2.4GHz帯は、産業・科学・医療向けに、国際的に共通で使用可能な周波数として確保されている帯域(ISMバンド)です。そのため、非常に使い勝手が良く、Wi-FiやBluetoothといった無線通信だけではなく、電子レンジなどの用途でも使用されています。(電子レンジ用の2.4GHz帯をWi-Fiなどが利用)
その反面、2.4GHzを使用する機器の数は非常に多いですので、電波も非常に混雑しています。
電波が混雑すると、通信に失敗したり、通信距離が短くなったり、通信速度が遅くなったり、といった障害が出る可能性が増します。
通信に失敗したら、成功するまでリトライすれば済む話なので、実運用上はさほど支障のない場合も多いです。
しかしながら、通信頻度に制約のある電池動作の製品や、エラーレートが低いことを前提に設計されたシステムなど、幾つかのアプリケーションでは良い電波環境で使用することが好まれます。
その点では、サブギガに優位性があります。
サブギガのデメリットは?
メリットだけを見ると、2.4GHzよりもサブギガの方が使い易そうに感じますが、サブギガが劣る点ももちろんあります。サブギガを使うデメリットのうち、代表的なものを紹介したいと思います。
使用できる周波数が国によって異なる
国や地域ごとに使用できる周波数が異なることは前出のとおりですが、周波数が異なると、アンテナやマッチング/フィルタ/バラン回路にも違いが生じます。
また無線は、電波法で規定された条件の範囲内で使用する必要があり、制御ソフトウェアもその条件を満たすように設計します。しかし電波法は国によって異なりますので、制御ソフトウェアにも違いが生じます。
送信に使用したい周波数チャネルが空いているかを確認する機能(キャリアセンス、Listen Before Talk)や、周波数チャネルを占有してよい時間限度(送信時間制限)、複数チャネルを使用した運用(周波数ホッピング、同時使用単位チャネル数)などに、主に違いがあります。
つまり、機器を複数の国に出荷することを考えた場合に、ハードウェアおよびソフトウェアの共通化設計が難しいという事です。
仕向地ごとにカスタム開発を行えば諸々のコストが高く付きますし、また国を跨いで持ち運ぶような機器ではサブギガの使用自体が難しいでしょう。
機器を海外展開したい場合などは、サブギガよりも2.4GHzの方が適していると言えます。
表示デバイスとの接続が苦手
表示デバイスの代表格には、タブレット、スマートフォン、ノートPCなどがありますが、サブギガはこれらの表示デバイスと直接通信する術を持ちません。
表示デバイスから機器をサブギガで制御したい、機器から収集したデータを表示デバイスで参照したい、という要望もあるかと思いますが、それを実現するには、サブギガに対応したハンディターミナルや専用ディスプレイを開発する必要があります。
これらの用途には、既存の表示デバイスを活用できるBluetoothやWiFiの方が向いていると言えます。
デメリットの解消を考える
無線方式としてのサブギガは、非常に魅力的に映ります。
回り込みや通信距離といった特性面は2.4GHzに対する大きなアドバンテージで、BluetoothやWi-Fiなどのメジャーな無線規格と比べても優位性を保てる用途は多くあるだろうと思います。
その一方で、表示デバイスとの親和性の低さは、サブギガを使ったサービス展開を考えた場合に足枷となり得ます。サブギガに対応した表示デバイスを開発する、という解決アプローチもありますが、タブレットなどの広く普及した表示デバイスを使わない手はありません。
機器側にサブギガだけではなくBluetoothやWi-Fiも実装してしまえば、サブギガの特性面のメリットを活かしつつ、表示デバイスとの接続の問題も解消できる筈です。
鍵は「マルチプロトコル対応」
無線規格には色々とありますが、残念ながら万能な無線規格は見当たりません。複数の無線規格をサポートし、状況に合せて使い分けるという運用は、機器レベルでは従来から行われてきました。その複数の無線規格(マルチプロトコル)への対応が、デバイスレベルで実現されつつあります。
無線の選択は適材適所で
サブギガと2.4GHzを比べると、主に無線特性においてサブギガには色々な強みがあります。
一方で、商品展開やシステム運用を考えた場合に、2.4GHzの方が都合が良い場合も多いでしょう。
サービスが多様化していく中で、1つの無線方式だけであらゆる市場要求に対応することは、なかなか難しいのかもしれません。複数の無線方式に対応すること(=マルチプロトコル)は今後のトレンドになってくると考えます。
サブギガも、「サブギガ + Bluetooth」のようなコンビネーションで考えれば、活用の場が広がるのではないでしょうか。それにより、新たなサービスが生まれる可能性もあります。
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