交差する高速道路を走行する自動運転車

自動運転については、運転タスクの主体や走行領域に応じて0~5までの6段階にレベル分けが定義されているが、条件付きで自動運転が可能となるレベル3の解禁をはじめ、無人走行を可能にするレベル4サービスの実用化に向けた取り組みも各地で盛んに行われるようになってきた。

自動運転時代が幕を開け、2020年代はADAS(先進運転支援システム)主体の自動車が次第に自動運転化されていく時期となる。

今回は、レベル3~5の実用化の期待時期、現状の開発状況や課題などをまとめてみた。

自動運転レベル3

自動運転レベル3(条件付運転自動化)は2020年4月に日本国内で解禁されたほか、同年6月に国連の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)において国際基準も成立し、世界的に解禁の輪が広がりそうな状況だ。

一定レベルで自由な移動が可能なEU諸国は国際ルール待ちの面が強かったため、今後国内法の整備とともに一気に解禁の波が押し寄せる可能性がありそうだ。米国は各州の権限のもと実用化されることになるが、速度制限などの諸条件を統一する必要が出てくる可能性も高く、連邦法の動向にも注目だ。

各自動車メーカーのレベル3車両の開発状況

中国では、長安汽車やEV(電気自動車)スタートアップのHuman Horizonsなどがレベル3車両の量産化を2020年内に開始すると発表しており、こちらも政府の動向に注目が集まる。米国・中国ともWP29に参画しており、当面は国際基準に沿った形で解禁するとの見方が強い。

開発サイドでは、独アウディが2017年に発売した「Audi A8」に合わせてレベル3自動運転システム「Audi AIトラフィックジャムパイロット」を発表したものの、法の未整備などを理由に封印したままの状況が続いている。

 

赤いホンダのレジェンド
ホンダ「レジェンド」(出典:ホンダ)

国内では、ホンダが2020年11月にレベル3の自動運転機能を搭載した新型車「レジェンド」で世界初の認可を受け、中国勢より先に「世界初レベル3」の量産車の発売を発表した。 

欧州勢では、独BMWが2021年中にレベル3搭載車両を量産開始する予定であるほか、ダイムラーも2021年にオプションシステム「DRIVE PILOT」によってレベル3機能を追加する予定としている。

2021年に本格的なレベル3市場が幕開け

縦列する3台の自動運転バス「NAVYA ARMA」
茨城県境町で運行する自動運転バス「NAVYA ARMA」

法整備とレベル3搭載車両の両面で見ると、本格的なレベル3市場の幕開けは2021年になりそうだ。当面は好天時における高速道路で時速60キロ以下(渋滞時)といった狭いODD(運行設計領域)での運用になる見込みだが、自動車メーカー各社のレベル3車両が出揃い、公道で一定の実績を積み重ねれば、時速80キロ以下の走行や車線変更も可能になるなど次第にODDは拡大し、実用域に達するものと思われる。

先立っては、2020年11月から茨城県境町で自治体初の取り組みとして、公道におけるセーフティドライバー付きの移動サービスの運用が開始されており、法律上ではレベル2に該当するが、技術的には実質レベル3相当を実現している。当社マクニカがBOLDLYと協力して仏NAVYA製の自動運転バス「NAVYA ARMA」を導入し、町内の生活路線で定常運行してる。

 

また、矢野経済研究所が2019年5月に発表した自動運転システムの世界市場に関する調査によると、レベル3が搭載された新車搭載台数は2020年に800台、2023年に22万台、2025年に約370万台、2030年に約373万台と予測している。2030年頃まで右肩上がりの成長を続ける見込みのようだ。

ADAS/自動運転システムの世界市場規模予測グラフ・表

ADAS/自動運転システムの世界市場規模予測(出典:矢野経済研究所

自動運転レベル4

特定のODD内でドライバー不在による運転を可能にするレベル4(高度運転自動化)は、セーフティドライバー付きを条件に世界各地で実用実証が進められている。

米国では、2018年に米グーグル系Waymo(ウェイモ)がレベル4自動運転タクシーサービスをアリゾナ州で開始し、翌2019年には一部のユーザーを対象にセーフティドライバーなしの運行も実現した。2020年には、対象を一般に拡大している。

官民ITS構想・ロードマップ2020における計画

国が策定した「官民ITS構想・ロードマップ2020」によると、生活道路などの混在空間や、廃線跡やBRT(バス高速輸送システム)専用空間といった限定空間においては、それぞれ1カ所程度でセーフティドライバーによる監視付きのサービスを開始して徐々に対象を拡大し、2023~2025年を目途に遠隔監視のみの自動運転サービスを数カ所で開始する目標を掲げている。

また、工場や空港などの閉鎖空間においても2020年度から数年間で遠隔監視のみの自動運転サービスを開始し、徐々に拡大していく方針だ。

一般乗用車では、レベル3の実現を踏まえた上で、高速道路の入口から出口まで自動運転が可能なレベル4の市場化を2025年目途と見込んでいる。

配送を担う自動運転配送サービスも、自動運転移動サービスの技術を応用する形で限定地域において2021年度以降の実現を図っていく構えだ。

自動運転システムの市場化のロードマップ

自動運転システムの市場化・サービス実現のシナリオ(出典:IT総合戦略本部「官民 ITS 構想・ロードマップ 2020」)

海外で著しい新興勢力の台頭

開発サイドでは、ウェイモのほかIT関連の中国百度やロシアのYandex、配車サービス大手の米Uber(ウーバー)や中国Didi Chuxing(ディディチューシン)、中国スタートアップのWeRide、Pony.ai、AutoXなど、移動サービスを見越した新興勢力の台頭が著しい。

自家用車向けでは、スウェーデンのボルボ・カーズが2020年5月、LiDAR(ライダー)開発を手掛ける米Luminarとの提携を発表し、その中で高速道路向けの完全自動運転技術「Highway Pilot」に言及している。早ければ2022年にも生産を開始する予定のようだ。

なお、前述の矢野経済研究所によると、レベル4及びレベル5の新車搭載台数は2020年に7,100台、2023年に約21万台、2025年に約180万台、2030年に1,530万台と大きく数字を伸ばし続ける調査結果となっている。

自動運転レベル5

一切の制約なく完全自動運転を実現するレベル5(完全運転自動化)は、自動運転開発における1つの到達点と言える。走行エリアや道路、速度、天候条件、時間帯など、条件を選ばずにいつでもどこでも走行することを可能にする夢のモビリティだ。

それ故、当然ながらハードルは高い。道路交通を取り巻く全ての不確定要素をクリアしなければならないのだ。煩雑な道路や歩道との境界がない道路を、豪雪・豪雨下においても平時同様に走行するのは困難を極める。「現在考えられる技術では実現困難」とする著名なエンジニアも決して少なくない。

日本や欧州連合のレベル5に対する考え方

官民ITS構想・ロードマップ2020ではレベル5について「レベル4の機能を、ODDの限定なく実現する自動運転システムであると定義され、技術的レベルは非常に高い」「レベル5の自動運転の実装には相応の時間を要することが想定される」とし、具体的な実現目標は明記していない。

海外では、欧州連合(EU)の欧州委員会が「全ての新車がコネクテッド化された後、2030年代にレベル5となる完全自動運転が標準となる社会を目指す」と掲げている以外、レベル5の実現に言及したロードマップそのものがほとんど存在しないのが現状だ。

道路を走行するコネクテッド化された自動運転車

イーロン・マスク氏がレベル5の実現に言及

一方、民間レベルでは、米EV大手テスラのイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)が2020年7月、中国で開催されたカンファレンスでレベル5に関し「近く実現するだろう」と語っている。また、共同通信グループのアジア特化媒体「NNA」が発表した中国の主要・新興EVメーカーのCASE戦略分析結果によると、「ほとんどの企業が2030年までにレベル5を実現させるべく開発を進めている」という。

多くは漠然と2030年代を目標に掲げている印象で、上記のテスラなどは少数派にあたるが、将来技術として各社が研究開発を進めていることは間違いない。

高度なレベル4を実現する段階に達すれば、レベル5が見えてくる可能性もある。例えば、少々の悪天候下においても、高精度3次元地図が整備された全ての道路で完全自動運転を行うことができるといった具合だ。

レベル4以上を実現する際の課題

青いて法律天秤とテクノロジー

無人運転を可能とするレベル4以上を達成するには、自動運転システムの技術面以外でも課題がある。

まずは法整備や国際基準だ。移動サービスを主体に社会実装が始まるレベル4は、多くの場合許認可形式で実現するものと思われる。特定のODDにおいて、どのような自動運転システムを搭載した車両でどのようなサービスを提供するか、その都度判断するイメージだ。

こうしたサービスを普及させるには、無人運転などを可能にする法整備と、実用化に関する具体的なガイドラインを策定する必要があるだろう。その過程でODDも整理され、比較的実現しやすいODDから高度なレベル4を要するODDに至るまで明確に体系化されるものと思われる。

もう1つは、自動運転に関するインフラ整備だ。高精度3次元地図や路車間通信システム(V2I)の整備をはじめ、場合によっては一般道路においても自動運転車優先道路を設けるなど、道路交通環境そのものを変えていく必要がある。

このほかにも、サイバーセキュリティの向上や社会受容性の醸成など課題は多岐に渡るが、レベル4の実用実証とともに次第に解消されていく面も多い。レベル5の実現に向けた官学民総出の取り組みは、まだまだ始まったばかりだ。

自動運転は2020年代に大きく前進

レベル3やレベル4の社会実装はまもなく本格化し、2030年頃にかけて進化と普及が図られていくことになりそうだ。

果たして10年後にはどれほどの技術水準に達しているのか。レベル5の片鱗は見えているのだろうか。今後の研究開発にいっそう注目していきたい。

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