自律移動ロボットに求められる高度化と自律性
近年、物流倉庫や工場、商業施設などを中心に、自律移動ロボットの活用が拡大しています。
従来の搬送ロボットでは、あらかじめ決められたルート上を移動するAGV(Automatic Guided Vehicle:無人搬送車)が広く利用されてきました。AGVは安定した搬送を実現できる一方で、走行ルートの変更やレイアウト変更への対応には一定の制約があります。
一方で、近年注目を集めているのが、AMR(Autonomous Mobile Robot:自律移動ロボット)です。
AMRは、周囲の環境を認識しながら自律的に移動できるため、
- 障害物を回避しながら走行できる
- レイアウト変更に柔軟に対応できる
- 人と協働する環境にも適応しやすい
といった特長を備えています。
こうした背景からAMR市場は世界的に拡大を続けており、2025年に約31億ドルだった市場規模は2035年には170億ドル規模へ成長すると予測されています(※)。物流・製造業を中心にロボット活用が進む中、単純な搬送だけでなく、自律的に判断・移動できるロボットへのニーズが高まっています。
※出典:Global Market Insights「Autonomous Mobile Robots Market Size & Share Report, 2035」
しかし、このような柔軟な移動を実現するためには、ロボット自身が周囲環境を認識し、自ら判断して行動する必要があります。
例えば、自身の位置を把握するための自己位置推定や地図生成、周囲環境の認識、移動経路の判断、さらにはモーター制御など、複数の処理をリアルタイムに連携して実行しなければなりません。
このような現実世界を理解し、自律的に行動するAIとして近年注目されているのがフィジカルAIです。
フィジカルAIでは、単なる画像認識や推論だけではなく、認識・判断・制御を連続的に実行することが求められます。
本記事では、SiMa.aiのMLSoC™ Modalixを活用した自律移動ロボットデモをもとに、フィジカルAIによるロボティクス活用事例をご紹介します。
事例:Visual SLAMと物体認識を活用した自律移動ロボット
ロボットが自律的に移動するためには、自身の位置を把握しながら周囲環境を認識し、状況に応じた制御を行う必要があります。
今回の事例では、SiMa.aiのMLSoC™ Modalixを活用し、Visual SLAMと物体認識を組み合わせることで、自律移動ロボットに必要な一連の処理をリアルタイムに実行しています。
Visual SLAM(Visual Simultaneous Localization and Mapping)は、カメラ映像を利用して周囲環境の地図を作成すると同時に、ロボット自身の位置を推定する技術です。ロボットの現在地と周囲環境を同時に把握できるため、自律移動を実現する重要な技術の1つとして活用されています。
さらに、YOLOv8による物体認識も組み合わせることで、ロボットは周囲環境を認識しながら移動することが可能になります。
また、これらの処理はすべてロボット上で実行されており、外部GPUやクラウド接続を必要としません。これにより通信環境に依存することなく、認識・判断・制御をリアルタイムに実行できます。また、システム構成をシンプルにできるため、ロボット開発における設計負荷の低減にも繋がります。
Visual SLAMと物体認識による自律移動ロボットのデモはこちらです(英語の動画になります)。
本デモでは、MLSoC™ Modalix上で以下の処理が実行されています。
① Visual SLAMによる地図生成
② カメラ・IMU・オドメトリを活用した自己位置推定
③ YOLOv8によるリアルタイム物体認識
④ ROS2によるシステム制御
⑤ 認識・位置推定・制御の協調動作
⑥ すべての処理をローカル環境内で実行
<用語補足>
・IMU(Inertial Measurement Unit):加速度や角速度を計測し、ロボットの姿勢や動きを把握するための慣性センサー
・オドメトリ:車輪の回転量などから移動距離や位置の変化を推定する技術
・YOLOv8:画像内の物体の位置や種類をリアルタイムに検出するAIモデル
・ROS2(Robot Operating System 2):ロボット開発向けのオープンソースソフトウェアプラットフォーム
これにより、ロボットは周囲環境を認識しながら自律的に移動することが可能になります。
Visual SLAMによるリアルタイム地図生成と自己位置推定
ロボットが自律的に移動するためには、自身がどこにいるのかを把握しながら周囲環境を認識する必要があります。
本デモでは、Visual SLAMを活用して地図生成と自己位置推定を実施しています。
Visual SLAMでは、カメラ映像に加え、IMUやオドメトリから取得した情報を組み合わせて処理します。
取得したセンサーデータはCartographerによって統合され、リアルタイムに地図生成と自己位置推定が行われます。また、その結果はRviz上で可視化されるため、ロボットの現在位置や周辺環境をリアルタイムに確認できます。
<用語補足>
・Cartographer:地図生成と自己位置推定を行うためのSLAMソフトウェア
・Rviz:ロボットの位置や周辺地図を可視化するための表示ツール
YOLOv8によるリアルタイム物体認識とフィジカルAIの実現
ロボットが周囲環境を理解するためには、自己位置を把握するだけでなく、周囲に存在する物体を認識することも重要です。
本デモでは、UVCカメラから取得した映像を利用して物体認識を実施しています。取得した映像は、MLSoC™ Modalix上で動作するYOLOv8推論パイプラインへ入力され、リアルタイムに物体を検出します。
さらに、本デモではVisual SLAMによる地図生成・自己位置推定と、YOLOv8による物体認識、ROS2によるシステム制御を単一プラットフォーム上で協調動作させています。
これにより、外部GPUやホストCPU、クラウド接続を必要とせず、認識・位置推定・制御をリアルタイムに実行できるシンプルなシステム構成を実現しています。
まとめ:認識・判断・制御を統合するフィジカルAIプラットフォーム
今回ご紹介した事例では、Visual SLAMによる地図生成と自己位置推定、YOLOv8による物体認識を組み合わせることで、自律移動ロボットに必要な環境認識を実現しています。
さらに、これらの処理をMLSoC™ Modalix上で統合実行することで、認識・位置推定・制御を協調動作させるフィジカルAIプラットフォームを構築しています。
また、外部GPUやホストCPU、クラウド接続を必要としないシンプルな構成と、10W未満の低消費電力動作を両立している点も特長です。
今回のデモで使用したSiMa.aiのMLSoC™ Modalixは、現場で使えるAIを実現するために最適化された次世代チップです。
小型・省電力でありながら最大50TOPSの高効率推論を実現し、認識・位置推定・制御をリアルタイムに実行します。Arm Cortex-A65搭載による柔軟な開発環境も、大きな導入メリットとなります。
フィジカルAIや自律移動ロボットの導入を検討されている方は、今回の事例を参考に、自社システムへの適用可能性を検討してみてはいかがでしょうか。
ぜひ、AI活用の第一歩として本記事をお役立てください。
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エッジAIユースケース集(デモ動画付き)
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