自動運転バスが走行している

マクニカでは、横浜市内を中心に運輸から流通、ホテル、不動産開発など幅広い事業を手掛け、サービスを提供する相鉄グループとMaaS事業開発に向けた共創活動に取り組んでいます。

本記事では、相鉄ホールディングス 経営戦略室 ICT推進担当 課長 塩崎匠氏と相鉄バス 企画・安全部(自動運転担当) 係長 高橋潤也氏に話を伺い、相鉄グループのコア事業である運輸事業(バス)の現状と課題、自動運転技術を活用したサービスや、相鉄グループ内のDX推進、グループシナジーの創出など、相鉄沿線における魅力ある街づくりの実現に向けて、お互いの役割を明確にしながら将来の街づくりの姿を議論します。

マクニカでは、数年前から自動運転の社会実装とMaaS(マース:Mobility as a Service)事業創出の取り組みを実施しており、さまざまな自治体・企業と会話をしています。モビリティを活用したサービスを提供するソリューションの必要性を実感しており、機能面・技術面の開発は大きく進んでいます。

実証実験なども実施していますが、自動運転車両を本格導入してモビリティサービスを提供しているプレーヤーはまだ少ない状況です。MaaS事業、さらにその先へ行くためには、次世代モビリティをどのように活用していくのがいいかを考え、組み立てることが重要です。そのような状況の中、直接利用者様にサービスを提供している相鉄グループと、次世代モビリティを活用してどのように事業を創出していくのか、考えていきます。

自動運転導入とMaaS事業創出に向けたプロセスを矢印で説明

相鉄グループは、相鉄HDを持ち株会社とする33社で構成している企業グループです。主に、運輸業、流通業、不動産業、ホテル業という次の4つの分野で事業活動、事業展開しています。

鉄道や住宅、スーパーマーケットなど生活に密着したサービスを展開することで、地域社会の発展に貢献しています。もともとは「相模鉄道」という鉄道会社の中に、運輸業・流通業・不動産業という事業部があり、それらが分社化していった経緯があるため、グループ間の連携は比較的強いといいます。相鉄線は相模鉄道という名前のとおり、神奈川県を走る鉄道会社であり、横浜・海老名間を横断するように、神奈川県の東部を走っています。

最近の大きな取り組みが「都心直通プロジェクト」です。こちらは、JR線・東急東横線の各線を結ぶ線路を新しく作り、相互に乗り入れをする計画です。これにより、相鉄線から乗り換えなしで新宿や渋谷に行くことができます。2019年度にJR線の乗り入れは完了しており、2022年度下期に東急線との乗り入れが完了する予定です。

マクニカのMaaSソリューション

自動運転車両の種類やユースケースや特徴を記載

マクニカは、MaaS支援サービスを提供しており、自動運転車両を活用したサービスの実用化を支援しています。商社ならではの強みを生かし、乗用車だけでなく、バスやカート、トラクターなどさまざまな車両のインテグレーションや顧客に合ったユースケースを紹介できます。

また、トータルサポート、ベストマッチのシステム構築、サービスモデルの設計も特徴です。サービスプロバイダーとして、サービスモデルの設計事業も手掛けており、事業化を支援しています。

自動運転では、以下のように、日本各地で具体的な実証実験や定常運行を支援している最中です。

茨城県境町:自治体として初めて、茨城県境町が 自動運転バスの定常運行を開始
静岡県浜松市水窪町:自動運転の超小型モビリティ「macniCAR-01」による公道実証実験を開始

相鉄バスの自動運転の取り組み

相鉄バスでは、2019年9月から自動運転バスの実証実験を行っています。これは、同業者に先駆ける形で、自社所有の自動運転バスを用いて実証実験に取り組んできました。最初は、横浜市の人気イベント「里山ガーデンフェスタ」の会場シャトル便として、初の大型自動運転バスを走行しました。その際は、5,000人の乗客を運びました。

続けて、2020年7月には、シャトル便ルートを人や自動車が入ってこられない閉鎖環境にし、遠隔監視・操作により運転席無人の大型自動運転バスの走行実証実験を行い、日本で初めての成功例になっています。

2020年10月には、前年に続き同イベント会場シャトル便として、人と車が普通に往来する混在した交通環境下で、遠隔監視・操作により運転席無人の大型自動運転バス走行の実験を行いました。無人の営業運行としては、日本で初めての成功例となりました。自動運転のバスを自社で保有し、実証実験に取り組むことで、結果として技術系の企業から提案をもらえるようになりました。

相鉄バスの実証実験で見えてきた課題を記載

実際に実証実験を行ったことで、さまざまな課題が見えました。もともと自動運転を導入する目的は、地域に受け入れられるのかどうかという、社会的受容性の向上を目指してのことでした。

乗客の反応の中には、運転席に人がいないので最初は「とても不安」という意見が多かったものの、「こういう時代になるんだね」「相鉄さん頑張ってね」という励ましの声をもらうことも多く、意外な感じもしたそうです。

同時に、新しい技術・取り組みが、地域に溶け込む最初の瞬間に立ち会えたような感覚もありました。ただし、「要員がかかり過ぎる」など課題も多く見つかりました。

自動運転の場合は、運転席に人が座っていない分、安全を担保するために要員を増やすのは仕方がないことです。無人で走るということに対して、必要な技術なども見えてきました。実際には、自動運転に必要な技術的な要素はそろっていて、後は場所に合わせてインフラとどう協調し、実装していくのかという点が課題になってきます。

また、自動運転そのものにもっと時間とお金をかけて、質を高めていく選択肢もあります。ただし、商用サービスとしての提供を考慮した時に、非常に高額な車両になってしまうため、事業性という面で難しくなるでしょう。そのため、インフラと協調して、走行する場所や速度などを制限していきながら、徐々に実装していくのが現実的な方法になってきそうです。

現段階では、車両単体として、バスオペレーターの立場では「自動運転化に向けてできることはやり切った」という実感があると高橋氏は話します。

どれだけ車両の完成度を高くしても、道路インフラがないと走れないため、道路インフラ側に、より安全性を高めるための技術を提供できるかも重要な論点となってきます。しかし、それではバスオペレーターの立場を逸脱してしまいます。自社の資産ではない道路に対して、能動的なアクションができるのかが課題になります。

今後、自動運転が社会にふさわしい形で実装されるには、ふさわしい役割分担の方法を考え、仕組みを整備する必要があります。

次世代モビリティを活用したサービス構想

では、次世代モビリティサービスとして、どのような将来の姿をイメージしているのでしょう。

バスの自動運転の実証実験後に見えてきた現実と理想を絵で表示

これまでの3回の実証実験を踏まえると、大型バスの自動運転は「大型バスが街のあちこちに行く」「顧客の目的地に届ける」という面で考えると、ハードルが高いと感じているそうです。大型サイズでは、横浜市によくある狭あい道路や山坂の道路を自由自在に走行するのは難しく、ドライバーの技量が必要になるものだからです。

そのため、大型バスは幹線道路を自動運転で走らせる一方で、マクニカが取り扱っているNAVYA社の自動運転バス車両「ARMA」のようなバスで、毛細血管のような役割で中継地までつなぐという活用方法があります。車両を地域や目的に応じてミックスさせるといった方法も考えているようです。

中継地(ハブスポット)はバスを待つだけの場所だけではなく、カフェなど顧客がくつろげるようなスペースであったり、便利で時間を有効に使えるさまざまな施設を造ったりすることで、地域の活性化につながっていきます。

待合のスペースで新たに消費が生まれ、経済の発展につながれば、地域が活性化し、住環境としての魅力も高まるでしょう。総合的に考えた時に、地域全体の価値も高まります。

また、もともと相鉄グループは、スーパーやホテル、不動産などの事業を手掛けていたため、その強みを生かしていけると考えています。また、こうした街づくりの事業には、デジタルやテクノロジーの力を使って、今以上に横断的な連携が必要と認識しています。

相鉄グループは、生活に密着した事業を幅広く行っているため、1人の顧客が複数の事業に関わっています。多種多様なデータが取れることが強みであるため、このようなデータを活用していき、新規パートナーと共創していくことで、住みやすい街の創出につながると考えていると話しています。

現在でも、地域とクリエイティブな人材が共創する「高架下空間開発計画」や、地域の魅力を生かした体験型・交流型の「ゆめが丘 大規模集客施設開発計画」を進めています。

これらの事業からも分かるとおり、軸は「地域、リアル」です。「リアルの価値を高める手段として、これからもデジタル・テクノロジーを活用していきたい」と話しています。

マクニカとの共創活動

自動運転の実装に向けた取り組みとMaaSを発展させるため、相鉄グループが保有しているアセットを含めて、マクニカとの共創活動という形で、できることについて話し合いを進めています。事業のイメージを共有し、共創を続けていければ良いと考えています。

現在の市場は不確実性が非常に高く、消費者の嗜好(しこう)は多様に変化していきます。このような市場の中で、昔のように1社で垂直統合して何かを大量生産して提供するのは難しくなっています。

そのため、多くのパートナーとお互いの強みを生かして事業を共同で創出していくプロセスが、今後の成功には不可欠な活動です。今回相鉄グループとお話をさせていただきましたが、他のいろいろな企業と同じような活動をしていきたいと考えておいます。

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