映像伝送IP化最前線 第1話 放送業界におけるテクノロジーの進化

私たちの生活を支えるテクノロジーは、日々目覚ましい進化を続けています。その恩恵を受けて、私たちの日常生活は豊かになってきています。

メディア&エンターテインメント(M&E)とよばれる、放送を中心とした世界においても例に違わず、現在進行形で大きな進化を遂げようとしています。そこで「映像伝送IP化最前線」と題して、全3話で革新し続ける放送業界の技術を解説していきます。第一話では、その最初の波となる「放送のIP化」とその先までお話しします。

 

[映像伝送IP化最前線]

第1話 放送業界におけるテクノロジーの進化

第2話 放送機器のソフトウェア化

第3話 NVIDIA Rivermax SDKの概要

放送のIP化

昨今のエンターテインメント業界は、テレビやラジオといった歴史ある媒体から、インターネットストリーミングなどの新たな媒体へと広がりを見せています。その背景には、近年の目覚ましいインターネット技術の発展により、わたしたちエンドユーザーまでが恩恵を受けることができるほどの、ブロードバンド環境の普及が大きく影響しています。このインターネット環境を実現するために用いられているコア技術の一つが、Ethernet/IP技術になります。

 

一方で、テレビを中心とした放送業界ではどのような技術が使われているのでしょうか。例えば、最近では当たり前になっている放送局の見逃し動画配信のようなサービスでは、もちろんIP技術をベースとしたインターネット技術が使用されています。また、収録VTRの編集工程においても、IPネットワークをベースとしたネットワーク/ストレージ技術が使用されています。

 

しかしながら、テレビ放送に欠かすことができない番組制作の現場(スタジオ、サブなど)では、まだまだSDI(Serial Digital Interface)と呼ばれる同軸ケーブルを用いた旧来のテクノロジーを使用しているのが現状です。確かにSDI技術は長年使用されてきており、安定性、使い勝手、ノウハウなどいろいろな側面で、放送エンジニアの方々には使いやすい技術です。一方、4K/8Kなどの超高精細映像を扱う必要が出てくると、これまでのSDI技術の限界が見えてきました。この限界を解決する方法として注目されたのが、Ethernet/IP技術なのです。

IP化へのみちのり

SDI技術をIPに置き換えようという動きが始まって久しいですが、当初は、IP化のメリットに関するメッセージばかりが独り歩きしており、実が伴っていない印象がありました。具体的には、

 

 ・Ethernetは高速化が目覚ましい技術なので、4K/8Kの帯域も簡単に確保できる

 ・光化が簡単にできるので、長距離にも簡単に対応できる

 ・汎用ネットワーク機器を使用できるので、導入コスト削減になる

 ・制作~編集~配信をシームレスにIPネットワーク上で構成できる

 

といった内容です。これらは決して間違えたことを言っているわけではありませんが、必ずしもいい面ばかりではなく、IP化の難しさも同居しているというのが、その後私たちが直面した現実でした。

 

マクニカのNVIDIA (旧Mellanox)チームは、2017年頃から放送業界に参入しましたが、ちょうどこの頃が、まさにそういった課題に直面している状況でした。そして、放送のIP化を目指す放送局、放送機器メーカー、ネットワーク機器メーカーや代理店などが集合し、IP化の検証やデモが各所で勃発し始めたのもこの頃でした。マクニカも、NVIDIA Mellanoxの超高速イーサネットスイッチ製品を持ち込み、大小さまざまな検証会に多数参加してきました。こうして、各プレイヤーが持ち寄った知見や検証結果から、様々なノウハウを蓄積し、「IP化の難しさ」の壁を乗り越えてきました。

IP化のその先

こうした苦労を乗り越え、まだまだ完全IP化とまではいかないまでも、国内外を問わずIPを使用した放送局設備も増えてきており、また、設備更改の際には必ずIPベースのシステムが検討の土台に上がるレベルまで成熟したものに進化させてきました。

 

一つステージが進むと、次に考えるのが、単純なSDIからIPへの置き換えだけではなく、IP化によるメリットをより多く享受したいというものです。COVID-19の影響もあり、人員を最小限に削減した形でのリモートプロダクション/リモートオペレーションもその一例です。これらは、IP/インターネット技術をベースとしたシステムで最もメリットを享受しやすく、実用化もしやすい運用形態かと思います。

 

そしてさらにその先のビジョンとしては、放送設備のクラウド化というところまで見え始めています。これを実現するための鍵となる技術の一つが、放送機器のソフトウェア化です。これまでの放送設備は、機器メーカーにより開発された専用機器でした。IP化に伴い現在少しずつ普及が進んでいるのは、「汎用のサーバー機器にソフトウェアで機能実装した放送機器」なのです。

 

NVIDIA Mellanoxは、高速なイーサネットスイッチ製品のみならず、サーバー上で放送機器を実現するための超高速NIC (Network Interface Card)やSDKのソリューションも用意しております。次回はRivermaxと呼ばれるソリューションについて紹介します。

次回もぜひご覧ください

著者プロフィール

船木 浩志

株式会社マクニカ クラビス カンパニー

技術統括部 技術第3部第2課 

船木 浩志

 

 

略歴:

某国内メーカーにて通信機器開発に従事したのち、マクニカ入社。通信機器向け半導体のサポートの後、7年程前からNVIDIA社(旧Mellanox社)製品を担当。近年は放送業界向けを中心としたプロモーションおよびサポートに従事。