第二回 同期整流コンバーター回路での入出力コンデンサーの選定方法

本連載は、コンバーターICの評価ボードのリファレンス回路を題材に、各種ディスクリート部品の選定における重要な特性について解説します。解説をする際に、個々の特性についてLTspice を用い、部品の定数または、部品自体を変えて、回路上での変化をシミュレーション波形や算出した値で確認を行い、特性と回路の関係を解説します。今回は、同期整流タイプの降圧コンバーター回路に必要な入出力コンデンサーの選定方法について、コンデンサーの特性が与える影響などを、シミュレーションを用いて確認しながら解説していきます。

また、解説の際に用いるLTspice や評価キットなどは以下をご参照ください。

【LTspice のダウンロード / 使い方について】

LTspice ダウンロードページ(Analog Devices 社ホームページにリンクします)

*LTspice の使い方について知りたいという方は以下の当社記事をご確認ください。

LTspice を使ってみよう!


【使用している評価ボード/搭載されているレギュレーター/ボード購入情報】

・評価ボード: DC2958A概要ページ(Analog Devices 社ホームページにリンクします)

LT8609 同期整流降圧レギュレーター(Analog Devices 社ホームページにリンクします)

・評価ボードDC2958Aは Macnica-Mouser.jp にて販売しております。(Macnica-Mouser.jp にリンクします)


(注意)
 本記事は、上記のコンバーターIC LT8609の周辺部品(コンデンサー)の選定方法について記載するものではありません。あくまでコンデンサーの特性をLTspice上で確認するためのサンプル回路例として使用しています。

目次

各コンデンサーの役割
 ・入力コンデンサー
 ・出力コンデンサー

コンデンサーに要求される特性

選定の際に重要になる特性
 ・定格電圧
 ・DCバイアス特性
 ・等価直列抵抗:ESR
 ・等価直列インダクター:ESL

過渡応答
 ・負荷変動:1Aの電流を急峻に立ち上げ、100μs間流し、急峻に立ち下げる
 ・負荷変動:1Aの電流を緩やかに立ち上げ、100μs間流し、緩やかに立ち下げる

コンデンサーを配置する位置
 ・抵抗分の影響
 ・インダクター分の影響

1.各コンデサーの役割

電源ラインには、純粋な直流成分しか存在しないのが理想ですが、実際の電源ラインの入力には電源ICのスイッチングによる充放電や入力電圧の変動のリプル電流が発生します。また、出力部にも出力電圧のリプルノイズが発生します。入力コンデンサーは、リプル電流を許容し入力電圧を安定させる役割とともに、リプル電流に起因するノイズを低減する役割があります。また、出力コンデンサーは、インダクターとLCフィルタを構成し、出力電圧を平滑化すると同時に、出力電圧のリプルノイズの低減を行います。一方、負荷側の急激な変化(過渡応答)時に対応する役割があります。

今回は、「LT8609 同期整流降圧レギュレーター 評価ボード: DC2958A」の回路図を、入力回路と出力回路の2つの部位に分けて考えて行きます。入力回路のノイズ対策用コンデンサーはC6で、出力回路のノイズ対策用コンデンサーはC4です。

(1)入力コンデンサー

電源ICがスイッチング動作を行うと、その際に充放電時のリプル電流が発生します。また、入力電圧の変動によるリプル電流も発生します。このリプル電流が、配線の寄生インダクターと抵抗によって、電源ICの入力電圧のノイズになります。入力コンデンサーは、電源ラインに対して、グランドラインにノイズの原因となる過渡電流を分岐する方向で接続します。このようにすると、入力コンデンサーは、これらのノイズを低減し、電源ICの入力電圧を安定させます。

《ポイント》

  1. 電源ICのスイッチングによる充放電時のリプル電流を許容し入力電圧を安定させる。
  2. 入力リプル電流に起因する入力電圧の変動を抑制する。

(2)出力コンデンサー

電源ICのSW出力は、インダクターとコンデンサーでLCフィルタを構成し、平滑化しなければなりません。これが出力コンデンサーの最も重要な役割です。さらに、VOUTから出されるリプルノイズを低減する役割もあります。また、負荷が過渡的に変動する場合でも、電圧変動に対応して、安定した電圧を供給する必要があります。これも出力コンデンサーの大切な役割です。

《ポイント》

  1. インダクターとLCフィルターを構成し出力電圧を平滑化する。
  2. 出力電圧のリプルノイズの低減。
  3. 負荷側の急激な変化(過渡応答)時に対応する。

2.コンデンサーに要求される特性

電子回路上でコンデンサーを取り扱う時は、静電容量のみを考慮しますが、これは理想的な場合で、実際のコンデンサーには寄生の抵抗成分とインダクター(コイル)成分があります。抵抗成分を等価直列抵抗(Equivalent Series Resistance:以降ESR)と言い、インダクター成分を等価直列インダクタンス(Equivalent Series Inductance:以降 ESL)と言います。略称をESIではなくESLと呼ぶのは、一般的な電子回路ではインダクターはLで表すからです。等価回路は次のようになります。

ESRとESLはそもそも寄生要素なので、小さい方が理想的です。したがって、実際のコンデンサーを選ぶ場合も低ESR、低ESLのものを選びます。ESRESLの値はデータシートを見ると記載されています。

ESR、低ESLのコンデンサーと言えば、積層セラミックコンデンサー(Multi Layered Ceramic Capacitor:以降 MLCC)です。MLCCは、構造上他のコンデンサーに比べて低ESR、低ESLを実現できるため、高周波でもコンデンサーとしての働きを保ち続けることができます。すなわち、MLCCは高い周波数になるほどノイズを除去するのに効果的で、高性能なフィルターを形成すると言えます。

しかし、MLCCの静電容量は周辺温度によって変化します。これは、MLCCに使用されている材料によるものであり、メーカーに関係なく、どのMLCCでも起こる現象です。そこで、MLCCの温度特性は、日本工業規格(JIS)とアメリカ電子工業会(EIA)によって定められた基準が使われています。これらの基準では、温度補償用と高誘電率系に分けられています。温度による静電容量の変化に違いがあり、各特長に応じた使い分けが必要になります。温度補償用の場合、温度係数の単位は(ppm/)で、高誘電率系は(%)です。同期整流コンバーター回路などでは高誘電率系で十分です。例えば、温度特性記号がX5RX7Rで表されるレベルのものであれば十分使えます。X5Rは、-55+85℃、静電容量変化率 ±15%で、X7R -55+125℃、静電容量変化率±15%です。

《ポイント》

  1. 低ESR(等価直列抵抗)、低ESL(等価直列インダクター)のものを使う。
  2. 温度特性はX5R(-55~+85℃、静電容量変化率 ±15%)や、X7R (-55~+125℃、静電容量変化率±15%)であれば、十分に安定した温度特性を得ることが可能。
  3. 一般的には、MLCCを使用する。

<コラム:MLCCの種類>

コンデンサーにはいろいろな種類があります。セラミックコンデンサー、タンタル電解コンデンサー、アルミ電解コンデンサーなど、使われている材料によって分類されています。MLCCは小型ですが容量範囲が広く、ノイズ除去や電源電圧の平滑化、フィルター回路など様々な用途で使われています。MLCCは、セラミック(誘電体)と電極を多層化した構造から、小型化を可能にしています。

MLCCには、温度補償用と、高誘電率系の2種類があります。

  1. 温度補償用 温度変化による静電容量の変化率が小さく、スナバ回路(FETスイッチなどの切り替わり時に発生する高周波リンギングを吸収するノイズ対策回路)やソフトスタート等の時定数回路用に使用されます。一方、原料の比誘電率が高誘電率系に比べて小さいので、静電容量を大きくできません。
  2. 高誘電率系 原料の比誘電率が大きいので、小型で大容量が得られることが特長です。しかし、温度特性に幅があるので、電源回路の入出力の平滑回路やデカップリングコンデンサーとして使用されます。

3.選定の際に重要になる特性

(1)定格電圧

コンデンサーには定格電圧が規定されています。コンデンサーの端子間に印加される電圧は、必ず定格電圧以下にします。「印加される電圧」とは、通常の使用状態における印加電圧の他に、サージ電圧、静電気、スイッチON-OFF時のパルス、リプル電圧などの異常電圧も含みます。定格電圧を選ぶ際は、ディレーテング(Derating)を考慮して、定格電圧の70~80%以下で使用する前提で選びます。

《ポイント》

  1. 定格電圧は最大入力電圧より高い必要がある。
  2. ディレーテングを考慮して、定格電圧の70~80%以下で使用する。

(2)DCバイアス特性

コンデンサーの実効静電容量値が、印加される電圧により変化する現象を電圧特性と言います。直流電圧を印加する場合の電圧特性をDCバイアス特性、交流電圧を印加する場合の電圧特性をACバイアス特性と言います。同期整流コンバーター回路では直流電圧がコンデンサーに印加されるので、DCバイアス特性が重要な検討要素になります。

DCバイアス特性は、コンデンサーにDC電圧を印加した時に、実効的な静電容量が変化(減少)してしまう現象です。この現象は、チタン酸バリウム系の強誘電体を用いた高誘電率系MLCCに特有のもので、誘電体がセラミック以外のコンデンサーや、温度補償用MLCCではほとんど起こりません。特性変化のイメージは下図のようになります。高誘電率系MLCCの中でも、温度特性(X5RY5Vなど)が異なるとDCバイアス特性も変わってきます。型番によりDCバイアス特性は異なりますので、具体的な特性は各メーカーのデータシートや仕様書、技術ノートを確認してください。

DCバイアス特性などで静電容量が変化すると、どのような影響が出るかを考えます。

静電容量Cだけを考えると、周波数が高くなるにつれて、インピーダンスが小さくなります。また、静電容量の違いで、ノイズ除去や平滑化の効果が変わってきます。そこで、シミュレーションを使って、入力コンデンサーC6の静電容量を変えてみて、入力電圧の状態をチェックします。

シミュレーションを行う回路は図1のようになります。シミュレーションモデルを実際の回路に近づけるために、配線(ケーブルなど)を考慮し、疑似的な抵抗(R4=0.01Ω)とインダクター(L2=100nH)を付加します。また、コンデンサーからICまでの配線の影響も考慮し、コンデンサーC6と直列に抵抗(R5=0.001Ω)とインダクター(L3=0.01nH)を付加します。

画像 図1.入力コンデンサーのシミュレーション回路
図1.入力コンデンサーのシミュレーション回路

入力コンデンサーC6の静電容量が1μFの時と、10μFの時を比較すると。明らかに10μFの方が、安定していることがわかります。

次に、出力コンデンサーに着目します。出力コンデンサーC4の静電容量を変化させてみて、出力電圧の変動を観察します。シミュレーションを行う回路は図2のようになります。ここでも、シミュレーションモデルを実際の回路に近づけるために、コンデンサーからICまでの配線の影響も考慮し、コンデンサーC4と直列に抵抗(R6=0.001Ω)とインダクター(L4=0.01nH)を付加します。

画像 図2.出力コンデンサーのシミュレーション回路
図2.出力コンデンサーのシミュレーション回路

出力コンデンサーC4の静電容量が4.7μFの時と47μFの時を比較すると、4.7μFの場合は電圧にうねりができていますが、 47μFの方は比較的安定していることがわかります。

《ポイント》

  1. MLCC(高誘電率系)は、印加電圧により実効容量が減るDC バイアス特性を考慮する必要がある。
  2. DCバイアス特性は、各メーカーのwebページ等で確認できる。
  3. 選定の際は、容量減少率を考慮して選定をする。(使用する電圧での容量減少率を確認)

(3)等価直列抵抗:ESR

ESRについては、各製品のデータシートに記載されています。等価回路上では一定値ですが、実際には周波数により変化します。特性のイメージとしては下図ようになります。選択の基準は、ESRの最小値を参考にします。ESR特性も、型番により異なるので、具体的な特性は各メーカーのデータシートや仕様書、技術ノートを確認してください。

一方、コンデンサーの等価回路はRLCの直列回路ですので、周波数特性に共振点を持ちます。共振点とは、L成分とC成分が打ち消し合ってR成分だけになる周波数です。
共振点ではR成分だけがインピーダンスとして現れますので、共振点のインピーダンスがESRと等しいと考えられます。データシートなどにESR値、またはESR特性が記載されていない場合は、周波数特性からESRを求めることができます。周波数特性のイメージは下図のようになります。これも、型番により異なるので、詳しくは各メーカーのデータシートや仕様書、技術ノートを確認してください。

シミュレーションを使って、ESRが実際の電源回路に、どのような影響をあたえるかを確認してみます。

最初に入力コンデンサーC6ESRの影響を確認します。静電容量が10μFESR1.5mΩと15mΩの時を比較します。シミュレーション回路は図1を使います。シミュレーション結果からESR1.5mΩの方が電圧の変動幅が小さいのがわかります。

次に、出力コンデンサーを見てみます。出力コンデンサーC4 の静電容量は47μFで、ESR1.0mΩと10mΩを比較します。シミュレーション回路は、図2です。シミュレーション結果から、ESR1.0mΩの方が電圧の変動幅が小さいのがわかります。

《ポイント》

  1. MLCCは、基本的に低ESRを選ぶ。
  2. ESR値は、各メーカーのwebページ等で掲載されているESR値、または周波数特性から確認できる。

(4)等価直列インダクター:ESL

前述したように、コンデンサーの等価回路はRLCの直列回路ですので、共振周波数f0は、

で求まります。Cは静電容量で、LESLです。共振周波数は周波数特性を見るとわかりますので、この式からESLを逆算することができます。

シミュレーションを使って、ESLが実際の電源回路にどのような影響をあたえるかを確認してみます。まず、入力コンデンサーC6ESLの影響を確認します。静電容量が10μFで、ESL0.1nH1.0nHを比較します。シミュレーション回路は図1を使います。シミュレーション結果から0.1nHの方が電圧の変動幅(リプルなど)が小さいのが明確です。

次に、出力コンデンサーに着目します。出力コンデンサー静電容量が47μFで、ESL1.0nH10nHを比較します。シミュレーション回路は図2です。シミュレーション結果から、ESL1.0nHの方が電圧の変動幅が小さいのがわかります。

ここで、入力コンデンサーと出力コンデンサーのESLの影響を比較してみます。

回路上にあるインダクターに電流が流れると、L(di/dt)で表される電圧変動が発生します。電流の変化分(di/dt)が大きければ大きいほど、電圧変動が大きくなります。電圧変動を極力小さくするためには、回路上にあるインダクター成分(コンデンサーのESLと配線の寄生インダクター)を極力小さくしなければなりません。そのためには、低ESLのコンデンサーを用い、コンデンサーの実装パターンを極力短くして、配線の寄生インダクターを極力小さくします。

入力側に流れる電流Iin=I(L2)+I(R5))は下図のようにパルス状の電流になります。

一方、電源ICのSW端子出力はPWM波形になります。そのPWM波形をインダクターとコンデンサーで平滑します。この時、L1に流れる電流ILは、三角波状になります。入力側に流れる電流に比べると電流変化は小さいですが、このような三角波状の電流が流れても出力コンデンサーで極力変動の小さい電圧にして、負荷に供給しなければなりません。

入力側の電流波形と出力側の電流波形を比較してみると、入力側の電流はパルス状の電流変化で、出力側の電流は三角波状です。入力側での電流値の変化率(単位時間当たりの電流変化量)が出力側と比べてかなり大きいので、入力側の方が出力側に比べ、ESLやコンデンサーの実装パターンの寄生インダクターの影響が大きく出ることがわかります。

《ポイント》

  1. MLCCは、基本低ESLを選ぶ。
  2. ESL値は、各メーカーのwebページ等で掲載されている周波数特性から確認できる。
  3. ESL値は入力側での影響が大きい。

4.過渡応答

次に、負荷が急峻に変化した際の出力コンデンサーの役割について考えます。

出力コンデンサーは、負荷が急峻に変動した時に発生する電圧変動を抑える役割も担っています。そこで、C4の静電容量を4.7μF / 47μF / 100μ3種類で、負荷が急峻に変化したときの過渡応答をシミュレーションでチェックします。負荷は電流源の負荷を付加して、急峻に負荷電流を流します。シミュレーション回路は図3のようになります。

画像 図3.負荷変動のシミュレーション回路
図3.負荷変動のシミュレーション回路

(1) 負荷変動:1Aの電流を急峻に立ち上げ、100μs間流し、急峻に立ち下げる

負荷変動は1Aです。立ち上り時間も立ち下り時間も0sに設定して、急峻に変化さています。負荷電流を流す時間は100μsです。シミュレーションの結果の図では、負荷電流を緑色で示しています。この結果から、静電容量が大きい方が、電圧の変動幅は小さいですが、変動が収まるまでに時間がかかることがわかります。

(2) 負荷変動:1Aの電流を緩やかに立ち上げ、100μs間流し、緩やかに立ち下げる

C4の静電容量は同じ条件で、負荷電流が100μsで立ち上がり、100usで立ち下がる場合もシミュレーションしてみました。負荷電流を流す時間は同じく100μsです。
この場合も、静電容量が大きい方が、電圧変動が緩やかです。

《ポイント》

  1. 負荷変動が大きい場合に電圧変動を抑えるには、大きな静電容量を選ぶ。

5.入力コンデンサーを配置する位置

コンデンサーからICまでの配線も、電圧変動に影響を与えますので、コンデンサーは電源ICの直近に配置するようにします。図1には、コンデンサーからICまでの配線の影響も考慮し、コンデンサーC6と直列に抵抗(R5=0.001Ω)とインダクター(L3=0.01nH)を設けていますので、抵抗分とインダクター分をそれぞれ変えてみて、電圧変動の影響をチェックします。

(1)抵抗分の影響

R5の値を、0.001Ω0.01Ω0.1Ωと変更してシミュレーションを行うと下図のようになります。0.001Ωと0.01Ωでは、目視での差は確認されませんが、0.1Ωの場合は、明らかに電圧が変動しているのがわかります。

(2)インダクター分の影響

L3の値を、0.01nH0.1nHと変更してシミュレーションを行うと下図のようになります。0.01nHと比べると0.1nHの方が、明らかに電圧が変動しているのがわかります。

《ポイント》

  1. 入力コンデンサーに関しては、電源ICの直近に配置する事が重要。

ディスクリート部品の特性を理解して回路設計技術を向上しよう!

昨今、製品の早期市場投入のため設計期間がタイトになっています。実績あるデザインやリファレンスデザインを活用しても、回路最適化のためディスクリート部品の選定はしなければなりません。その時、拠り所となる選定方法をこの技術記事でお伝えします。