水晶振動子の電気的特性に関するキーワードを解説していきます。具体的な数値や、計算方法、製造工程における情報も含めて説明します。

1. 周波数偏差(常温偏差)

25℃における周波数のズレ具合のことです。周波数調整工程における作業の精度の良し悪しで決まります。一般的な用途の場合は±30ppmとか±50ppm程度ですが、無線通信用などでは±10ppmとかの厳しい偏差が必要とされることがあります。

製造バラツキなどを考慮すると量産レベルでは ±8ppm とか ±7ppm というのが最も厳しいレベルです。規格が厳しいほど歩留まりが悪く、単価が高くなります。

周波数偏差のデータシート表記例(水晶振動子:九州電通社MASシリーズ)『Specification 仕様』
Freq. Range
周波数範囲
Freq. Tolerance
周波数偏差
Freq. Stability
周波数安定性
Ope. Temp Range
動作温度範囲
Drive Level
ドライブレベル
16.000MHz ~
69.999MHz
±10ppm, ±50ppm
(at 25℃)
±10ppm, ±50ppm
(Ref. to 25℃)
-10℃ ~ +60℃
-40℃ ~ +85℃ ※1
100μW max.
70.000MHz ~
200.000MHz
±30ppm, ±50ppm
(at 25℃)
±30ppm, ±50ppm
(Ref. to 25℃)
-10℃ ~ +60℃
-40℃ ~ +85℃
2.0μW typ.
(100μW max.)

※1 ±15ppm品以上

06MASdata__1.pdf

(参考)九州電通:MASシリーズのデータシート

2. 周波数温度特性

25℃における値を基準とした時の、周波数の温度変化に対するズレ具合のことです。

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水晶カットの名称(日本水晶デバイス工業会様 提供)

AT-Cutの水晶の場合は、三次曲線のカーブを描きます。

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一般的な各種カットについての理論上の周波数温度特性曲線(日本水晶デバイス工業会様 提供)

周波数温度特性は、水晶ブランクの切断角度の精度の良し悪しで決まります。
規定の切断角度に対して、通常の場合は ±3' 以内とか ±1' 以内のブランクを使いますが、厳しい温度特性を要求される場合は、±15" 以内とか、±7.5" 以内というブランクを使うことになります。

量産レベルでの温度特性の限界例としては、一般的に次のように言われています。

(-5~50℃)なら ±3ppm
(-10~60℃)なら ±5ppm
(-20~70℃)なら ±7.5ppm
(-30~80℃)なら ±15ppm
(-40~90℃)なら ±20ppm

周波数温度特性も規格が厳しいほど歩留まりが悪くなるので、単価が高くなります。

3. 等価直列抵抗

ESR = Equivalent Series Resistance、RsまたはR1とも言います。
水晶振動子は電流を通し難くする抵抗の働きをする面があり、それを等価直列抵抗といい、Ωで表します。(負荷をかけないで水晶単体で測定した抵抗値)

ESRの値が小さいほど発振し易くなります。ただし標準より厳しいESRを規格として要求されると、歩留まりが悪くなるので単価が高くなります。

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水晶振動子の等価回路

R1:等価直列抵抗(Series Resistance)
L1:等価直列インダクタンス(Motional Inductance)
C1:等価直列容量(Motional Capacitance)
Co:並列容量(Shunt Capacitance)

水晶振動子を発振させるためには、発振回路のICで水晶の抵抗成分を打ち消して、発振を起動させる力が必要で、その発振起動力を負性抵抗(-R)と言い、単位はΩで表します。

負性抵抗が大きいほど発振しやすくなります(発振余裕度でも表現します)。

負性抵抗、発振余裕度についてはこちらを参照ください。
[水晶振動子の基礎講座] 発振条件と回路マッチング(回路解析)について

4. 負荷容量(CL)

負荷容量とは、水晶振動子を除いた発振回路全体の持つ容量のことです。(回路の負荷容量)
振動子を適正に発振させるためには、回路の負荷容量に合せて水晶振動子を製造しなければなりません。(水晶振動子の負荷容量=回路の負荷容量)

4-1. 負荷容量の値

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基本波の発振回路

基本波の水晶振動子を使う場合の負荷容量の値は、計算上では次の公式で求められます。

CL = C 1 × C 2 C 1 + C 2 + IC の持つ容量

※C1、C2は発振回路の2つのコンデンサの値

ICの持つ容量は実際に測らなければ正確には分かりませんが、大体4から5pFのことが多いです。(厳密にはICの2pin間の容量+ボードパターン容量)

例えば発振回路において、C1とC2が8pFの場合、

CL = 8 × 8 8 + 8 + 4 (または 5

これを計算すると、CL=8または9pFとなります。

このことから計算上では、この回路には負荷容量8または9pFの振動子を搭載すればほぼ正確な発振をするということが分かります。 上記の値はあくまでも計算上で求めたものですから、実際の最適値を求めるためには、現物の回路を解析必要があります(回路解析あるいは回路マッチングと言います)。

4-2 負荷容量と周波数変化の関係

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負荷容量と周波数変化の関係は右のような双曲線を示します。右図は10MHzの一例で、X軸は回路の負荷容量を示し、Y軸は周波数偏差を示しています。
30pFで0ppmですが容量が変化すると周波数もプラス、またはマイナスに変化する様子を示しています。

この変化率は、パッケージサイズや周波数、電極の大きさその他の要素で異なった曲線を描きます。
負荷容量を変化させる(具体的には、回路のCの値を変化させる)ことによって、発振周波数を変化させる事が出来ます。(負荷容量値が小さいほど周波数の変化率は大きいです)
適正な負荷容量値の水晶を搭載しないと、周波数ズレ、その他の問題が起こります。

5. 励振レベル(ドライブレベル)

水晶を発振させるための電力のことです。ドライブレベルを高くしすぎると、スプリアスを起こし易く、発振が不安定になることがあります。
また、ドライブレベルが高すぎると、温度特性において周波数や直列抵抗値の異常なジャンプ変動を起こすことがあるので注意が必要です。3µW以下とか、低すぎる場合も問題が起こることがあります。

大まかな目安としては100µW程度が望ましいですが、パッケージのサイズや周波数、仕様などによって若干異なります。最適値を求めるためには、やはり現物の回路を解析するのがベストです。

DL [ mW ] = I 2 Re
I:水晶振動子に流れる電流

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