~マクニカが今、「ディスクリート部品」に焦点を当てる理由とは~

近年、製品の迅速な市場投入が要求され、製品設計がよりタイトになっています。設計プロセスを短縮するため、スクラッチで回路を検討していくことは、ほとんどなく、メインICのリファレンスデザイン、または、既に周辺が設計されているモジュール製品を活用した回路設計を選択される方が多いのではないかと思います。一方で、メインIC周辺のディスクリート部品の特性を理解し、回路に応じた部品選定を行う機会は往々にしてありながらも、十分な時間がかけられず、なかなかケアできていないというのが回路設計の実情ではないでしょうか。実際、「ダイオードやコンデンサーはリファレンスデザインにあるものをそのまま使用しています」「リファレンスデザインの仕様を少し変更したら不具合が出てしまいました」といった声も多く聞かれます。

今回、新たな技術記事企画『ディスクリート部品の特性を理解して回路設計技術を向上しよう!』をスタートします。
なぜ今、マクニカが「ディスクリート部品」に焦点を当てることを選んだのか?ここでは、その経緯を紹介します。

「現場の課題を解決して頂くために、何をお客様に提供できるのか?」が出発点

1972年の創業から半導体事業を展開しているマクニカ。社員の3人に1人が技術者で、半導体の技術サポート、基板のPoC開発、パートナー企業との連携による企画・設計などを通じて、お客様のものづくりを支援しています。

さまざまな技術情報を公開している半導体事業のウェブページは、非常に多くの方に閲覧頂いています。とりわけアクセスが多いのは「センサーとは?」「インターフェースとは?」といったHow To系記事です。これらの記事は常に拡充しているものの、記事を検討するメンバーでミーティングを持った際に、参加メンバーから「実際にものづくりをしているお客様が必要としているのは、どのような情報なのだろうか?」と疑問が投げかけられました。

マクニカには多くの技術者がFAE(フィールドアプリケーションエンジニア)として、日々お客様に伴走して技術サポートを行っており、「現場のお客様の課題」を生で感じられる立場にあります。その技術者が「今」お客様のサポートを行っていて感じる、お客様の課題に基づいて「マクニカとして、お客様に提供できる本当に役立つ記事はどんな記事なのか?」を考えた時これでよいのか?悩んだことが、今回の企画の出発点でした。

技術サポートの現場から見たお客様の現状

では、実際に現場でお客様の支援をしているFAEはどのように感じているのか。お客様をサポートするFAEにヒアリングをしたところ、「当社で取り扱っているCPUFPGA など基板上でメインとなるキーデバイス についてはよくご存じなのですが、ディスクリート製品に関する製品の特性や振る舞いについて、サポートの依頼を受けることが多い」ことがわかりました。

また、ヒアリングの結果として、「リファレンスデザインに仕様変更を加えたら不具合が発生してしまった」というお問合わせも多くあることがわかりました。その中でも、ディスクリート部品の定数が最適化されていないことが不具合の要因になっているケースが目立ちます。

本来、リファレンスデザインの仕様を変更する際は、実際に回路を動作させた時の部品の振る舞いを想定して「ここは余裕のある数値にしておこう」といった定数の調整などが必要になります。ところが、最近はそうした「周辺部品の知見や経験知」が薄れてしまい、リファレンスデザインを変更しても定数を最適化しないまま、そのままの部品が使われている事が多く見受けられます。ここ数年のコロナの影響もあり、技術的な経験知の伝承が難しくなっているのではないかと感じましたが、そもそも、経験から獲得した知見は、人から人に伝承されにくいのかもしれません。

「Time to Market」優先せざるを得ず、基礎を知るチャンスが減少

背景として考えられるのが「Time to Market(市場投入までの時間)」を優先せざるを得ない市場環境ではないでしょうか。グローバルの競争環境において、直接的にも間接的にも競合する製品が増加している中で、製品を早期に市場に出し、競争の激しい市場を占拠しなければなりません。迅速な市場投入を実現するためにも、回路設計に使える時間は年々短縮されているのではないかと推察します。

もちろん、半導体メーカーも回路設計の現状を理解し、豊富なリファレンスデザインや、部品を集約したモジュールを提供しています。これらはディスクリート部品の配置や定数があらかじめ最適化されています。そのため、設計者が部品に関する検討時間を大幅に短縮し、コアとなる技術開発に注力することを可能にします。

一方、便利なツールを利用することで回路がブラックボックス化している側面があるのも事実です。技術者がコアとなる製品の周辺情報を知る機会は減り、同時に、これらを知らなくても設計が可能な状況ができています。

このように市場環境やそれに応じたツールの開発が進んだことにより、技術者は、ディスクリート部品を詳しく検討する時間や、経験豊富な技術者から回路設計技術を学ぶ機会を、持てなくなっているのが実情ではないでしょうか?

経験知やノウハウ伝承の難しさと影響

こうした状況の先に危惧されるのは、品質への影響です。

豊富な知見を蓄えるアナログ技術者の高齢化が進む一方、社内で技術伝承を行う機会がなくなってきているのが実情ではないでしょうか。ベテラン技術者が現場を離れるにつれて、設計をする上での経験知やノウハウが失われていくことは、ものづくりにとって大きな痛手です。

また、これまで日本のものづくりでは、不具合が発生すればその要因を追究し、改善するプロセスが一般的に行われてきました。もし今後、技術者から経験知やノウハウが失われていくと、問題発生時に問題の根本原因まで至れず、表面上の解決にとどまってしまう可能性もあります。

マクニカだからこそ提供できる情報を発信したい思い

こうした仮説に基づいて「マクニカだからこそ提供できる価値は何か?」を検討した結果、今、お客様が求めている部品の観点から「私たちが現場で吸収した経験知やノウハウ」を、お客様の設計に具体的に役立てて頂けるような情報として発信することを目的にして、今回の企画に至りました。

ディスクリート部品を扱う時に「こうするとうまくいく」という具体的なノウハウや、「なぜ、このように設計するのか」という本質的な理解のきっかけとなるコンテンツを提供したいと考えています。

例えば、ディスクリート部品の使い方によって、電源の品質は大きく左右されます。部品の特性を理解して選定することで「電源効率の向上」「発熱の抑制」「製品寿命の延長」など、さまざまな面での品質向上が図れます。

この企画では、マクニカのFAEが保有する技術ノウハウを、誰にでも読んで頂ける形で公開します。こうしたノウハウを蓄積できたのも、当社をご愛顧頂いているお客様のおかげと思っております。当社が得た経験知を、技術コンテンツを通して、少しでも皆様に還元できればという思いで技術記事を作成していきます。

今後の記事作成の方向性

今後しばらくは、電源回路を中心に、回路シミュレーター「LTspice(R)」を使いながら、さまざまなディスクリート部品を選定する際のノウハウを紹介します。

単に部品の特性だけを記載するのではなく、実際に部品を「選ぶ」場面を想定して、シミュレーターの波形や効率値を確認。「部品が電源回路の中でどのように振る舞うか」「選択した部品によって、電源効率はどのように変化するか」といった、現場の設計に役立つ情報を、実際の数値を交えながら解説します。電源回路で使われるダイオード、コンデンサー、MOSFET、インダクタといったディスクリート部品を1つずつ取り上げていく予定です。

その後は、実際に発生した不具合の事例に基づいて、要因や回避方法を解説する「トラブルシューティング」のようなコンテンツを検討しています。

また、お客様から「記事を読んでこう感じた」「実はもっとこういうテーマを知りたい」といった「生の声」をいただき、企画に反映することも考えています。

ものづくりの今後に向けて。当企画に対する思い

今回の企画をきっかけに、お客様ご自身でシミュレーション等を使ったディスクリート製品の特性確認を習慣化して頂けると、日々の製品設計の助けになると思います。問い合わせをしなければ解決できない!と思っていた課題をご自身で解決できるようになれば、疑問の解消が早まります。また、そうした経験が積み上がることで、知識や技術の底上げにもつながります。

ハードウェアは、しっかりと動作することは当たり前と思われるかもしれません。しかし、そこには、「縁の下の力持ち」という言葉のように、回路設計者の日々の努力と研鑽による技術の結晶が詰め込まれています。日本で培われたハードウェア設計の技術が「なくてはならないもの」でありつづけてほしい。不可欠なピースの1つに組み込まれるような、価値の高い回路設計をお手伝いすることで、日本の技術がもっと注目を浴びてほしい。マクニカはそう願っています。

マクニカが保有する技術ノウハウを公開することで、この記事をお読みいただいた皆様のスキル向上や、製品の品質向上につながれば、このうえない喜びです。
1人でも多くの技術者に、今回の技術情報を活用して頂けることを祈っています。

ディスクリート部品の特性を理解して回路設計技術を向上しよう!

昨今、製品の早期市場投入のため設計期間がタイトになっています。実績あるデザインやリファレンスデザインを活用しても、回路最適化のためディスクリート部品の選定はしなければなりません。その時、拠り所となる選定方法をこの技術記事でお伝えします。