はじめに
電源設計においては、これまで以下の棲み分けが存在していた。
低電圧・高周波:横型GaN
中~高電圧:SiC MOSFET
汎用・低コスト:シリコンSJ MOSFET / IGBT
しかし近年登場したVertical GaN(GaN-on-GaN JFET)、以下縦型GaNと呼称は、これらの境界を崩しつつある。本稿では、その技術的優位性を解説する。
高周波スイッチング性能(損失・周波数)の優位性
スイッチング損失
縦型GaNは他のデバイス(シリコンデバイス、SiC、横型GaN)に比べ次の構造的優位性を持つ。
①Cossが極小 ②少数キャリアなし(完全ユニポーラ) ③逆回復時間ゼロ
これによりスイッチング損失は 縦型GaN<横型GaN<SiC-FET<シリコンFETの関係になり最小の損失特性となる。
オンセミ社の説明によるとスイッチング速度をダブルパルス試験にて測定(1200V、Ron 0.82mΩ、TO-247,印可条件はVDS 400V, IDS 4A)した結果、立上時間:12.9ns、立下時間:10.3nsでトータルスイッチングロスは37μJであったという。
同オンセミ社のSiC-FET:NTH4L022N120M3Sと測定条件は違うが711μJと比較してみると縦型GaNの損失が感覚的に小さいと言える。
さらに10MHzでのスイッチング性能を見た結果、ドレイン電圧、ゲート電圧共に非常にシャープな波形が観測できたと説明があった。
高耐圧化(将来における1700V / 2000V化)
縦型GaN(GaN-on-GaN構造の縦型パワーデバイス)は、電流が基板方向(垂直方向)に流れる構造を採用しているため、ドレイン–ソース間電圧(VDS)の耐圧は主にドリフト層の厚さおよびドーピング設計によって決定される。これは横型GaNや従来のシリコンデバイスにおいて重要であった電極間距離依存の耐圧設計とは本質的に異なる特長である。
実際のデバイスでは、1.2kVクラスの定格に対し、1700V以上のブレークダウン電圧が確認されており、さらにドリフト層の厚膜化により1700V〜2000V級へのスケーリングが構造的に可能である。この高耐圧性能は、GaN材料が持つ高い臨界電界強度(約3 MV/cm)を最大限に活用できる縦型構造によって支えられている。
また、縦型GaNはGaN基板上にGaNを成長させるホモエピタキシャル構造を採用しているため、格子不整合に起因する欠陥が少なく、電界集中やリーク電流の増加が抑制される。さらに、ブレークダウン電圧は正の温度係数を示すため、温度上昇時にも電界集中が緩和され、熱暴走を起こしにくい安定した耐圧特性を有する。この特性は、高温環境下での動作が求められる車載や産業用途において重要な利点となる。
このようにVertical GaNは、縦型構造による耐圧設計の自由度と、GaN材料の高電界耐性を融合することで、従来デバイスを上回る高耐圧特性と高効率動作を両立したパワーデバイスである。
オンセミ社からは環境温度25℃~200℃範囲におけるIdss及びIgssの値は参考値になるが100μAになると説明があった。
ゲート構造とゲート耐圧
縦型GaNは、従来のシリコンMOSFETやSiC MOSFET、さらには横型GaN(HEMT)とは異なり、ゲートに酸化膜を介さないPN接合構造を採用している点が大きな特長である。具体的には、P-GaNゲートとN-GaNチャネルの接合によって電流制御をおこなうため、ゲート酸化膜に起因する絶縁破壊や信頼性劣化の影響がない。
この構造により、縦型GaNは高いゲート耐圧と優れた信頼性を同時に実現している。一般的なMOSFETではゲート酸化膜の電界強度が制約となり、過電圧や高速スイッチング時のdV/dtストレスにより酸化膜劣化が課題となる。一方、縦型GaNではPN接合が電界を分担するため、高い電界耐性と優れた過渡耐久性を有する。
また、ゲート–ソース間はダイオード的な特性を持つものの、通常動作ではゲート電流は数mAレベルに抑えられており、適切にゲート電流を制限することで、実質的にはシリコンMOSFETと同様の電圧駆動(VGS制御)での運用が可能である。このため既存のゲートドライバー設計資産を活用しやすいという利点もある。
アバランシェ耐量
縦型GaNは、従来の横型GaNとは異なり、p-GaNとn-GaNによる垂直pn接合を有することで、アバランシェ動作を実現している。
高電圧印加時には、ドリフト層とゲート接合付近で強い電界が形成され、インパクトイオン化によりキャリアが増殖し、アバランシェ電流が発生する。この電流はゲート領域およびチャンネルへ分散して流れるため、局所的な電流集中が抑制され、安定したエネルギー吸収が可能となる。
オンセミ社の説明では、1200Vクラスのデバイスにおいて1700V以上のアバランシェ電圧および7.44 J/cm²クラスのアバランシェエネルギーが確認されており、これは最先端SiC MOSFETと同等レベルの耐量(6~15 J/cm²)である。さらに、ブレークダウン電圧は正の温度係数を示し、熱暴走しにくい安定なアバランシェ動作が可能である。
このように縦型は、従来GaNの弱点であった「過電圧時の破壊的動作」を克服し、サージや誘導性負荷による過電圧エネルギーをデバイス自身で安全に吸収できる高いロバスト性を備えています。
短絡耐量
短絡耐量は、一般に電源システムでは10µs程度の耐量が要求されるが、従来の横型GaN(HEMT)は短絡耐量が1µs未満と低く、車載インバーターなど高信頼用途への適用が課題であった。
縦型GaNは、この課題を構造的に解決するデバイスである。オンセミ社の説明で400V印可条件で30µs以上、800Vでも10µs超の短絡耐量が確認されており、SiやSiCデバイスと同等あるいはそれ以上のロバスト性を示された。
この優れた短絡耐量は、デバイス固有の電流自己制御機構に起因する。短絡時にはチャンネル温度の急上昇によりキャリア移動度が低下するとともに、ゲート–ソース間のPN接合を介した電流増加によって有効ゲート電圧が低下し、ドレイン電流が自動的に抑制される。この結果、電流はピーク後に大きく減衰し、熱暴走が防止される。
さらに縦型では、アバランシェによるキャリア生成がチャンネルおよびゲート領域に分散されるため、電流集中が起こりにくく、短絡時と過電圧が同時に印加された厳しい条件下でも安定に動作する。この特性により、従来のGaNデバイスでは困難であった高電圧領域での短絡耐量の実現が可能となった。
さらに繰り返しアバランシェ試験後の故障モードについて、ドレイン–ソース間がオープン状態となる「フェールオープン」になると説明があり、耐圧を維持するためシステム全体の安全性にも大きく寄与する。また1万時間バイアス試験においても特性劣化がほとんど見られないことから、長期信頼性の観点でも優れた特性を有する事が判った。
このように縦型GaNは高速スイッチング性能を維持しながら、従来デバイスと同等以上の破壊耐量を実現したデバイスであり、電動車インバーターや電力変換装置といった高信頼用途への適用が期待されるデバイスである。
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