地球上に張り巡らされた通信ネットワーク

新たなデータとテクノロジーにより人の可能性を広げ着実に進歩する「学習する世界」の実現を目指し、衛星による観測データを活用したワンストップソリューション事業を行うSynspective社。

本記事では同社の新井元行代表取締役CEOに、小型SAR衛星群から得られるデータによって可能となるダイナミック・プランニングの構想と可能性、強靱(きょうじん)な街作りと災害対応のためのソリューション事業など、同社のVision、実現したい世界観を聞きます。そして同社の事業成果がマクニカの事業とどのようにシナジーを生み出し、共創していくのかを考えていきます。

これからの都市インフラ開発のトレンドとは? 調和のとれたインフラ建設へ

国際連合が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)に世界中の国、企業が注目し、その目標に歩調を合わせた動きを見せています。そうした中、レジリエンスという言葉がよく使われるようになりました。強い回復力を意味するこの言葉は、いま都市開発においても当てはめられようとしています。

災害や人為的な力によって都市が機能不全に陥っても、強い回復力を持ってその機能を復旧させるには、ただ丈夫な橋や道路、施設をその都度造るのではなく、広い範囲で調和のとれたインフラ建設を行い、速いスピードで都市を復旧させる必要があります。

このことは、大規模な自然災害を何度も経験している日本に住む人たちは、すぐに理解できるはずです。強固なインフラが点在しているだけでは、被害リスクを最小化できない可能性があり、それを回避するには、街や都市全体を、避難しやすく、復旧しやすい「インフラ」にする必要があります。これからの都市開発は、強固であるだけでなく、フレキシブルで逐次最適なものである必要があるといわれています。つまり一定程度破壊が起きても、その状況に対応したインフラを作りだせる力が求められているのです。

マクニカでは日本全国で自動運転の実証実験/定常運行をサポートしています。その取り組みから、センサーデータの収集端末も自社開発し、最新の道路状況を実走する車両からデータとして取得する実証も行っています。こうしたテクノロジーを活用することで、自動運転車の開発だけでなく、道路や付近の施設情報を取得して、調和のとれたインフラ作りにも貢献できるはずです。平時は、道路の状況だけでなく、標識などの設置状況も把握することで、人手によるメンテナンス作業を効率化させることができますし、災害発生時には、改めて危険度の把握を素早く実施することが可能となります。

マクニカとSynspectiveのコラボレーションイメージ

マクニカでは主に道路インフラや周辺環境などの地上データを扱いますが、Synspectiveでは主に小型レーダー衛星(SAR衛星)から取得した衛星データを扱います。現在、マクニカとSynspectiveは互いに所有する地上データと衛星データを組み合わせ、スマートシティや建設現場など様々なユースケースにおける活用のため協業を開始しました。

Synspectiveによる衛星データの活用

ここでSynspectiveについて説明しておきましょう。同社は2018年に創業したスタートアップで、内閣府「ImPACT」プログラムの成果を応用してSAR(合成開口レーダー)衛星を開発、観測したデータを販売するとともに、衛星データとマシンラーニングを活用したソリューションの開発、提供も行っています。現在同社の衛星は2機ですが、2030年までに30機以上活用できるようにする予定です。

同社の新井氏は、「衛星が6機活用できるようになると現在週次で取得している各地域の地表データを、日次で更新できるようになります。そして30機になると、2時間ごとに全世界のデータを取得し、3時間以内にそのデータを分析して結果を提供できるようになります」と語っています。

Synspectiveが考える衛生上での情報基盤

SAR衛星は、レーダーセンサーを搭載しており、電波を地表に放射して建設物や道路などの形状、そして地形を1メートル単位の解像度で把握します。それくらい高解像度のデータを、ほんの数秒で、例えば、東京都全体をほぼ包みこめるほどの範囲で取得できるのです。さらにSAR衛星のセンサーは気象の影響を受けず、台風が発生している場所のデータも透過させて取得できます。

もし30機の衛星を周回させれば、大きな災害が起きてから3時間程度でかなり広い範囲の地表の最新データを分析できるのです。そうなれば、もっとも安全な避難場所への移動ルートや、2次災害の危険がある場所も把握できます。このデータ分析機能とAIのアルゴリズムを活用することで、県単位、複数の県をまたいだ広域での避難指示をすぐに出すことができるでしょう。

実際にSynspectiveでは、さまざまな画像撮影の実証実験に成功し、2021年だけに限っても、地盤陥没の予測や海外運輸交通インフラ事業での利用、日本国内上下水道分野でのデータ活用などさまざまな取り組みが開始されています。

例えば太陽光パネルなどの建設においても「地盤陥没などの被害が起きにくく、なおかつ1年でもっともエネルギー効率のいい場所」というオーダーにもすぐに回答できるようになるのです。

また、JICA(国際協力機構)と協業してグアテマラ国の新たな災害リスク箇所を検出も行っています。グアテマラシティの全体傾向として、局所的な地盤沈下現象および陥没・地すべりリスクを示す箇所を確認し、ミリ単位の変動を示していることを把握しました。また特徴的な変動傾向を示す地点に対して詳細な分析を行い、従来の人による調査方法では確認できていなかった新たな陥没リスク箇所を見つけています。

都市計画に真の意味での「グランドデザイン」を

これまでの都市インフラは、正確なデータに基づいて構築された「グランドデザイン」によってつくられていたわけではありませんでした。例えば、東京という都市のインフラを最適化しようとしても、あまりに広すぎてデータが把握できず、ましてやリアルタイムでの変化データなどは取得できませんでした。つまり、いくらデータドリブンで施策を作ろうとしても、データそのものが得られなかったのです。

しかしSAR衛星の運用が今後さらに拡大し、世界各地のデータを低コストで取得できるようになれば、話は違ってきます。衛星データを基に、あらゆる災害や危機的状況をシミュレーションするなど、外部のデータを取り入れ分析することで、まさにレジリエントに最適化された都市づくりも夢ではなくなります。

衛星で見る地図上の河川の状況

©Mapbox, ©OpenStreetMap Improve this map,
©Copernicus sentinel data [2014-2021], ©Synspective Inc.

衛星で見る地図上の河川の洪水状況

©Mapbox, ©OpenStreetMap Improve this map,
©Copernicus sentinel data [2014-2021], ©Synspective Inc.

グアテマラ国での事例のように、データドリブンでリスク判定することにより、属人的なスキルではわからなかった事実もわかるようになります。また東京など日本のような成熟した国の都市では、さまざまな利害関係が絡むので、最適化した都市づくりもなかなかコンセンサスが得られないケースがあります。しかし、データドリブンの施策を進めることで、より調整がしやすい環境が整うはずです。

衛星から得られた高解像度のデータから、例えば河川の氾濫、地震による倒壊リスクなどを分析することで、これまでのハザード情報も大幅に更新される可能性もあり、より多くの人が正確な情報に基づいたリスク回避ができるようになるでしょう。

Synspectiveは、衛星からのデータをそのまま提供するだけでなく、例えば地盤沈下の進行具合がどの程度になるかを分析して提示することもできます。こうした分析情報をもとに、適正なインフラ投資ができるようになりますし、事前の資金調達なども容易になるはずです。

最適な都市開発には、経済的な基盤も強固でなくてはなりませんし、議論を重ね、開発の優先順位を決めたりする場合にも、正確なデータをもとにしなくてはなりません。こうした用途にも衛星からのデータは大いに役立つものとなるでしょう。

ピンポイントのセンサーデータと広範囲な衛星データの組み合わせ

このようにSynspective社が提供するデータや、それをもとにした分析情報は多くのメリットを生み出します。そしてこの情報と、マクニカが提供する道路とその周辺のデータを組み合わせることで、さらに多くの価値が生まれることが期待できます。

自動車に搭載したセンサー機器からの情報は、ピンポイントでリアルタイムに把握される情報です。いわば都市インフラにIoTのシステムを導入したようなものです。災害が発生してから起動するわけですから、事前に設置されたセンサーのように災害で破壊されることなく正確な情報把握ができます。

こうしたセンサー情報は、衛星からの情報をさらに深堀して、より詳しい状況を把握することに役立ちます。自治体単位の広くマッピングされた地表データと、カメラによる映像と振動から得られるセンサー情報を組み合わせ、今何を優先的に行うべきか具体的に理解できるようになるのです。

災害などが発生した際、広域でのリスク情報を衛星データから把握しておき、危険がおきやすい場所などを自動運転車やドローンなどで、ピンポイントで把握することで、市民へのより詳細な情報提供が可能となり、危険を回避できる確率が高まります。

スマートシティプラットフォームを階層化した図で表示

また災害時だけでなく、衛星データで「建設に最適な場所」と判明した場所の詳細な映像とセンサーデータを追加して提供することで、建築物の価値をより分かりやすく説明することが可能となり、資金調達や建設後の利益増大にも役立つでしょう。

このように衛星データとピンポイントでのセンサーデータを組み合わせることで、新しい価値が生まれる可能性が広がっていきます。そうした価値をさらに生み出しやすくするには、データ活用のためのプラットフォームを構築して、さまざまな利用者を呼び込むことも重要になります。

こうしたプラットフォームの構築、運営はマクニカが最も得意とするところです。クラウドを活用することで、さらに手軽に高精度な情報を活用した分析データを取得することができるでしょうし、ユーザーもグローバルに広がっていくことでしょう。

お問い合わせ

本件に関するご質問やご不明点などございましたら、以下よりお問い合せ下さい。